トレランとイケメン
トレイルランニングをしていると、山道を駆け抜けるイケメンランナーたちに出くわすことがある。彼らはだいたい、山の斜面を駆け上がるときのフォームも完璧だし、まるでカメラマンでもいるかのような完璧な笑顔を見せる。見ているこちらは「これぞトレラン!」と思う反面、「まったく、この山にイケメンなんかいなくてもいいのに…」と、心の片隅で嫉妬の炎がメラメラと燃え上がるのだ。
まずイケメンランナーは、その登場シーンからして違う。登山口でストレッチをしている姿はまるでCMのワンシーンみたいだ。自分が「まだスタートもしてないのに汗が出てきた」と息を整えているとき、彼らは清涼感たっぷりに、なんなら軽いジャンプでウォーミングアップだ。トレランの始まりは彼らにとってはスポーツウェアのファッションショーか何かなのだろうか?
そして、いざ山道に足を踏み入れると、イケメンランナーの真の力が見える。私がひいこら言いながら岩を越えたり、土の道で足を滑らせたりしている間に、彼らは軽々とその障害物をかわしていく。「シャドーステップ」「スカイフライング」みたいなヤンキー漫画風の技名をつけたくなるほど、見事な足さばきだ。ときどき後ろから私の様子をうかがって、「大丈夫ですか?」なんて声をかけてくるものだから、こちらは思わず「え、えぇ、大丈夫です!」と、普段使わない敬語が口から出てしまう。
途中、山の急斜面で息が上がり、立ち止まってしまったときのこと。そんなときにも、イケメンランナーたちはさりげなくサポートしてくれる。まるで山の王子様のように「無理せずゆっくりでいいですよ」と笑顔で励ましてくれるのだ。こちらはもう、「い、いや、そもそも私はマイペースで行く主義ですから!」と強がりを言うのが精一杯。その姿を見て「おぉ、ペースもいい感じじゃないか!」とまた軽く微笑むもんだから、こっちは心臓がドキドキしてくる。
そしてついに山頂に到着したとき、彼らは何食わぬ顔で、完璧なイケメンポーズをキメる。どんな風の向きでも、まるで風を味方にしたかのような爽やかさでポーズをとる。私は一方でゼーゼーと肩で息をしながら、ようやく辿り着いた感に浸っているだけだというのに、あの完璧さよ。そもそも山頂での「イケメンポーズ」って何?空気の薄い山の上でもきちんと決めるあたり、もう彼らは訓練済みなんだろうか?思わず「山頂イケメンポーズ禁止令」を頭の中で発令する。
それでも、自分も少しは見栄を張りたくなって、真似して山頂でカメラに向かってポーズをとってみるが、結果はひどいものだ。髪の毛は風に乱れ、疲れ切った表情がすべて写真に刻まれる。スマホの画面を見て、思わず「なんだ、これ?」と自分にツッコミを入れたくなるほど。その横でイケメンランナーは、撮影後の確認もせずに、そのままさっそうと山を下っていく。自分の写真に目もくれないあたり、もはや「山頂ポーズのプロフェッショナル」だ。
彼らはまた、山を降りるときも美しい。「クイックターン」「バタフライジャンプ」みたいな技を駆使して、岩や木の根を軽々と飛び越え、まるで障害物がないかのように滑らかに進んでいく。私はと言えば、慎重に足場を選びつつ、「転ばないように!」と一歩一歩踏みしめている。彼らはもう数メートル先にいるけど、後ろを振り返り「気をつけてくださいね!」なんて一言を投げかけてくれる。この場面、まるで映画のワンシーンみたいだが、実際の私は「転ばないように!」の心配で頭がいっぱい。
でも、そんなイケメンランナーの姿を見ていると、自分も少しずつ刺激を受ける。もちろん、イケメンランナーになりきれるわけではないし、テクニックも真似できないが、少なくとも「自分なりに山を楽しむ」という大切なことを思い出させてくれる存在ではある。「速さや見た目にこだわるんじゃなくて、自分のペースで山を味わうことが大事なんだ」と心から感じる。
だからこそ、また次の山でイケメンランナーに出会ったときも、きっと私は彼らの背中を見ながらマイペースで進むだろう。そして山頂にたどり着いたときは、やっぱり密かにポーズをキメるだろう。カッコよさなんて自分には似合わないのはわかっているけど、「山頂ポーズ」に挑戦する気持ちはイケメンと同じ…いや、もしかしたらイケメン以上かもしれない。
そんなふうに、イケメンたちに触発されながら、自分なりのトレランライフを楽しむのである。