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きらびやかとは程遠い、デニムの産地でみた現実。「循環するジーンズ」を通して池上慶行さんが描く、これからの循環図。

「大量につくって大量に捨てる」を繰り返していることに懸念を感じ、「資源(原料)を循環させ、廃棄物を出さない服づくり」を行なっている池上慶行さん。環境にも人にもやさしい服を届けるというコンセプトのもと「循環するジーンズ」を販売するサーキュラーアパレルブランドを立ち上げました。

地域おこし協力隊がきっかけで倉敷に移住。デニムの産地で実際に見たきらびやかとはほど遠い現実。そこから池上さんが見出した、循環型経済の展望とは?
今回は池上さんのWhyを深掘りします!

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地域協力隊がきっかけでデニムの産地へ。

——アパレル業界に勤めていたとのことですが、どのような経緯でご自身のブランドを立ち上げるに至ったのでしょうか。

メーカーに興味があったのと、服が好きだったのもあって、大学院を出たあと、大きなアパレル企業で販売員からスタートしました。僕自身は入った当初から、服作りや工場でどのように服が作られるかに興味があったので、いつかは生産部に行って、直接現場とやり取りしながら仕事したいなという淡い期待を持っていたんです。
けれども大きいほどそういう現場との距離は、遠いことに気がつきました。5年10年と時間を積んでいけば行けるかもしれないですが、同じ時間を使うのなら今からでも産地に行って、小さいことからスタートしたほうが意味のあることができるのではないかなと思って、会社を4ヶ月で辞めて、今いる倉敷に移住したんです。自分自身で服作りをすると決めていったわけではなく、全国に地方移住促進をする総務省のプログラムがあり、倉敷の地域おこしのプログラムを通じて移住をしました。

大きな決断をされたのですね。もともとジーンズに興味があったのでしょうか。

僕は、ゴリゴリのデニム好きだったり、色落ちを楽しむようなヴィンテージマニアではないんです。ただジーンズというアイテムの特殊性、色落ちや経年変化を楽しみながら、価値になっていくようなアイテムの持っている力が、他の製品と比べた時にもおもしろいなと思ったんですよね。
調べてみたら、倉敷に自分が求めていた枠があったので、迷わずすぐ応募しました。繊維産業に関わりながら、地域と関わった仕事が何かできればいいなと、漠然とした気持ちで最初は移住しました。

職人さんたちとの関係性の築き方

——地域に入って、職人さんたちと関係性を築いていったと思うのですが、はじめは大変でしたか?

親が転勤族でよく引っ越しをしていたので、新しい場所に慣れるのは元々得意な方です。はじめは、工場だったり、近くの飲食店、カフェなどにひたすら顔を出していました。おばちゃんたちの井戸端会議に毎週混ざったり、そういうところからスタートしたんですよね。僕はそういうことが苦手じゃないのが大きいと思うんですけど、なんとか最初の地域の中に馴染むことは、クリアしていけたのかなと思います。

地域に馴染むというファーストステップは地域の人と触れ合うことからスタートした池上さん。それでは次はサーキュラエコノミーに着目したきっかけに迫っていきたいと思います。

きらびやかとは程遠いデニムの産地でみた現実

——最近よくサーキュラエコノミー(循環型経済)という言葉を聞くようになってきましたが、池上さんがもっていたサーキュラーエコノミーの印象について教えてください。

池上:資料とあわせて、説明したいのですが、このブランドを最初スタートした時点では、物にフォーカスを当てていて、資源が循環しながら、ひとつひとつの製造工程で環境負荷を減らしながら、ひとつの円を描くイメージでした。今はクラウドファウンディングなども経て様々な人と関わったことがきっかけで、感情の循環も加わって、新しい循環図を書いてみたという経緯があります。ただ、先ほど話したように、元々はサーキュラーエコノミーをテーマにしたブランドを立ち上げようと、倉敷に移住したわけではなかったんです。


バタフライダイアグラム

——倉敷に移住した後、ブランドを立ち上げるに至ったきっかけについて聞かせてください。

岡山県倉敷市から、広島県福山市にまたがるエリアは、デニム/ジーンズの産地なのですが、色々な繊維関係の工場を訪れる機会をいただきました。モノづくりやファッション産業に対して、きらびやかなイメージも多少あったのですが、現場を見せてもらうと全然違っていて、実際は地道な作業をみなさんしていて。製品は確かに質がいいのですが、一方で廃棄物、無駄も生まれているのを目の当たりにしました。たとえば今回のジーンズの生地は、工場で本来は廃棄されてしまうような、規格外の生地を使って製品作りをしています。それも月300-400メーターもあり、ジーンズの本数にすると150、160本ぐらいの量になるんですよね。僕が今お付き合いさせてもらっている工場1社でその数なので、当然それが何十倍何百倍とあると思うと、たくさん無駄が生まれていると思ったんです。

——それは確かにすごい量ですね。

そういった生地は基本は工場の倉庫に眠っていきます。そこに目を付けた一部ブランドが買い取ることもあるんです。ただそういった場合も、元々1000円ほどで売られていた生地が、100円200円で買い叩かれるのが現状です。相対的にみると生産者の方々が立場が弱いように感じることもあり、自分の中で違和感を覚えました。店頭では「工場で眠っていた生地を使って、サステナブルな製品を作りました」というような打ち出し方で並んでたりするのですが、それって本当に持続可能な商売の仕方なのかな、と感じたりもありました。おこがましいかもしれないですが、自分が内側から関わることで少しでも状況を変えていけたらと、自分でブランドを立ち上げることになったのがきっかけです。

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大量生産、大量消費に乗っからないものづくりを目指して

——なるほど。アパレル業界の現実を工場でみたからこそ、問題点にも気づけたのですね。それを実現するために、サーキュラーエコノミーに着目したのでしょうか。

その流れでいうと、最初は「規格外生地を使ったジーンズ」としてシンプルに作れないかなと思っていたんです。けれど今の大量生産、大量消費をベースにしたモノづくりは、傷があるものを、1個1個取り除いて服を作るよりは、傷があるとわかったところはすべて捨てて、新しいものを作り出したほうが効率が良いという背景があります。
単に規格外生地を使って服を作るだけだと、結局は大量生産、大量消費に自分も乗っかることになりますし、工場にちょっとした利益が生まれる程度のことで、広がっていくことでもないなと思ったんです。もう一歩踏み込んで、今のやり方ではないアパレル、服作りを考えなくてはいけないと思っていたときに出会ったのがサーキュラーエコノミーという考え方です。

——「規格外記事を使ったジーンズ」とは、クラウドファウンディングのページにもあったB反、C反という、一定距離に基準以上の「キズ」が見つかった生地のことですね。

B反C反は工場の中に溜まっていってしまうので、なんらかの形で活用してほしいという声はありました。ただ生地は原価率の高いもので、たとえばですが、1000円ほどの生地だったとしても、600円、700円とか、それ以上が原価なんです。そうしたときに100円、200円だと、プラスアルファの利益にはなるんですが、それを沢山買われるよりも、当然ベースとしてはA反の生地を買ってもらった上でBC反を活用してほしいのだろうなというのは思っていました。
なので表立って打ち出してはないんですが、最初の時点でB反とかC反だからといって、買い叩くのではなく、原価を必ずカバーするような価格で購入するようにしていています。A反とほぼ変わらない価格で購入するので、使わせてほしいと伝えたので、工場側としても快く使わせてくれている状況だと思います。

——B反C反も原価を必ずカバーするような形で購入することで、工場の立場も守っているのですね。land down underというブランドの名前やロゴの由来も気になります。

英単語としてはオーストラリアを指す言葉です。イギリスを中心にして、地球の真裏にあるイギリス連邦の土地、オーストラリアを指す言葉なのですが、転用して、今主流のアパレル産業、文化の真裏を目指せるようなブランドを作っていきたいという思いから名付けました。あとは僕自身がオーストラリアを大学院時代、調査対象地にしていてゆかりがあるのもあります。

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——素敵な意味が込められていますね。ロゴはブーメランですよね。

はい、オーストラリア先住民のアボリジナルの人達の作った発明品のひとつであるブーメランをモチーフにしています。ブーメランは投げたら円を描いて手元に返ってくるので、自分自身が世の中に対して色々なものを投げかけ、反応や想いなどが返ってきて、循環を描くという思いを込めて、ブーメランをモチーフにしています。

——円を描きながら循環するという意味にぴったりのモチーフですね。

消費され続ける「サーキュラーエコノミー」という言葉に対するモヤモヤ。

——最近は、サーキュラーエコノミーという言葉が主流になってきましたよね。

サーキュラーエコノミーに企業としていち早く取り組んでいくというのは大事だとは思うのです。ただこぞって企業単位でこのワードに飛びつき進んでいったときに、結局サステナブルみたいなものを標榜してやっていく中、行きついた先にも、結局はいかにサステナブルであるかという競争のようになってしまうのではないかと思うんです。
言葉や見せ方勝負みたいになってしまうと表面的になってしまいますし、今向かっている先も競争なのかなとモヤモヤしているところはあります。限られた数社で独占するような形ではなく、せめて産地単位で共有していけるような仕組みを作っていかないといけないと思っているんです。大きなテーマになってしまいますが、競争が共に創る「共創」にシフトできないだろうかと考えたりしています。

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産地ごとにカスタマイズされたサーキュラーエコノミー


——共創へのシフト、理想的ですね。では池上さんが目指すサーキュラーエコノミーは具体的にはどのような形なのでしょうか。

欧米は、一環して生地から縫製して加工して製品になるところまでを、ひとつの工場ですべてできるので、工場自体に認証がおりやすく、認証がついたアイテムが生まれやすいんです。一方で日本は歴史的にも分業で服作りをしています。ジーンズをひとつの例にすると、一部だけ縫っていたり、アイロンがけだけしていたり、最近は合併して一貫でやっているところも多いのですが、規模感が違う色々な大小の企業があるんです。個人でやっていたり、家族経営をしているところもある中、設備投資をして、認証基準に合う環境を作っていくのはなかなか難しい、だからそこを目指してはいけないと思っています。モデルとしてはグローバルに共通した円をベースにはしながらも、出来上がるものはその産地ごとの状況に適した形でカスタマイズされたサーキュラーエコノミーの在り方を目指してやっていきたいです。

——産地ごとに状況が違うので、それぞれが円を描くように循環していく必要がありますよね。

あと、ジーンズは自分でデザインをして作っているんですが、実際ずっと服を作ってきた人にも関わってもらえたら理想だと思ってます。製品自体がカッコよくなかったり、機能的にも長く使いたくないとか、直観的に気に入るものでなかったら全く意味がないと思っているので、想いなどは共有した上で、担ってくれる人がいてくれたらいいなというのがあります。あとは、同じような思いをもって実際に取り組んでいる人たちが横に繋がれる機会や場所っていうのは、もっとあったらいいですね。

——ブランドとしては今後どのような展開をしていきたいのでしょう。
巨大なブランドを目指そうみたいなものは全くないですね、ただもちろん、こういうひとつの循環を描いていくうえで、ある程度の人数の人に関わってもらいながらやりたいと思いますが、一定規模までやれたら、それ以降、売り上げや成長というよりも、質の高いしっかりとした円を描いていくことのほうが意味があると思っています。どちらかというと、小さい円でもいいので自分の中で1回は描き切って、その上で仕組みを横展開、産地規模で広げていくことを事業としてやっていきたいです。

循環するジーンズ、その名前のように、それぞれの産地で仕組みが円を描きながら広がっていくことを期待しています!

池上さんのブランド、land down underのホームページはこちら。

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