少子化対策には、子育て支援ではなく、働き方改革
子育て支援を軸とした少子化対策
少子化が進行し続ける日本。2023年の合計特殊出生率は1.2だった。少子化対策として様々な施策を行ってきたが、少子化解消の目途は未だに立っていない。
2024年6月、政府は少子化対策として「子ども・子育て支援法」を改正した。内容は、子どもを軸にした給付と、働き方改革の推進の大きく2つに分けられる。歳出3.6兆円のうち約8割の3兆円が、児童手当の支給対象延長や、第3子以降の支給額増額など子どもを軸とした給付で、残りの0.6兆円が働き方改革の推進に充てられている。
つまり、子どもを軸に給付額を増やせば、少子化が解決するという前提のもとに政策が行われている。
これまでも給付による子育て支援中心の少子化対策が行われてきた。しかし、少子化解消の目途は立っていない。そのため、給付による子育て支援中心の少子化対策には限界があると考えるべきである。
では、少子化解消のために何をすべきか。働き方改革を推進する必要がある。
子どもを産まない原因は経済不安
まず、大前提として、少子化対策と言っても、国民が子どもを欲しがらなければ子どもの数は減少する。しかし、様々なデータを見ると、理想は2人以上の子どもが欲しいと思っている人が多いことがわかる。つまり、理想の子どもの数と、実際の子どもの数にギャップが生じているのは間違いない。理想の子どもの数が生まれれば少子化はすぐにでも解決に向かう。
また、子どもを産みたくても産まない原因は、どのデータにおいても経済不安が一番となっている。
とは言え、そのデータをもとに、子どもを持つ家庭や持つ予定の家庭に対して経済的支援を行うことは対症療法にしかならない。
非正規雇用は消極的な選択
なぜ経済不安が発生するか。それは、日本の労働環境にある。そのうち、女性の非正規雇用を中心に、日本の労働環境を考える。
「女性は非正規雇用を積極的に選択している。」と言われることが多い。非正規雇用の職に就いている理由として、「自分の都合のよい時間に働きたいから」という理由が最たるものとなっているからだ。また、「正規の職員・従業員の仕事がないから」という理由は1割もない。これらのデータから、「女性は非正規雇用を積極的に選択している」と分析される。
しかし、これは男女の役割に差があるという現状を肯定した上のデータではないか。
女性が非正規雇用を選択する理由のトップ3が「自分の都合のよい時間にはたらきたいから」「家計の補助・学費等を得たいから」「育児・家事・介護と両立しやすいから」である。つまり、男性が稼ぎ、女性が育児や家事の大体を担うといった男女の役割がある前提で女性が非正規雇用を選択しているのではないか。
こうした観点から考えれば、女性は積極的に非正規雇用を選択しているのではなく、(男女による役割の差をやむを得ないものとしたうえで)消極的に非正規雇用を選択していると考えることができる。
逆に言えば、女性の家庭における負担が少なくなるような働き方が社会に根付けば、女性も正規雇用を選ぶようになるのではないか。
女性に家庭の負担が大きく偏れば、家庭と仕事の両立ができなくなる。また、男性に経済的な負担が偏り、男性が経済的余裕を生み出すことができなければ、家庭としての経済不安により子どもを産むことができなくなる。この男女による役割の差が、女性が非正規雇用を選択する原因を生み出し、それが少子化を加速させている。
男女による家庭の役割の差
では、日本では、家事や育児をどの程度女性が担っているのか。男女共同参画局のデータによると、女性は1日あたり224分、男性は41分無償労働を担っている。つまり、男性より女性が育児や家事を行う時間は5.5倍長いということだ。
他国と比べると、韓国を除く欧米諸国の男女比は2倍程度で、日本は家庭における負担が大きく女性に偏っていることがわかる。
ちなみに韓国は日本以上に、急激な少子化が進んでいる。因果関係までは断定できないが、男女の家庭における役割の差と少子化の関係性をうかがうことができる。
また、こうした男女の役割が社会に根付くことで、Ⅿ字カーブを生み出す。M字カーブとは、女性の年齢別労働力率をグラフ化したときに、アルファベットの「M」のように見える現象だ。結婚や出産で離職、育児が落ち着いたタイミングで復職する人が多いことでこのようなグラフになる。
これも同じく日韓に同様の傾向がみられ、逆に欧米諸国では、山型のグラフになる。山型のグラフからは、育児や結婚を理由に離職することなく、仕事をし続けることができる環境が社会に根付いていることがわかる。
働き方改革による経済効果
ここまで見てきたように、男女の家庭における負担の偏りが社会に根付いていることで、女性が非正規雇用を選択する。また、人生の転換点で離職をすることによるⅯ字カーブも発生している。
もし女性の労働力率が男性のそれと同程度まで上昇すれば、2040年時点のGDP減少幅を40兆円抑えることができる。言い換えれば、女性が働けない要因を解消すれば、40兆円もの経済効果が生まれる。単純に1億人で割れば、一人当たりの40万円の経済効果がある。
とは言えこれには、結婚や出産により離職せずとも働けるような環境を整える。また、男性がより育児や家事に参加できるような労働環境を整える。こうした働き方改革が実行されることが前提になる。
働き方改革が少子化を解消する
日本ではこれまで給付による子育て支援中心の少子化対策を行ってきた。しかし、これに限界があることは、少子化解消の目途が立っていないことから明らかであり、働き方改革を行っていく必要がある。
働き方改革として、家庭と仕事の両立がし易い労働環境にする必要がある。これは、女性が働きたいと思える労働環境を作る必要がある。それと同時に、女性の育児や家事への負担を減らすために、男性が育休、有休を積極的に取れ、男性も家庭に参加する理解が広がる必要がある。
また、再就職の支援も必要だ。出産や育児などを機に離職した女性が、一旦退職した企業に再就職することができるようになれば、女性も安心して育児をでき、経済不安も解消される。
これらの働き方改革は、政府が推し進めることには限界がある。ただ、子育て支援を中心とした少子化対策から働き方改革を中心とした少子化対策を行う必要がある。
それと同時に、それぞれの企業が積極的に働き方改革に取り組むこと、それぞれ一人ひとりが意識することのすべてが必要になる。
とにかく、少子化対策として子育て支援を行うことは対症療法にしかならず、根本の原因を解消するために、政府、企業、個人すべてによる働き方改革を行っていく必要がある。