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【フィールドノート/東海地方】浜松・豊橋へ、初めての旅(その1)

 名古屋へ

 もともとは名古屋に行くつもりだった。だが、急に思い立って浜松を訪ねることにした。理由は、これまで行ったことがなかったから。

 まず、大阪難波から近鉄の特急「ひのとり」に乗り、名古屋へ。そこからJRに乗り換えて東に向かう。ここで、ちょっとした出来事があった。名古屋駅には近鉄とJRの連絡改札口があるが、そこで間もなく大府行きの普通電車が発車すると分かった。急いでトイレを済ませ、ホームへの階段を上ったのはよかったが、最後の1段でつまずき、こけてしまった! 幸い、膝を打ったものの、足の爪が少し傷ついたぐらいで大過なかった。なんというか、こんなところでこけるとは、自分も歳を取ったなぁと感じる瞬間だった。結局、乗った電車はしばらく走って大府まで。そこで後から来た豊橋行きの快速に連絡したのだから、急いで乗ることもなかったわけだ。

 新居の関所

 今回の旅では、往路の「ひのとり」と浜松の宿しか予約しておらず、何の計画も立てていなかった。朝の車中で考え、東海道の新居(あらい)の関所に行くことに決めた。

 新居町駅で下車し、西へ5分ほど歩くと関所跡がある。江戸時代の関所の建物がそのまま残っているという稀有な場所だ。近代になって、小学校や町役場、公民館など公的施設として転用されていたようで、そのことが保存につながったのだろうか。

 建物は意外に簡素だったが、すぐ前に船着き場があり、舞坂からここまで1里ばかりの距離を渡し船に乗って往来したのだという。新居の関は、別名「今切(いまぎれ)」の関という。つまり、浜名湖が海とつながっている(陸が切れている)箇所があって、そこを渡船で突っ切っていたわけだ。関所を置く場所として最適なポジションだ。古びた資料館には関所の資料が展示されており、解説が付けられている。新居関所は、吉田藩が管理を受け持っていたという。現在の豊橋に居城を置いていた藩だそうだ。

新居関所

 芸妓の置屋

 新居は、街もおもしろかった。紀伊国屋という昔の旅籠が再生されている。そして、少し裏通りへ入って行くと、かつて芸妓の置屋だった建物が現存していた。大正期ぐらいのものらしい。案内してくれた地元の方によると、以前は10軒ほどの置屋が残っていたが、ここが最後の1軒となり、町が買い取って保存・修理したという。

 昔は、この建物の裏に芸妓の寮があって、彼女らはそこから渡り廊下を通り、裏の梯子段から2階へ上がって、客の相手をしていたそうだ。
2階には4、5部屋あって、往時の雰囲気を留めていた。

 前の通りは幅5、6m程だが、かつては道幅の半分が水路だったという。そこに船を曳いて荷を運搬していたそうだ。さすが浜名湖のある街、水と暮らしが密着していたわけだ。

新居にあった芸妓置屋

 浜松へ

 午後4時。新居町から浜松への普通電車は混んでいた。浜松駅のホームは昔ながらの雰囲気だが、駅ビルが出来ており、改札を通って北口へ出る。

 いくつもの商業ビルが建ち、なかには超高層もあって驚く。テナントの看板も、ユニクロや無印良品はもちろん、H&Mといった文字も見え、ブランドショップもある。遠鉄百貨店は老舗らしいが、想像以上に都会的だ。浜松市の人口が約78万人ということは知っていたが、たぶん県庁所在地の静岡市より繁栄しているのではないか、と思わせた。

 ホテルにチェックインするまで、1時間ほど街を歩いてみる。出発前、今回は予備知識なしに訪問してみようと思っていた。でもやっぱり何か見たくなって、昭和初期に発行された鉄道省『日本案内記』の中部編だけ見ることにした。そこには、浜松市の市街図が掲載されていて、駅とお城の位置関係、官公庁や劇場があった場所などはだいたい把握できた。それを思い出しながら、まず駅を出てすぐ西側に進んでみた。広場を抜け横断歩道を渡ると、もう繁華街である。千歳町。昔は劇場などもあったよう。いまでは飲み屋街の様相を呈している。ここから北へ。鍛冶町、そして田町。大好きな「うなぎパイ」の春華堂の本店が見える。この辺は雑多な飲み屋街という感じ。でも広い通り沿いには静岡銀行の支店があって、これは戦前の立派な建築だ。

浜松にはレトロな建物も残る

 飲み屋さがし

 夕方に知らない街を歩くと、大抵 “飲み屋さがし” になってしまう。歩きながら、ひとりで入れるようないい店がないか、見まわしている。静岡銀行の裏手には細い路地があり、焼鳥屋やスナックが軒を並べていた。スナックに入る趣味はないのだが、焼鳥屋ならいけるかも。路地の入口の通りにも、何軒かよさそうな飲み屋がある。

 その北側に進むと飲み屋街から外れた感じになる。来る前に教えてもらっていた古びた天ぷら屋がある。西の肴町は一番飲み屋が多そうな印象があり、あと1、2時間もすれば賑わうような予感がする。あたりをぐるぐると回遊した。浜松の飲み屋街は、どうやらこの辺りにコンパクトに集中しているようで、今晩もこのエリアに来ることになりそうだ。

 伝馬町の交差点から北に向かう。この大通りはかつて東海道だったそうで、浜松城大手門跡という表示もある。五社神社にお参りし、お城の近く、市役所前まで歩く。陽は傾いてきたが、暑さに耐えかねてお城は明日訪ねることにした。お寺もある池町を通って、駅前に戻った。

 街の雰囲気はだいたいつかめたので、歩くのはこれで終わりにして、遠鉄百貨店に入り、無印良品でTシャツを1枚買った。ホテルにチェックインして、そのTシャツに着替えて再び街に出た。例の路地の入口にあったRという居酒屋に入る。カウンター席に座って独り呑んでいると、年配のおじさんとおばさんが隣席に座ってきた。そのうち、何とはなしに会話になり、おじさんは僕のことを「見たことあるね」といい加減なことを言うから、「今日初めて来たんですよ~」と軽く応じながら、おもしろおかしく話は弾んだ。浜松餃子も食べ、地酒も飲んで、楽しい一夜になった。(その2につづく)

夜の浜松、田町辺り


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