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メンバー間の「熱量の差」問題の構造理解と解決指針

スタートアップ創業者を含めた
イノベーター達の味方であり続けるのが
僕の信条です。

それ故に彼らの感情・熱量に敏感で、
その変遷が手に取るようにわかります。

経営者がどんどん辛そうな表情に変わる。
それでも我慢して戦い続けるのが
経営者としての役割になります。

僕自身も何度も、その状況を
激烈な痛みを伴って経験しました。

このような問題に立ち向かう際に、
経営者のベストな振る舞い方は
原因を自身で深く理解した上で、
解決はプロに頼るのがベストです。

この記事では、
そのような状況の典型例の1つである
チーム拡大時の経営者の悩みに関し、
深く原因を考察した上で
解決指針についても書いていきます。

チーム間の「熱量の差」問題

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メンバー数が10-50人の会社で、
経営チーム・メンバー間には
ほぼ再現性100%で
強烈なほどの熱量の差が生まれます。

それくらい以上の規模のチームを持つ
起業家の多くが経験してる
共通の悩みだと考えます。

ビジネスがある程度加速しそう。
だからこそ経営者として
もっとチーム全体の視座を
引き上げなければならないタイミング。

それなのに技術者たちが興奮を忘れ
淡々と健康的なワークサイクルで
開発するようになっていたり

ビジネス側の人材が
「大企業か?」というような
オーナーシップの低さであったり

そんな状態で経営チームへの
不満が爆発したりします。

このようなことが起きるのは、
構造上必然的なことです。

経営者は、自分たちの実力不足と
マイナスに考えるべきではありません。

そしてそれを乗り越える手段もあるので、
まずは安心して冷静になること。

これが第一歩です。

「熱量」を定義する

この文脈における熱量を英語で

Efficacy
 (エフィカシー)

と呼びます。

具体的な定義は
「ゴール達成の自己効力感」です。

「絶対やれる!」という確信。
確信があるが故に何の迷いもなく
コトに取り込める状態。

最近はTedなどでも
出てくる単語になりました。
(日本語翻訳の字幕で見れます)

なぜ、やる気を
自己効力感で定義するのかというと

認知科学的には、自己効力感こそが
継続的にやる気を引き出すことが
分かっているからです。

「責任感」「義務感」「あるべき論」
これらは、やる気と反比例します。

したがってメンバー間で、
こういう気持ちをドライバーとして使うと
大抵悪い方向に向かいます。

やる気を出すというのは、
「やれる気がする」か否かが主たる要因。

Efficacyとイノベーションの矛盾

ここで難しいのは、Efficacyの概念は
イノベーションと根本的に矛盾する点です。

熱量の差が構造的な必然だと言ったのは
ここに由来します。

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例えば九九の問題を出されたとしたら、
当然ながら「やれる気がする」訳ですが、

人生が誰もやったことない事というのは
具体的に考えれば考えるほど、
やれる訳がないと感じるようになります。

この普通「やれる訳がない」ことに対し
実力も伴わず「絶対やれる」と信じ切れる
矛盾を乗り越えた奇跡的なEfficacyを
持つことができる稀有な存在が起業家です。

信じきってるからこそ色々な人を引き寄せ、
最終的に本当に実現するに至るのです。

だからメンバーとの熱量の差は必然です。
逆にそこに熱量の差がないのであれば、
恐らくそれはイノベーションではありません。

イノベーションを促進する僕として、
この奇跡的なEfficacyこそ
絶対に守るべき存在だと定義していて、
どう対処するか徹底的に思考してきました。

Efficacyの伝播的性質

このEfficacyには伝播的性質があります。

簡単に言えば、
自信に満ち溢れたリーダーの下では
メンバーも自然と自信に満ちていく。

つまり周りに影響していくような形です。

これを経て集団全体として
「絶対やれる!」確信を得ている状態を

Collective Efficacy
(コレクティブエフィカシー)

と呼びます。

集団全体が、とんでも無いことを
「このチームなら絶対やれる!」と
確信している状態。

これが組織として最高の状態になります。

経営者のEfficacy不足の解消

伝播的性質を踏まえると
経営者が十分にEfficacyが高いのであれば
自動的にメンバーのEfficacyも高まります。

なのにも関わらず熱量の差を感じるのは
何故でしょうか?

その主原因は実は、経営者自身が、
Efficacyを保ててないことにあります。

つまり「絶対にやる!」と言いつつ、
心の中では不安や義務感に圧迫されて、
自信をどんどん失っている状態です。

気づいたらダウンムード。
にも関わらず絶対に人に言えないので
最悪、偽りの自分に固執しかねません。

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だからと言って

「経営者はEfficacyを引き上げなさい」
というように簡単にコトは運びません。

何故なら、伝播的性質に従えば
メンバーの不安(できないかも感)は全て、
経営者自身に跳ね返ってくるからです。

一人ならまだしも、
十人くらいの不安を一気に浴びると、
流石に誰でも自信を失います。

この心の作用は全て無意識に行われます。
したがって意識的に何を話しても無駄。

無意識的に自動的に、自信が蝕まれていく。

とても悲しい事ですが、
ここを乗り越えるのが、このフェーズの
経営者の仕事でもあります。

最初は高い志を持っていた経営者だとしても
無意識の圧力によって気づいたら
「今できることを最大限やりきる!」
と言い出したりしまう。

ポジティブシンキングを保っているようで
結局無意識が圧力に負けている
典型例のような状態。

永遠に未来志向でなければならず、
その未来に確信を持ち続けることが
アントレプレナーにしかできない
最大の仕事です。

なので組織の拡大に負けないEfficacy,
つまり「絶対やれる」という自信を
ずっと維持することが大事です。

もし沼にはまっているなら、
間違えても自分だけ・自分達だけで
対処しようなんて思わないで下さい。

リスクが高い上、効率が悪すぎるので
それでグダグダして市場機会を失う
というのが最大のリスクです。

そしてこれが構造上の問題なのであれば
精神論ではなく、構造的解決が正攻法です。

その構造について書いていきます。

Efficacy伝播のネットワーク外部性

Efficacyには伝播性があると書きましたが、
伝播モデルを考える上で
ネットワーク外部性の議論は欠かせません。

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ネットワーク外部性とはビジネス用語で、
とても粗く言えば、
「友人が使ってるから自分も使う」
という性質のことをいいます。

コミュニケーションアプリ
(例えばLINE)を考えたときに、
「友人が使っているから使う」
という理由で開始した人は多いはずです。

このネットワーク外部性の理論によれば
ユーザが少なすぎると鎮火してしまうが
一定量のユーザが使ってれば、
満遍なく市場に広がるという性質が
分かっています。

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その「一定量のユーザ」を
クリティカルマスと呼び、
15%程度が最低限と言われています。

つまり5000万人の市場であれば
最低でも750万ユーザまでを
無理やり獲得することができれば
その後の爆発的普及が
期待できるということです。

Efficacy自体に話を戻しますと、
Efficacyの高い人の人数が
クリティカルマスを超えないと
Collective Efficacyを達成できません。

必ず、低いEfficacy側に押し戻されます。

さらにいうと経営者の会話相手が
軒並みEfficacyの高い
という状態を保たないと
自分自身が負の影響を周辺から受けて
Collective Efficacyが瓦解し兼ねません。

簡単に言えば、
3-4割以上のメンバーが、同時に
「絶対やれる!」という自信を持つ。

そんな組織状態を作ることで、
集団全体としての「絶対やれる」感を
カルチャー化することができる。

それがEfficacyのネットワーク外部性です。

Efficacyとコーチングの関係

さて、Efficacyの引き上げは
実はコーチングの主目的です。

以下の記事にも書いたように、
挑戦をし続ける心の有り様を
デザインするというコーチングは
Efficacyを保ち続ける脳の使い方と
実際は同じ意味なのです。

同時多発的なEfficacy向上施策

ここまでで構造的な解決方法の
概観が見えてきたと思います。

同時多発的なEfficacy向上を狙い
クリティカルマス(3割程度)を超えた人数が
高いEfficacyを持つ状態をデザインする。

この事でCollective Efficacyを達成すると
チーム内の熱量の差問題が解消されます。

同時多発はそこそこ難易度の高い技なので、
半年くらい腰を据えて取り組むイメージで、
以下のようなステップ論で解決します。

Step 1: 

コーチングを通して鍵となるメンバーが
十分なEfficacyを持つ状態にします。

スタートアップで資金が無いにしても、
やる気の問題は生産性に大きく影響します。

CEO自身がコーチングに精通していない限り
プロに依頼する方が無難だと思います。

コーチングについてはこちらの記事


Step 2: 

次にミッションやコーポレートバリュー等
カルチャーの設計を通して
Efficacyの高いメンバーが向かう
共通の方向性を規定していきます。

この辺りは組織コンサルティングの
領域になってきます。

Step 3: 

その上で、少なくてもリーダー同士が
コーチングの理論体系を理解することで
相互にEfficacyの下降を補正できるような
組織の頑健性をデザインします。

まとめ

イノベーションを志す経営者を
守りぬくと決めた僕の立場として言えば、

構造問題を構造的に解決するために
適切なプロフェッショナルが必要です。

僕自身にも時間に限りはありますが、
アドバイザリーやコーチング、
また適材適所なプロの紹介などを通して
出来るだけのことを
サポートしたいと考えています。

もっと具体的な方法論などに
興味がある方は、以下フォームから
お気軽にご連絡くださいませ。


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