ショートショート「うさぎとクローバー」
クラスで浮いている私は部活だけが命。朝練はもちろん、早弁して昼休みも自主練習に明け暮れる毎日。だけど、なかなか上達しなかった。
ある日、いっこ上の先輩から一緒に帰ろうって誘われた。飛び上がるほど嬉しかったな。誰かと一緒に帰るなんて久しぶりだった。興奮して一方的にいっぱい話しちゃったけど、何の話をしたんだっけ、忘れちゃった。先輩は優しく何度も頷いてくれてたな。
先輩は何をやっても一番で、学校中の憧れの人だった。凛としてかっこよくて、全てが理想でため息が出た。
先輩は私の話を聞いて、そっか、と短く言ったあと、
「私ね、意外かもしれないけど、自分一人の時間が必要な人なの。つるんだり馴れ合ったりが、ちょっとだけしんどくなるときもあるんだ。」
空を見上げながらそう言うと、私を見てにっこりと笑った。
先輩にもらったハンカチを引き出しから手に取る。うさぎと四つ葉のクローバーの刺繍入り。こんなこともできるんだって驚いちゃった。集中してやってると時間を忘れちゃうんだって。
一人って結構いいかもって思わせてくれた人。時おり出しては眺める大切な思い出の品。