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トレイルラン 死を感じる瞬間

トレイルランをしていると、時々「ここで死ぬかもな…」という瞬間に出会う。もちろん実際には命を落とすような危険な状況に直面することは稀だが、ランナーの脳内妄想は山道を駆ける風よりも速く、そして時に暴走するのだ。

例えば、急登の最中。体感では45度、いや90度くらいの斜面を登っている気分になる。「ここ、滑ったら転がり落ちて最後は崖の底でアニメのように星になっちゃうのでは…」と想像しつつ、ふと後ろを見ると同じく苦悶の表情を浮かべたランナーがこちらを見ている。「ここで滑って僕が転がり落ちたら、あの人はどんな顔をするんだろう…」などという余計なことを考えた瞬間、死よりも笑いの方が近くなる。

また、山の天候が急変するのも「死を感じる瞬間」だ。晴れだった空が一瞬で暗くなり、風が唸り声を上げる。「これは嵐か…いや、伝説の山神が怒り出したのか…!」と怯えながら走るうちに、ポツンと立っている一本の木を発見。「この木、雷に打たれたら俺も道連れになるのでは?」と木から全力で離れるが、次の瞬間、気づく。「どこを走っても木しかない!」

そんな時、後ろから追い上げてくる中年ランナーの声が響く。「あれ、さっきまで雨降ってなかったのに!お兄ちゃん、傘持ってる?」――いや、傘さして山走る人いる?その緩い一言に恐怖は吹き飛び、死よりも「山の空気、いいなぁ」という気分に切り替わる。

そして何よりも、「死を感じる瞬間」を確実に引き寄せるのが補給切れだ。山の中でカロリーが尽きたときの絶望感といったらない。脚がガクガク震え、視界が少しずつ狭まり、頭の中で冷蔵庫に眠るチョコレートが踊り出す。すると突如現れるのが、キラキラと輝くエイドステーション。「ここは天国か!?」と思った瞬間、現実が追い打ちをかける。「残念、次のエイドまであと5kmだよー!」とスタッフの笑顔。――鬼か!?

けれども、そんな死を感じる瞬間も、ゴールにたどり着いたときにはすべて笑い話になる。死を感じるほど辛かった道のりが、振り返れば宝物のように思えるから不思議だ。そしてまた次の山へと走り出すのだ。「今回はちゃんと補給忘れないぞ」と心に誓いながら。

ただし、次回も必ず何か忘れて死にかけるのが、トレイルランナーの性(さが)である。

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