やっぱり哺乳類
虫の世界は異次元で、今でもどうにも理解が追いつけない深淵を覗いた気がするのですが、人間はやっぱり哺乳類。小動物をみると自然に興奮するような脳みそになっているのです。
今回は満を持しての哺乳類調査に参加してきました。
講師はGW EcologyのGraham Wilson。
まずは登場したGrahamの最近のアニマルレスキューの話から。彼の仕事の一つは、一般の家庭からのアニマルレスキューコールを受けること。
例えば最近の事例:車庫の屋根裏に巣を作っていたコウモリの母親が突然姿を消し、4匹の赤ちゃんコウモリが残され、瀕死の状態であるとのコール。母親が姿を消してしまった理由は不明だけれども天敵に捕食されたとか、事故に遭ったとか、そういうことなのかもしれません。
彼はその4匹を手袋マスク*で捕獲し
*レクチャーの中でも繰り返し、ワイルドアニマルは狂犬病などの病原体を抱えていることがあるので、決して素手では触らないようにしてくださいと言っていました。全世界をストップさせたコロナも元はと言えばワイルドアニマルからの感染症であることは有名ですよね。
虫の頭を潰してペースト状にし、餌として与え、無事3匹を成長させて野に返したのだそうです、しかしどうも1匹だけは飛ぼうとしない。羽もあるし、怪我もないし壊れていないけれども、いまだに彼の手元にいる。その1匹を、自家用車で一緒に連れてきてお披露目してくれました。
Common pipistrelle
レスキューの仕事で一番多く受けるコールは「家の中にコウモリが侵入してきたのですがどうしたらいいですか」
この質問には、分厚い手袋(ウールでないもの、毛糸が絡みつく可能性が高い)とマスクをして、捕まえて逃すことを指示するのだそうです。やっぱりできればそのまま自然に飛び立っていくのが一番。でもこうやって本当にレスキューして育て上げると言うこともまれにあるらしいのです。このPipistrelleくんはGrahamの手厚いケアに心地が良くなってペット化してしまったのか. . . 飛ぼうとしないコウモリ。カワイイような、ちょっと胸が痛むような結果になってしまっています。
しっかりとした歯も生え、綺麗な羽も。キーキーと鳴くPipistrelleくんに、「ヨシヨシ」と声をかける様子にキュン、羨ましいような気さえしてくるのですが、私は基本的にはペット動物<<自然動物を支えたい派なので、そういう胸キュンの私の心はマル無視することにします。それでも茶色の毛皮がキュートではあります。
さて本来の哺乳類調査ですが、Grahamによると、前日の夜に28個のワナと3つのトンネルを仕掛けておいたとのこと。
ここでGrahamが強調しておりましたが、全て基本的にはキャッチアンドリリースとするために最大限の努力をしているとのこと。ワナは扉が閉まるだけだし、ワナの中には乾燥した藁をたっぷりと、リンゴのかけら。りんごは栄養だけでなく水分補給のためでもあるそうです。トンネルの方は、足跡チェックの目的のみだそうです。
トンネル調査
トンネルの中にはドッグフードと黒インク、食べ物にありついた小動物がトンネル内から外に出る際につける足跡を見るためのものです
ワナ調査
軽量アルミでできたワナは、奥に乾燥した藁が敷き詰めてあり、りんご入り。
この28個のワナのうち、5個扉が閉まっており、そのうち1個にネズミが引っかかっておりました。Wood mouse (Apodemus sylvaticus)というヨーロッパでよくみられる野や森内に棲むネズミ(アカネズミ)。木の実などを食べるのだそうです。
リリースする前に大きなプラスチックの箱で駆け回る姿を大興奮で眺めます
想像以上の素早さです。なんと言っても黒目が可愛くて、この小ネズミなら怖くない。やっぱり大きさと言うのは大事ですね。この微妙な小ささがなんとも愛らしく感じるから不思議です。
この小さなワナには時々オコジョのような小さなイタチ系もかかることがあるらしいのですが、ネズミよりももっと素早くて、キバと爪が鋭くて、ワナは大きなビニール袋に開封するのですが、
ネズミと違ってこのビニールを一気に破って逃げる力があるのだそうです。
その時のスピードとショックやるや、エイリアンが体内から出てくるのと同じくらい恐ろしく素早いと言っていたので(マジか)、エイリアンなんて、可愛さ台無しなんですけど。
ホロカトマム山林でも小動物調査を2016年に行いましたが、その時のトタン製生け取り罠は今回見せてもらったGrahamのものに比べるとシンプルで一部屋のみだったので、これに比べるとスコットランドのGrahamのものの方が2部屋製で快適そうに思えます。
この2016年時には同時に墜落缶を使用しましたが、こちらの方は藁ベッドもないし、ちょっとかわいそうだったかもしれないと今になって思います。
ホロカトマム山林での調査結果はこちらから
最後にGrahamが付け加えたこと。
イギリスでは伝統的に11月の初めは花火の1週間。Guy Fawkes Nightという伝統的な習慣です(日本の夏の花火と違い、イギリスでは冬の花火というのが対照的で面白いですよね)。
この花火の火薬爆竹の音で、犬や馬などのペットはもちろんのこと、多くの鳥やこういう小動物たちが驚いて事故を起こしたり、心臓発作で急死している件が毎年報告されているそうです。今の技術では音が大きくならないまたは音のならない花火を作ることが可能なんだそうですから、そろそろ花火の伝統もそういう方向に考えなくてはいけない時期に来ているのかもしれません。まあ音だけでなく、花火による空気の汚染というのも大きな問題ではあるらしいですが。
仕事で哺乳類小動物類のレスキューやリハビリを仕事にしているGrahamにとっては花火は毎年の心配の種らしくて、私も医療という仕事についている背景で、人ごととは思えませんでした。
そうそう、最近、人と動物は健康はどちらも密接に繋がっており、人の健康を考えるには、生態系・動物の健康も考えるというワンヘルスという考え方があります。
自分のメインのドクターとしての仕事とは全く関係ないようなところから始めたホロカトマム山林でしたが、今ではきっと理由があってワンヘルスを目指して始めたことなのかもしれないと思うようになってきています。