【母の遺作】パラシュートにのって
【母の残したメモより】
長女と初めて試みた「つぎたし話」です。打ち合わせなしで、各自、自分の書きたい方向に話を展開し、相手に「どうだ、次はどうする?」とバトンタッチしていきました。
もちろん、おさないところがあるようですが、二年生の子どもの興味、話の展開ぶりが見えて、おもしろく感じました。
☆☆☆☆☆☆☆
※太字が子ども(私)、細字が母が書いたものです。
ゆうこちゃんのたからものはね、このあいだかったばかりのパラシュートなんだよ。だって、まるめてなげるとふわり、ふわりととんでいくんだもの。 ある日、ゆうこちゃんは、自分もパラシュートにのって空のぼうけんをしてみたくなりました。
ゆうこちゃんは、リュックサックの中に、ハブラシと、ハンカチと、メロンパンニこを入れました。
それから、めざましどけいのねじをまくとそれも入れました。
もう入れるものはないかなと、キョロキョロみたすえに、おもちゃのネックレスを入れました。
ぬいぐるみの犬をかかえて、リュックサックをせおうと出発です。
そして、パラシュートにつかまって、風がふいてくるのを、まちかまえました。
北から北風が、ビュービューとふいてきて、ゆうこちゃんがつかまっているパラシュートを、ふわりとのせていきました。
パラシュートをのせている北風は、山をこえ、谷をこえ、川をこえていきます。
そして、くもの上まできたら、パラシュートをおろして、いってしまいました。
ふうわりとした、さとうがしのような白いくもは、ゆうこちゃんをのせると、上へ上へと、のぼりはじめました。
下を見ると、町が、おもちゃのように、小さく小さく見えます。
そのうち、ゆうこちゃんは、のどがかわいてなにかのみたくなりました。
ぬいぐるみの犬のコロに
「おまえ、なにかのみたくない?」
ときくと、コロも
「ワンワン、のどがかわいて、ヒリヒリだ。キャンキャン」
といいました。
二人で、なにかのみものをさがそうと、キョロキョロみまわしていると、
すぐそばで、かみなりさんが、じょろで雨をふらせているのをみつけました。
コロとゆうこちゃんは、とびあがってよろこびました。
あまり高くとんだので、下へ下へと、パラシュートをもったまま、おちてしまいました。
とうとう、水は、一てきものめないまま、ゆうこちゃんとコロは、木がいっぱいしげった森の中におちてしまいました。
森の中の王さま、大くすのきのてっぺんにゆうこちゃんとコロは、ひっかかってしまったのです。
コロは、
「わんわん、ゆうこちゃん、たすけてよぅ」となきましたが、ゆうこちゃんだってなきたいのをこらえるのが、せいいっぱい。
のどがかわくし、おなかはすくし、そのうち、あたりが、だんだんくらくなりはじめました。ひがくれはじめたのです。
ゆうこちゃんは、メロンパンがニこ入っていることを思い出しました。
ゆうこちゃんは、リュックサックをおろそうとしましたが、木のえだにひっかかっているので、おろせません。
とうとう、ゆうこちゃんは、がまんできなくなって「おかあさーん」といってなきましたが、どうにもなりません。
なけばなくほど、くらくなるし、おなかはすきます。
コロも
「ワンワン、うちにかえりたい。キャンキャン」
となきさけぶだけです。
その声をききつけて、キリンがきてくれました。ゆうこちゃんは、
「たすけてえー」
とさけびました。
でも、木が高すぎて、とどきません。
「たすけてえー」
というこえに、サルがきました。
サルは、わけをきくと、
「よし、たすけてやろう」
といって、パラシュートの糸を、えだからはずしてくれました。
やっと、地めんにおりることができたゆうこちゃんとコロは、サルとキリンに、おれいをすることにしました。
ゆうこちゃんは、リュックサックをひらいて、もっているものを、ぜんぶみせました。
「おれいに、どれでも一つ、とってちょうだい」
ゆうこちゃん、キリンは、まっさきにネックレスを、とりました。
「これがいいわ。これをかぶると女王さまになったみたい」
キリンは、ネックレスをあたまにかぶってすましてあるきまわります。
サルは、しなものをていねいにみていましたが、さいごにハブラシにきめました。
「いまね、むしばがいたくて、こまってるんだよ」
ゆうこちゃんところは、メロンパン半分こして、ムシャムシャたべました。ゆうこちゃんは、サルやキリンにも、パンをわけてあげようとしたのですが、二ひきとも、
「わたしは、はっぱの方がすきだから」
「ぼく、今、ちょっとムシバがいたくてね。」
とことわったのです。そして、のどがかわいた二人のために「はちみつ水」をもってきてくれました。
おなかがいっぱいになった、ゆうこちゃんとコロは、一ばんくすのきのあなにとまって、また、ぼうけんにでかけることにしました。
こんどは
「北の方のぼうけんにいく」
と、コロがいったので、ゆうこちゃんは南風に、たのみました。
南風は「いいよ」といったので、パラシュートをもって、南風のからだにのって、北にむかってとんでいきました。
森の王さま、くすのきが風にゆれて、てをふっているようでした。
町をすぎ、村にきました。
「村外れにいく」
と、ゆうこちゃんは、いいました。
村はずれに、お花がいっぱいさいた、とてもきれいな原っぱをみつけたのです。
南風は、とてもやさしく、そうっと、二人を下におろしてくれました。
赤や、きいろや、むらさきの花がユラユラゆれているお花畑は、とってもいいにおいがして、二人とも、きゅうにねむくなりました。
お花畑のまん中で、二人は、風にふかれてひるねをしました。
ジリジリジリジリ
ジリジリジリジリ
けたたましい音が、お花畑に、ひびきわたりました。あのめざましどけいが、こんなところで、きゅうになりはじめたのです。へんなとけい。ゆうべは、ちっともならなかったのに…。
ゆうこちゃんも、コロもとびおきました。
そればかりではありません。
風にすきとおるような、やわらかいふくをきた女の人が、いっせいに目をさましたのです。赤や、きいろや、むらさきのようふくを、風になびかせながら、女の人たちは、ゆらゆらダンスをはじめました。
ラーラララー
ララララ ラー
どこからか、きれいな音がくもきこえてきます。
「コロ、どうしよう。花のせいをおこしちゃったのよ。どうしよう」
ゆうこちゃんは、なきごえをだしました。
そんな声など、花のせいはきかずに、楽しそうにおどっています。
コロは、
「あんなに楽しそうにおどっているんだから、いいんじゃない」
と、ゆうこちゃんをなぐさめました。が、ゆうこちゃんは、まだ、なきじゃくります。
コロは、
「それなら、あやまりにいこう」
と、いいました。
ゆうこちゃんは、コロといっしょに、あやまりにいきました。
花のせいは、
「かまわないのよ。さぁ、いっしょにおどりましょう」
と、いいました。
ゆうこちゃんは、もう楽しくてたまらないので、うちにかえることは、わすれてしまっていました。
どのぐらいだったでしょう。ゆうこちゃんは、ひがくれてくるにつれて、うちにかえらなければならないことを、思いだしました。
でも、コロがあそびたそうにしているから、だまっていました。
そのうち、コロも思いだして、
「あっ、うちに、そろそろ、かえらなくちゃ」
といいました。
二人は、のこりのメロンパンをわけると、たべて、かえるよういをしました。
ゆうこちゃんとコロは、パラシュートをしっかりもって、風がふいてくるのを、まちました。でも風は、なかなかふいてくれません。
そのうち、とうとう、まっくらになってしまいました。空には、だんだん、ほしもでてきます。
「コロ、どうしよう。こまっちゃったあ」
ゆうこちゃんが、コロにそうだんしていると、花のせいが、いってくれました。
「ね、一ばん、とまっていきなさいな」
「でも、ねるところがないわ」
ゆうこちゃんがしんぱいそうに言うと、
「それがだいじょうぶなの。あなたたちにぴったりのおやどがあるわ」
と、花畑のすみにつれていってくれました。
そこには、かいだんがあって、下にいけるようになっていました。
ゆうこちゃんとコロは、花のせいにせなかをおされて、そのかいだんをおりていきました。すると、オレンジいろの光の中で、もぐらのおやこが、木の根をかじっていました。
「こんばんは。一ばんとめてくださいな」
ゆうこちゃんがいうと、
もぐらは、
「人げんは、私たちすぐふみつぶすから、あんたも、とめてやらないよ」
といいました。
ゆうこちゃんはリュックサックをみて、
「ハンカチをあげるから、とめてください」
といいました。
でも、もぐらは、
「もっとくれ」
といいます。
ゆうこちゃんは、しかたなく、おきに入りの赤いくしもあげました。
やっととめてくれました。
そのばん、二人は、とてもつかれていたので、ぐっすりねました。
朝になりました。
二人は、もぐらと花のせいに、おれいをいいました。
もう、北風は、きてくれていました。花のせいが、よんでおいてくれたのでした。
二人は、おかあさん心ぱいしているだろうなと思って、北風に、
「早く、早く、おねがい!」
と、いいました。
やがて、なつかしい、自分のうちにつきました。
「北風さん、ありがとう」
ゆうこちゃんは、いそいで、うちへ入りました。
心ぱいしていると思っていたお母さんは、
「おや? もっと遊べばいいのに」
といいました。
コロは、ゆめだといいましたが、ゆうこちゃんは、ほんとうだと、しんじています。
(おわり)