病院の当直室で
つい先日、出身大学の同窓会が開催され、友人を通じての出欠の有無の確認で無と返信しながら、あれから30年、みんなはどうしているのだろうかとちょっと懐かしい気持ちになりました。ラインを通じて送られてきた何枚かの写真を見せてもらいながら、写真の中の数名の胸についた名前のバッジに気づく。いや、本当に名前(旧姓)を書いてもらわないと、誰だかわからない、自分も含め、全員が変わらないわけはないご年齢。
今でもそうだと思いますが、大学病院に勤務している以上、研修医のお給料は20万円+/月ほどで、その分、上乗せの当直代とか、5時に勤務が終わった後や、土日を費やしての「アルバイト」と呼ばれる市中病院に行くのが普通でした。このアルバイト先は「寝当直」と呼ばれる、ほぼいるだけで何もしなくてもいい仕事内容が一晩3万円(寝当直に一晩って今こうやって書くと字面はいかがわしいな)から、救急当番を晩から朝まで突っ走るタイプで一晩5万円+見た患者の数 pro rataやボーナス上乗せ制、交渉制のものまで色々ですが、その惨めさは忙しくても忙しくなくてもほぼ変わりませんでした。
ほぼ1週間に1回のペースで当直業務を30年間やってきて、今でも当直室に泊まるたびになんとも落ち着かない気持ちになるのは変わりません。大抵、エロ本やエロビデオが棚の中に残されており、小さな古いテレビがあり、どこの病院の当直室も陰気でした。男性医師であれば、若い新人看護師さんをこういうところに連れ込む妄想をして(いや、実際にあったのに違いないのですが)陰気さをカバーすることもできるかもしれませんが、お嬢様大学を卒業したてのイケイケ女医にとっては、お金のためだから仕方なく我慢する以外の何モノでもなかったわけです。
そうそう、こういうバイト先で、放射線技師の若いお兄さんに「せんせ、後で時間あります?」と聞かれ、デートのお誘いだろうかと大勘違いした過去もあります(真面目な質問だけだったことに後で気づいた)。面白いことに、普通の職場では見向きもされないような普通の男子も、白衣を着て登場するだけで注目の的、非モテがモテに豹変するという状況をずっと見てきたので知ってます、病院は、医者以外はほぼ全て女子の職場なので、きっとマジでいろんなところからお声かかったんだろうなあ。男子に生まれたかった . . .
しかし、こんな状況下でも50人に一人くらいの割合で、こういう隙間時間を見つけては論文を読み、エビデンス=証拠資料として、1998年のRobinsonによれば鎖骨骨折の2B2タイプは偽関節率が15%と最も高いため、観血手術療法を選択いたします、というような文章をサラサラと言える人が存在して、こういうタイプは研修医が終わる頃にはいくつか論文を発表していて、大学の講師のポジションを狙い撃ちできるのですが、私の場合は昼間はなんとか気を抜かずに頑張っていても、夜になるとスイッチオフになってしまい、何にもする気にならない(何を読んでも頭に入ってこない)ので(今でも)、最低限のエネルギーで長時間稼働するエコモードのまま当直室でぼーっとしています。
美味しそうな料理や、泡の立ったラテでさえ携帯の写真に撮りたがるのに、当直室を写真に収めるという行為を30年間一度もしたことがなかったので、今回、初めて、撮影してみました。
患者さんのベッドは真っ白なシーツで、シーツ交換が済んだばかりなのに血液検査で針刺しに病床を訪ね、ぽたりと一滴垂らしてしまった時なんかはもうなんとも自分の頭をバカっと叩きたくなるような気持ちになったものですが、当直室のベッドは汚れの目立たない濃い色のシーツ。いや、これでもこのお部屋は清潔で綺麗な方だと思います、文句は言えない。
日本では整形外科医が見るような夜11時以降の患者さんは大抵、酔っ払いで階段から落ちて足関節を骨折した、みたいな人々でしたが、スコットランドではIVDUと略されるドラッグユーザーの蜂窩織炎(皮膚下の組織の感染症)が多いのにはとても驚きました。皆さんはTrainspottingという映画をご覧になったことがありますでしょうか?あのスコットランドで撮影された、ドラッグユーザーのリアルは本当にリアルで、自分たちで静脈のある部分(肘や鼠蹊部)に使い回しの注射器で何度も注射しているので、すぐに深部感染を起こすのです。
先日は自称 drug dealer (麻薬の売人)という患者さんまでいて、上司に、あの、警察に届け出なくていいのでしょうか?と真面目にお伺いを立ててしまいました。肩をすくめて、いや放っておけという上司の態度に、まだ我々はこういう人々を取り締まる警察官の仕事よりはマシだよなあ、と自分を慰めています。
なんのはなしです海にダイビング✧♡
❤️