【小説】ある技官、その妻とトキのぬいぐるみ　第３５話

第３５話　ぼく、きいちゃん。ひっこしするの。

　みんな、こんにちは。
　ぼく、きいちゃん。
　みかちゃは、ぼくをぬいぐるみだっていうの。あっちゃは、ぬいぐるみっていっちゃだめって、みかちゃにいうの。
　あっちゃのちゅーとんち、かわるから、ひっこしするんだって。
　ダンボールたくさんきたの。うしさんのからだのもようで、しろ、くろ、しろ、くろ……。きいちゃん、め、チカチカチカしちゃうの。
　みかちゃ、こわいかお、さみしいかおで、ダンボールいろいろいれる。いっぱいいれると、ガムガムテープはって、ふたする。
　よる、あっちゃがダンボール、どんどんたかくするの。だって、ダンボールどんどんふえて、ゆか、あるけなくなるから。あるくのは、みかちゃとあっちゃだよ。ぼくはね、あるけないの。
　うしさんダンボールいっぱい。ぼくとみかちゃ、いるよ。しろ、くろ、しろ、くろ…、なんかこわいなぁ……
「きいちゃん」
「なになに？　みかちゃ」
「きいちゃんはどうやって引越しする？」
「みかちゃ、あっちゃといっしょ」
「うん、そうだね。ダンボールに入ってく？」
　みかちゃのめ、キララっして、ぼくのからだもって、ダンボールなかいれた。
「きゃああああああ」
　ぼく、ないたよ。くらいダンボールなか。こわいよぉ～～～
「きいちゃん！　ごめんごめん。冗談だってばぁ」
　みかちゃ、ぼくのからだもって、ダンボールからだした。
「いじわるみかちゃ、きらい！」
「ああ、ごめん。きらいにならないでぇ」
　みかちゃ、ぼくのあたまナデナデ、からだ、ギュッする。
「く、くるしよ～～～～」
　ぼく、わざとおおきなこえ、したよ。
「あ、ごめん。これくらい？」
　みかちゃ、やさしくなる、うれしぃな。
　おじちゃん、いっぱいきた。うしさんダンボールもって、かんしゃでてく。ぼく、みかちゃバッグから、そっとみたよ。みかちゃ、ちいさいこえ。
「きいちゃん、おとなしくしてえらいね。お外のトラック見てみる？」
　みかちゃ、バッグのぼく、だっこして、まどのそとみたよ。おおきなトラック、ふたつあったよ。おじちゃんたち、どんどん、うしさんダンボールいれてる。ふうん、あれでひっこしするんだね。

※美花の口出し
　美花です。きいちゃんが、皆さんにどうしてもお話したいというので、今回初めてきいちゃんの回にしました。（私がきいちゃんにした悪戯をばらされちゃいました。ごめんね、きいちゃん）きいちゃんにとって初めての引越しです。どうか皆さん、あたたかい目で見守っていただけると、とてもありがたいです。親ばかならぬ、持ち主ばかですみません。どうぞよろしくお願いします。　

　おおきなトラック、ふたつ、いったよ。
　あっちゃのくるま、あっちゃ、うんてん。ぼく、みかちゃのひざのうえ、バッグなか。
「しゅっぱーつ」
　バイバーイ、からすのママ。バイバーイ、つぅむぎちゃん。バイバーイ、つぅむぎちゃんのママ、つぅむぎちゃんのともだち。
　おじちゃんたち、トラックと、あっちゃ、みかちゃ、ぼくきいちゃんのくるま、おいかけっこするんだって。
　こうそくどーろ、はしってるの。
　ぼく、うたうよ。

♪　あたらしい　ちゅーとんち　とおいから　
　　あっちゃのくるま　はしるんだ～
　　ランランラン　たのしいなぁ

♪　みかちゃ　にこにこ　なになーに
　　だってね　みかちゃママとパパ　ちかくいく
　　ともだち　いっぱい　ちかくいく
　　だかーら　みかちゃ　にこにこに～　にこにこに～

「あれ、なになに？」とぼくきいちゃん。
「あれは湖だよ」とみかちゃ。
「琵琶湖ばい」とあっちゃ。

♪　みず　いっぱい　あるところ
　　みずうみ　だって　びわこ　だって
　　おおきいね～～　きれいだね～～
　　あめ　いっぱい　はいってるぅ

　ぼく、うたうと、あちゃとみかちゃ、わらう。うれしい。だから、ぼく、うたう。
　こうそくどーろ、ずっとはしるよ。ランランラン、たのしいなぁ～
　あっちゃ、うんてん、つかれちゃったの。おやすみするよ。
　サービスエリア、はいったの。くるま、くるま、くるま……。きいちゃん、はじめてみた。くるま、いっぱいだよーー。
「ぜんぶのくるま、ヒトいる？」とぼく、きいちゃん。
「いるばい」とあっちゃ。
「いるよ。みんな、車運転して、ここに来たから」とみかちゃ。
　うわわわわぁ。フードコートより、いっぱいヒトいるんだねぇ。
　あっちゃとみかちゃ、おなかすく。なあんだ。フードコートにてるね。うどん、たべるのは、あっちゃとみかちゃ。ぼく、ごはん、たべられないの。
　みかちゃ、バッグから、ぼくみたよ。みんな、たくさんいて、たべて、のむ。いいなぁ。おいしいの？　きいちゃん、トキだから、たべられないのかな？　だけど…ぼく、トリのトキ、あったことない、わからない……
「きいちゃん、ここで休んで、時間調整するよ」
「なになに？」
「あたしたち、仮眠するから、きいちゃんも寝よ」
「うん！　きいちゃん、ねる」
　ねるの。ぼく、め、とじられないの。けど、ねるの。

　ぼく、おきたの。あれれ？　ここ、どこ？？？
「きいちゃん、着いたんだよ」
「みかちゃ…、あっちゃ…」
「やだぁ、きいちゃん、ずっと寝てたからね。寝ぼけてる？」
　ぼく、みたよ。かんしゃ。ん？　おんなじだよ？　しかくで、まどあって、いろおんなじ、なぜなぜ？　かえったのかな？　
　だけどね、あたらしいちゅーとんち、かんしゃ、なんだって。どこでも、みんなおんなじ、たてものなんだってさ。ふうん。
　ぼく、きいちゃん。みかちゃ、あっちゃと、いつもいっしょなの。
　みんな、まったねぇ～。