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なまえをよんで

リリカルマジカル……じゃなかった、名前を呼んだら友だちになれるって話ではなくて、「名前を"ちゃんと"呼ぼうよ」というのが今回のお話。

実はこの話題、ここまで何度かディバインバスターを撃ってきたつもりですが、それでは全然足りないみたいなので、この機会にスターライトブレイカーをぶちかましていきましょう、という記事です。一体なんのこっちゃ…


気になってしまったきっかけ

日本酒好きな皆さんはおそらくご存じのことと思いますが、去る2022年5月11日、茨城県結城市の結城酒造が火災にて全焼しました。

消失した酒蔵は国登録有形文化財にも指定されていた古い木造の建物で、火災対策をしっかりと施すことが難しかったこともあり、1日の火事であっさりと消失してしまいました。
痛ましい事故ではありますが、火事自体に対する追求は、今回の主題ではないので割愛いたします。

ちなみに、土木技術者の方が今回の火災を防げなかった遠因や、他にもある同様の建物における再発防止の観点でnote記事を書かれておりましたので、こちらで紹介しておきます。ご参考まで。

ところでこの結城酒造、杜氏の浦里美智子さんのお人柄もあると思いますが、なかなか人気のある蔵元で、各地で「飲んで応援」キャンペーンが開催されたり、義援金窓口が開設されたり、また酒販店や飲食店に義援金窓口に送金するための募金箱が設置されたりと、様々な支援の手が早々に差し伸べられています。
火災を受けての、蔵側の想いはこの記事あたりをご覧いただくと良いのかなと思います。

しかし、応援するメッセージの投稿を見かけると、あれ?って思うことがあるのです。

「『結(ゆい)』を飲んで応援します!」
「『結ゆい』の結城酒造の再建を応援するための義援金窓口はこちらです」

あれ、ここの代表銘柄の名前って、一体どう呼ぶのが正しいんだろう…?


と言っておきながら

実は、私自身は過去にも同じことを考えたことがあり、過去にもTwitterアンケートで聞き取り調査をしてみたことがあります。

「飲める」ってなんやねん、「読める」や!(どーでもいい)

この銘柄、正しくは『結ゆい(むすびゆい)』といいます。

代表銘柄「結ゆい」の由来(結城酒造公式サイトより)

このような思いを込めた名前で、よく見るとふりがなも振ってありますね。

ちなみに、実はこういうこともあったりします。

山口県周南市の中島屋酒造場が『結(ゆう)』という銘柄のお酒を出しているんですね。
もしかしたらこの他にも同じ名前の銘柄はあるかもしれませんが、
 ・『結』という銘柄は別に存在すること
 ・結城酒造の代表銘柄は『結ゆい(むすびゆい)』であること
この2点については認識しておいてください。

では何故、『結(ゆい)』と覚えてしまっている方、そう呼んで発信している方が散見されるのでしょうか?


なんで正しく覚えられないの?言えないの?

間違えの善し悪しは一旦さておき、名称を分析してみましょう。

代表銘柄「結ゆい」の由来

『結ゆい(むすびゆい)』は。以下の要素から出来ています。
  『結(むすび)』+『ゆい』

『結』という文字は、『結城』という地名に内包され、モチーフとした伝統工芸品である『結城紬』、そして『結城酒造』にも用いられています。
また、『結び(むすび)』というのはメッセージにも込められていますね。

『ゆい』というのは、『結び』という言葉の意味のなかでも『結う(ゆう)』という動詞的なニュアンスも合わせ持ちます。
また、『結』という字は『ゆい』と読むことも出来ます。

つまり、『結ゆい』というのは、『同音同義語』を2つ重ねた構造を持つ、と言えるわけですね。

同様の言葉を挙げると、以下のようなものがあります。

・犬ドッグ
・鳥バード
・エテモンキー
・少年ボウイ
・チゲ鍋
・クーポン券
・アイヌ人

これらは全て、『異なる言語での同義語を2つ重ねた言葉』です。
最初の4つは一般的用法ではないエキセントリックなやつなのでさておき、それ以外は日常的に聞く言葉ですが、言われてみると不思議な用法ですよね。

しかし、結ゆいの場合は、これに加えてもうひとつ要素があります。

 『結』を『ゆい』と読むことが出来るんです。

同音同義の二字熟語は以下の例がありますが、いずれの例も『熟語としての読み方と、同音である共通の読み方が一致しない』ということがわかると思います。
 ・『河川』かせん:かわ
 ・『絵画』かいが:え
 ・『樹木』じゅもく:き
 ・『道路』どうろ:みち
 ・『繁茂』はんも:しげ(る)
 ・『豊富』ほうふ:と(む)
 ・『計測』けいそく:はか(る)

しかし上記単語は、よく見ると「熟語としてのもう1文字の読みが、もう1字が取りえない音を為している」という特徴があります。

例えば『道路(どうろ)』は、
 ・『道』は『みち』とは読めるが『ろ』とは読めない
 ・『路』は『みち』とは読めるが『どう』とは読めない
という組み合わせの言葉ですね。
これらは一般的な言葉なのもありますが、記憶することに何か障害があるようには見えないと思います。

ここで改めて『結ゆい』はどういう構造かと分析すると、
 ・『結』は、『むすび』とも『ゆい』とも読める
 ・『ゆい』はひらがな

…ちょっとこれ、インプットする難易度高すぎません…?

たしかに、『結』には『むすび』とふりがな振ってありますけど、ふりがなの文字は小さいですし、『結(ゆい)』って書いてあるように見えてしまうのも仕方ないのではないでしょうか…

ホント、どうしてこんな名前を付けちゃったのか…?

まぁ、邪推はいろいろできると思いますが、付けた理由自体はあくまで『意味論(ブランドに対する願いとか)』と『音の響き』が主体で、その他の見地まで深く考えられてはいなかったのではと推測されます。
この銘柄名を決める場に、仮にも言語学や認知科学に通じた専門家が居合わせたとしたならば、おそらく反対していたのではないでしょうか。

しかし、既に名前は決定され、世に広まり、認知されています。

そうなったら考えるべきことはもはや、
 ・この名前はちゃんと受け入れて、尊重しよう
 ・この先付けられる名前に、同じ轍を踏ませないようにしよう

ということでしかありませんよね。

我々は既に、『結ゆい』を『結ゆい』として、愛してしまっているわけですから。


『既に名付けられた名前』への向き合い方

もはや、「ちゃんと覚えろ」くらいしか言えることがないんですよね。

愛称的に略して呼び習わすにせよ、
「誤用や読み間違えに捉えられる表現は極力避けましょう」
くらいしか、言えることが無いのではないでしょうか。

私見としては、
 ・口頭で『ゆい』と呼ぶのは、浸透しているし読み間違いでもないのでアリ
 ・テキストで『結』と書くのは、他銘柄との区別もあるので微妙
 ・テキストで『結(ゆい)』と読みまで書いちゃうのは、完全な誤用なので無し
と思っています。あくまで個人的感覚に基づく意見ですが…

呼ぶ側の個人それぞれに考えもあるかもですが、
「せっかく想いを込めて名付けたんだから、そのとおりに呼ばれる・覚えられるのが一番いいはずだ」
が私なりの結論です。


あと、これはガチの苦言ですが、なまじインフルエンサーの自覚がある人は特に気を付けてくださいね。
今回の件で、特約店さんや他の蔵元さんすら、銘柄名を間違って発信していた方が散見されました。ホント影響考えてください。
あなたがそう言ったことをきっかけに、間違って覚えちゃう人がたくさん出てきちゃうんですよ…。
ファクトチェックが大事なのもそうだし、そもそも自社で取り扱ってる商品名くらいはちゃんと覚えてくださいよマジ。


これから先の『名付け』への提言

もはや、気を付けてね、としか…

意味論や音の心地よさだけで名前を付けがちですが、中立的第三者にも意見を聞いてから決めることをオススメします。

でも、その人に先に商標を取られちゃわないようにだけは気を付けてね…
直近大問題になってる事例とか、先回りで商標取られちゃって名称変更を余儀なくされた事例をゆっくり眺めつつ)


以上で、この件はお開きとなります。
今までに何度もこの件が気になる波が襲ってきましたが、同じことを繰り返すばかりでいい加減飽きてきました←

かいさん!!

"歌う唎酒師"、ヒューぽん@よいどれクソメガネです。SSI認定唎酒師、情報処理安全確保支援士、日本酒/焼酎/ビア/ワイン/スピリッツナビゲーター。都内東側在住のよっぱらい男子です https://huepon.tumblr.com/