絶叫マシンならぬ絶叫歯科:親不知抜歯アドベンチャー
親不知を抜くという行為は、ジェットコースターに乗る心境と驚くほど似ている。最初は、全くの他人事だと思っていた。友人や同僚が「抜いたよ」とか「地獄だった」とか言っているのを聞いても、自分には関係のない遠い出来事だと感じていた。しかし、ある日突然その順番が回ってくる。「君の番だ」と歯医者に告げられた瞬間、ジェットコースターの乗り場に立たされ、いやでも乗車を余儀なくされる感覚に襲われるのだ。
まず、診察室という名の乗車待機所に呼ばれ、先生という名のアトラクション係が淡々と手続きを進めていく。冷静に説明してくれるが、内容はもはやチケットの裏に書かれた「このアトラクションは心臓の弱い方には不向きです」といった注意書きに等しい。麻酔を打つときの軽い痛みは、ジェットコースターがゆっくりと動き出す最初の坂道を登るときの、あの不安感と同じだ。「今のうちにやめれば良かった」と思うが、すでにベルトがしっかりと締められているため、降りることは許されない。
次に始まるのはあの、登り坂の「ガタガタガタ…」という音。歯医者では、これはドリルの音だ。歯が揺れるたびに、心臓が鼓動を打つ。自分の頭の中で勝手に最悪のシナリオを描き始め、歯が砕け散るイメージや口内出血の映像が流れ出す。これはジェットコースターの頂上で一瞬止まるあの瞬間とそっくりだ。いっそこのまま麻酔が効きすぎて意識を失いたいとすら思うが、現実は容赦ない。
そしてついに、あの急降下が始まる瞬間がやってくる。歯医者ではこれが抜歯そのものであり、実際のところ、体験は音と感覚のカオスだ。ガリガリと何かを削られたり、グッと引っ張られる感覚。金属の工具が口の中で踊り狂い、まるでアクロバット飛行を強制されているかのような錯覚に陥る。しかし、痛みはほとんど感じない。麻酔の力で物理的な痛みは和らいでいるが、その代わりに精神的な恐怖感が倍増するのが厄介だ。
ようやく「抜けましたよ」と先生の声がする頃には、急降下が終わった後のような放心状態に陥っている。麻酔の影響で口の中は腫れた感じがし、唇が自分のものではないような違和感に包まれる。これはジェットコースターが終わり、足が地面に着いているのにまだ浮遊感が残っているあの瞬間だ。安堵と恐怖が入り混じり、少しの達成感と「もう二度と乗らないぞ」という誓いが心に刻まれる。
それでも、振り返ってみると笑い話のように思えるのが不思議だ。友人に「親不知抜いたんだ」と報告すれば、まるでジェットコースターを乗り終えた直後のように、「あれはキツかったけど、まぁ何とかなったよ」と肩をすくめる自分がいる。心の中では二度とやりたくないと思いながら、どこかでその恐怖を楽しんでいた自分を再確認する瞬間でもあるのだ。