【母の遺作】きつねがひろった ひかるもの
寒い冬の朝。
きつねのコン太は、すの中で、目をさましました。
「うーん、たいくつ!ちょっとさんぽしてこよう」
コン太は、森のほそみちを、とことこ、かけていきました。
(ここを、もう少し行くと、かおる子ちゃんの家のよこにでるぞ)
コン太は、わかれみちの所で、そう思いました。
「そうだ!かおちゃん、もうおきてるかしら?」
かおちゃんは、春になったら一年生になる女の子。コン太とは、森の中で、友だちになったのです。
コン太は、しもばしらが白くたってる道をつまさきだちで、あるいていきました。
すると、道のまん中にキラキラひかるあおい”もの”。
コン太は、ひろいあげると、つぶやきました。
「星のかけらかしら?寒いばんには、流れ星が、いくつも、いくつもおちるって、前かあさんがいってたもん」
手の中で、ころんと、ころがしてみます。
のぼってきた おひさまの光の中で、それはキララッと光りました。
コン太は、”それ”をおひさまにすかしてみました。なにか、しまもようのようなものがみえます。
「たいへん、だれか、とじこめられてる!ほしのかけらじゃなかったんだ。だって、ほしのかけらだったら、おひさまがのぼってきたら、こそこそっと、かくれるはずだもん」
コン太は、もう一ど、おひさまに、それをすかしてみました。そうしたら、さっきより、しまもようが、大きくみえました。
「大変だ!くるしがってる!はやく、助けてやらなくちゃあ」
コン太は、手の中に、”それ”をしっかりにぎりしめると、かおちゃんのうちに、走りました。
「かおちゃーん、たすけてようー」
かおちゃんは、パジャマのまま、まどからびっくりしたかおをだしました。
「なんだ、コン太ちゃん、どうしたの?」
「なんだじゃないよ。たいへんなんだ。かわいそうな人を助けてあげてよ。その人、この中につかまってんだ」
コン太は、手を、ぱっとひろげました。
「まあ、コン太、ありがとう。あなた、やっぱりいい友だちね」
「そりゃあ、ぼくは、いい友だちにきまってるさ。正義のみかた、コン太さまなんだもん」
コン太は、ちょっと、ひげをぴぴんと、うごかしました。これは、とくいな時や、うれしい時のコン太のくせ。かおちゃんに「あなた、いい友だちね」なんて、わざわざ言われたんですもの。ひげが動くのもあたり前。
「かおちゃん、どうやって、この中の人を助け出す?」
「えっ、助け出すって、なにを?」
「この中の人ですよ。くるしがって、だんだん、ふやけてきてるんですよ。はやく、助けてやらなくちゃあー」
コン太は、せきこみながら言いました。
かおちゃんは、首をひねりました。コン太のかおを、じっとみつめました。パンと一つ手をたたくと、かおちゃんは、おくにかけこみます。なんだか、ごそごそ、音がします。
「かおちゃん、はやくうー」
コン太は、じりじりして、まどの下で、足ぶみしました。
「うん、もうちょっとまって、すぐだから」
やっとでてきたかおちゃんは、毛糸のワンピースをきていました。春になったら、森のはらっぱにもいっぱいさく、たんぽぽ色です。
かおちゃんは、コン太の前で、くるりと一まわりしてみせました。
「どう、コン太ちゃん、すてきでしょう。かあさんがあんでくれたの。きのう、はじめてきたのよ」
かおちゃんは、とってもうれしそう。にこにこ、わらっています。コン太は、あきれてふくれがお。
「かおちゃんって、ひどい人だね。かおちゃんが何か道具をとりにいってくれたんだって思って、ぼく、まってたのに。新しいワンピースきるために、ぼくをまたしてたんだね。はやく助けてあげなきゃいけない人が、いるのに・・・。いいですよーうだ。もう、ぼくは、かおちゃんにたのまない!」
コン太は、とがった口を、もっととんがらせて、いいました。
「じゃあね。もう、かおちゃんとは、友だちじゃないからね」
コン太は、言いながら、まどをはなれていこうとします。
「ちょ、ちょっとまって!コン太ちゃん、気がつかない?」
かおちゃんは、手を、ちょっと胸の方にあてて、首をかしげました。
「気がつかないかって?何に?」
コン太は、不平そうに言いながら、ちらっと、かおちゃんの方をみました。
すると・・・。かおちゃんのワンピースの胸のところに、コン太が持ってるのと同じ、”ひかるもの”が四こ、ついていました。でも、上に二こ、下にニこ、その間がどうも変にあいているのです。
「あっ、かおちゃんのワンピースの・・・」
「そう、ボタンなの」
かおちゃんは、まどから、からだをのりだすと、コン太の手をにぎりました。
「コン太ちゃん、ほんとにありがとう。きのう、はじめてワンピースきたのに、ボタンおとしちゃって・・・。かおる子、しょげてたんだ。そのボタン、すごくきれいでしょ。とてもきにいっていたの。それに、ボタンがないと、むねがあいちゃうでしょ。ほんとにありがとう」
コン太は、頭をかきました。
「ぼく、ボタンだなんて、知らなかった」
「そうよう、こんなすてきな色だもん。コン太ちゃんがまちがうのも、あたりまえ。お礼に、こう茶をどうぞ!」
かおちゃんは、さそいます。コン太は、もじもじしました。
「じゃあ、おにわでだったら、いい?」
かおちゃんは、なおも、さそいます。
コン太は、
「じゃ、ちょっとだけ、おじゃまします」
ていねいに、あいさつして、にわの方へ、まわりました。
白い木のテーブルをはさんで、いすが二つ。
つばきの花が、赤くさいて、おにわは、とても気持ちのよい、ティールームです。
(おわり) 1981年するが にて発表
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母が作った小さなミニ童話。宿舎のおばちゃんたちに回覧して読んでもらっていたようで、一緒に感想のお便りがいくつも入っていました。