30-day song challenge
巷で話題の「30-day song challenge」。
「A song you like with a color in the title(曲名に色の名前がついた好きな曲)」など30個のお題に即した曲を自分の思い出から引っ張り出して挙げていくというこの企画、遅ればせながら私も参加したい。
1. A song you like with a color in the title
(曲名に色の名前のついた好きな曲)
嘆きの白/Blankey Jet City
ボーカルのベンジーこと浅井健一は歌詞に色を用いることが多い。ピンク, 紫, クリーム色, 灰色, グリーン, 黒……歌詞に登場する色だけでも鮮やかな絵が描けてしまいそうだが、今回は「白」をモチーフにしたこちらを選曲。
"嘆きの白"とは「太陽が死んで悲しむ雲」のこと。太陽が死に絶え「夜が燃え上がり朝がとけてゆく」、そんな光景に主人公の僕は「うれしくて少し狂いそうさ」。
暴走する狂気を孕んだ壮大なファンタジー、それをベンジーが叫ぶように歌い上げる。スリリングな空気を彩るブラスセクションにも痺れる。
2. A song you like with a number in the title
(曲名に数字が入っている好きな曲)
能動的三分間/東京事変
即席麺にお湯を注いでから蓋を開けるまでの時間。ただ無心に惚けてしまいそうなその三分を題材とする。
『能動的三分間』なる曲名も然ることながら「三分間でさようならはじめまして」というサビのフレーズも斬新でキャッチー。コーラスの男性陣と椎名林檎の歌声の対比も楽しめる。
ところで、最後の「ピーッ!」というタイマー音に間髪入れず(アルバム『スポーツ』で次曲にあたる)『絶体絶命』のタンバリンの音が続くのが一興なのだが、シャッフル再生時に聴いた『能動的三分間』→椎名林檎『浴室』も悪くなかった。3曲目に紹介するJUDE『ベルベット』への流れもこれはこれで有り。
要はイントロ1音目にインパクトのある曲との親和性が高いということ?
3. A song that reminds you of summertime
(夏を思い出させる曲)
Velvet/JUDE
イントロの気怠くも鋭いギター。このカッとした音色が炎天下の茹だるような暑さを思い起こさせる。
「青空の奥に黒を見出す」というフレーズもどことなく太陽の黒点が連想され、個人的にはこれも夏要素の一つ。
真夏に外を歩きながらこの曲を聴くと、強烈な日光の鬱陶しさが増長させられるような感覚に陥る。それが心地良い。
4. A song that reminds you of someone you'd rather forget
(忘れたい人を思い出させる曲)
該当曲なし。スキップ▶︎▶︎
5. A song that needs to be played loud
(大音量で聴きたくなる曲)
Return of Kung-Fu World Champion/上原ひろみ
冒頭の神妙なシンセパートに浸っていると "ドドドドドドッ" とドラムとピアノの低音が展開を急く。鬼気迫る剣幕には思わずこちらがたじろいでしまうほど。それを大音量で浴びる興奮と高揚が堪らない。
シンセサイザーと生ピアノを行き交い、音色や音列を自由自在に操る上原ひろみはさながらこの音世界に君臨するチャンピオン……!
6. A song that makes you want to dance
(踊りたくなる曲)
キャンディ・ハウス/THEE MICHELE GUN ELEPHANT
ドライブするベースに裏拍でリズムを取るブルースハープ、これだけで自然と身体が乗ってしまう。
コード進行がシンプルだからこそ、メロディーとベースラインとリズムという骨組みが強調され、Cメロの意外性やCメロからAメロに移る際の急ブレーキのような一瞬のリタルダンドが小粋に映える。
7. A song to drive to
(ドライブで聴きたい曲)
中央フリーウェイ/荒井由美
AJICO『青い鳥はいつも不満気』とも迷いつつ、Blankey Jet CityにSHERBETとベンジー成分が高めになってしまうためユーミンをチョイス。
ビブラステップが印象的なイントロに始まり、上品で軽やかなエレピに導かれるように曲が展開する。
Aメロのキーにも注目。夕方から夜にかけての空の色や空気の移ろいを、Fmajorという調性の持つたおやかなイメージでもって風情豊かに描写している。
Bメロでの転調も劇的すぎない自然さで、曲全体の統一感を損ねることなく良い塩梅にドラマチック。
杳々たる夜の高速道路の幻想性が浮かび上がる、見事な一節である。
8. A song about drugs or alcohol
(ドラッグかお酒について
書かれている曲)
Hell Inn/Blankey Jet City
ブランキー2曲目。
薬や酒はブランキーの十八番テーマだが、ここでは直球ドラッグソングを。なんせタイトルから"ヘルイン(=ヘロイン)"である。
薬の快感への好奇心や渇望と「母親を悲しませてはいけない」という純粋な気持ちとの間で揺れ動く男の葛藤が描かれる。
薬でハイになることを「感動的な夜をただ過ごしてみたいだけだから」と表現するセンスはさすがベンジー。確かにこの主人公なら、混じり気のない切実さでそう考えていそうだ。
(最後の描写はやはり……やってしまった?)
薬に陥った男は「そうオレは愚かな人間」「オマエと同じさ」と何度も繰り返す。その吐き捨てるような叫びは嘆きや諦め、孤独を内包しているのか。
9. A song that makes you happy
(幸せな気分になる曲)
カルメン組曲第2番-ジプシーの踊り/Georges Bizet
冒頭、簡単なリズムに乗せて静かに穏やかに奏でられる素朴なモチーフ。
それが短調と長調を行き交って厚みを増しながら目眩く色付いていき、気が付くと最初に提示されたものよりも一段と激しさと華やかさを纏ったテーマに様変わり。そして最後には圧巻の終幕を迎える。
その劇的な変遷に、カタルシス的な感動と充足感を覚えるのである。
10. A song that makes you sad
(悲しい気分になる曲)
Señor Mouse/Chick Corea & Gary Burton
チック・コリアの力強いピアノとゲイリー・バートンの叙情的なビブラフォンがどこまでも美しく、二人の息の掛け合いと躍動感に胸が高鳴り……、
ふとした瞬間に悲しくなってしまう。
高尚なものに対する畏れのような感覚なのだろうか?
11. A song you never get tired of
(決して飽きることのない曲)
EYES WITH DELIGHT/嵐
どうしようもなく胸が高鳴る名イントロは何度聴いても飽きがこない。
イントロに食傷気味にならない、つまりイントロで飛ばすという判断をしない。それが飽きずに聴き続けられる曲の基準の一つだろう。
SMAP『SHAKE』やFolder『パラシューター』などもそうだが、流麗でフックのある煌びやかなアレンジはさすがコモリタミノル。
12. A song from your preteen years
(プレティーン(9-12歳)の頃の曲)
友達の唄/ゆず
小学校高学年の時の担任がこの曲を気に入っており、よく休憩時間に教室のCDプレイヤーから流れていた思い出。
私は小学生の頃はクラシックしか聴かなかったため流行の音楽に疎く、この曲との出会いは「イマドキの音楽だ……!」という謎の感慨深さ(?)があった。
もしかしたら初めて歌詞を見ずに歌えるようになったJ-popかもしれない。
13. A song you like from the 70s
(70年台の好きな曲)
恋愛遊戯/太田裕美
ボサノバ歌謡曲。耳触りの良い透き通るような太田裕美の歌声に癒される。
この半音階で動くメロディーと変化球の転調が好み。
14. A song you'd love to be played at your wedding
(結婚式で流したい曲)
LOVE LIFE/orange pekoe
生きること、人を愛すること、世界を慈しむことの喜びを一点の曇りなく歌い上げる。
突き抜けるほどの多幸感に包まれる歌詞。一世一代の愛の誓いの日に相応しい、晴れやかな祝福の曲だ。
15. A song you like that's a cover by another artist
(好きなカバー曲)
ジェニーはご機嫌ななめ/Perfume
(音源はオリジナル)
OKAMOTO'SによるThe Beatlesの『Hey Bulldog』、LOVE PSYCHEDELICOによる同じくThe Beatlesの『Grass Onion』、浅井健一によるガロの『学生街の喫茶店』とも迷いつつ……(いずれもTV番組での披露)
ジューシィ・フルーツの原曲を中田ヤスタカがアレンジしたこちらのカバーをチョイス。
かなりハイテンポなピコピコ系ミュージックへと生まれ変わっているが、元が多分にその要素を含んでいるのもあってあまり違和感がない。
それどころか3人の可愛らしい歌声・キュートな歌詞・超アッパーなテクノサウンドがマッチして、Perfumeならではの個性的なテクノポップに仕上がっている。
16. A song that's a classic favorite
(お気に入りの名曲)
The Necessary Blonde/Tribal Tech
何が始まるのか、一体どこに連れて行かれるのか。不安と期待が入り混じる幕開け。太くメロディアスなベースと浮遊感のあるコードが聴き手を幻想的な空間へ誘う。
知的に冴え渡った冷静さと地に足がつかない曖昧さが同時に漂う、そのバランスが絶妙。居心地の良いような悪いような……。
この"冴え渡り"パートを担っているのは生ピアノだと私は思う。これが電子ピアノの音色ならかなり違った印象になるのではないか。生ピアノならではのパキッとした音色が意志の強さをもって音楽を先導している(ように聴こえる)。
17. A song you'd sing duet with someone on karaoke
(カラオケで誰かと
デュエットしたくなる曲)
脳漿炸裂ガール/れるりり
ボカロソング。高校生の時に流行りに流行っており、カラオケでも友人達の選曲の6割ほどはボカロだったような。その影響を受けボーカロイドという世界に爪先ほど踏み入れていくつか聴いた内の一曲。
イケイケテンションのジャズテイストは気分が上がるかっこよさ。Bメロの裏で流れるピアノのパッセージが好き。
この曲は(一人で完結させられなくもないが)やはり二人で歌ってこそ。バトンタッチや掛け合いが楽しい。
18. A song from the year you were born
(生まれ年の曲)
つつみ込むように・・・/MISIA
1998年にリリース。2018年の紅白歌合戦でサプライズ披露し話題になったのも記憶に新しい。
半年ほど前に初めて参加したMISIAのライブでこの曲を聴くことができた。生声MISIAのハイトーンはやはり圧巻。
19. A song that makes you think about life
(人生について考えさせられる曲)
きせき/SHERBET
名盤の誉れ高い『セキララ』からの一曲。
サビの歌詞がショッキング。「全人類が願う(べき)平和な世界」が「退屈」とはあまりに贅沢で無神経ではないか?
しかし「愛などということば忘れさられるほど(平和な世界)」という一節にハッとする。これは裏を返せば、今は平和な世界でないからこそ愛という概念を共有できているということ。
愛は何かとの対立構造があって初めて認識されるものなのか。平和はそれ単体で恒常的に存在し得ないのか。一切の憎しみや争いがない世界に我々は尊さを感じられるのか。
>全人類が願う(べき)平和
「平和が退屈」という表現に表層的に反発して掲げただけの空虚な理念ではないと果たして言えるだろうか。
歌詞を何度も反芻し内省してしまう一曲。
20. A song that has many meanings to you
(自分にとって
たくさんの意味がある曲)
Piano Concerto in A minor, Op.16: Ⅲ/Edvard Grieg
先述した通り小学生の頃はクラシックばかり聴いていたのだが、中でも呆れるほどにリピートしたのがこのグリーグのピアノ協奏曲。
冒頭の雷鳴の如きティンパニと転落を思わせるピアノのカデンツァが象徴的な1楽章、牧歌的で悲しげな旋律と和音が胸を打つ2楽章に次ぐこちらの3楽章は、前楽章の余韻を断ち切るかのような、夢から醒めて我に帰ったかのような軽妙さを含んでいる。
しかし軽い=ライトな聞き応えかと言うと全くそんなことはない。管弦の重厚なハーモニーと物憂げな香りを称えたピアノとが織り成す情景は雄大そのもの。
北欧的な情感とダイナミクスに魅了される。
21. A song you like with a person's name in the title
(曲名に人の名前がついている
好きな曲)
Ruby, My Dear/Thelonious Monk
親愛なるルビー。どうやらこの"ルビー"は実在する人物ではなく、モンクが響きを気に入っただけの思いつきの名前らしいが。
モンクのややぶっきらぼうで乾いたタッチや、不協和にぶつかり合う音遣いは優美さに程遠い……にもかかわらず胸に迫るロマンチックな魅力がある。この不思議な感覚はなかなか他では味わえない。
22. A song that moves you forward
(前向きになれる曲)
たいせつ/SMAP
名作曲家・小森田実&名編曲家・長岡成貢が手掛ける都会的で華やかな音に、これまた名作詞家・戸沢暢美の紡ぐ言葉が乗る。
注目したいのは核となるサビの抽象度の高さ。
「越えていけそう(何を?)な"気がする"」
「ちゃんとやれそう(何を?)な"気がする"」
敢えて目的語を指定せず、推量の形で結ぶ。曖昧さの極め付けは一番最後の「Supermanじゃない"けれど"」。
しかし「何も語らない」のが薄っぺらく感じられることはない。その空白の補完が聴き手に放り投げられるからこそ、むしろ「何よりも雄弁に語る」強さをもって訴えかけてくる。
要の補完を聴き手に委ねられるのは、サビに至るまでのAメロBメロで下地となるストーリー(君と僕とが歩んできた道、二人が見ている景色、これから)を少ない言葉で描き切っているからだ。
渋滞の街に人々の日常を重ね想いを馳せる君と、そんな君の横顔を見ながら(自分もまた人々の営みを構成する一人として)君に巡り会えたこと、今こうして同じ時間を過ごせていることにささやかな感動を覚える僕。
別の女性に夢中になった過去もあったが、それを経たからこそずっと隣に居続けてくれた君の存在の大切さが身に染みてわかる。君となら何があっても大丈夫、これから僕達に起こる全てに二人で試されに行こう。
彼女への揺るぎない信頼や未来に対する希望が描かれているからこそ、「君とならちゃんとやれそうな気がするよ」という漠然とした表現が確かな意味をもって聴こえてくるのである。
抽象性から普遍性への転換。日常に転がる煌めきを誰もが見落としがちな視点から掬い上げ、そのかけがえのない幸せを貴み、ありふれた景色や人を愛おしむ。このじんわりと広がるあたたかさは戸沢氏ならでは。
難解な言い回しを用いず、むしろ老若男女が理解できる表現に終始しているのもポイント。洗練され垢抜けた音に、良い意味で垢抜けていない素朴で素直な詞が乗るからこそ、ドラマチックな世界(音)に等身大の自分(詞)を置くことができて前向きな気持ちになれる。
23. A song you think everybody should listen to
(全人類が聴くべきだと思う曲)
Rhapsody in Blue/George Gershwin
ジャズのエッセンスをクラシック音楽に取り込み「シンフォニックジャズ」として大成させたガーシュウィンの名曲。
ドラマ『のだめカンタービレ』のエンディングテーマに用いられたのもあり、一般的にもよく認知されている。
この曲にまつわる印象深い思い出は、ピアノの恩師が「誰もが一度はこの曲の魅力に取り憑かれ、"あの(甘くロマンティックな最大の聴かせどころ)シーン"に胸を締め付けられる。そして見よう見まねで弾いてみる。ピアニストなら全員が通る道」と話していたこと。
それを聞いた当時小学生の私はすぐにはピンとこなかったのだが、のだめのサントラCDを借りて何度も聴いているうちに、リズミカルで愉快なパートでは心が躍り、恩師の言う"あのシーン"では胸を衝かれるような心地を覚えるようになった。
おそらくこの感覚は全人類に共通するのではないか。
24. A song by a band you wish were still together
(解散してほしくなかった
バンドの曲)
サービス/東京事変
東京事変も然り、好きなバンドはどれも解散後から聴き始めたため、解散時にショックを受けたわけではないのだが。
解散時期と生まれた時期がほぼ一緒のブランキーなどとは異なり「もう少し出会うのが早ければ現在進行形で応援できたのに……!」という惜しさがある点で東京事変をチョイス。
一期メンバーによる1stアルバム『教育』に収録されたこちらの曲は、間奏部分を除きほぼ全体が|E7 A7|G♯7 C♯7|F♯ B7|と調を転々とするドミナント7thの6コード(2コード×3セット)のみで構成されているのが特徴である。
4小節1フレーズのメロディーに対してコードが3セットということはつまり、上記のコード3セットを仮に|A|B|C|と置くと以下のような展開になる。
|A|B|C|A|
|A|B|C|A|
|A|B|C|A|
|A|B|C|A|
A→B→CときてAに戻るため、4小節1フレーズのメロディに対しコードが3小節単位で動いているように聴こえ一瞬そのズレに混乱するのだが、その後にA→Aと同じコードが続くことで、C→AのAが「フレーズの始まり」ではなく「フレーズの終わり」であることに気付く。
そもそもがドミナント7th続きで宙ぶらりんなところにこのような工夫が施され、どことなく落ち着かないそわそわした感じがより強められているのである。
しかし仕掛けはそれだけではない。コード展開に注目しよう。
先述したように、この曲は基本的に
|E7 A7|G♯7 C♯7|F♯ B7|E7 A7|
この4小節を1フレーズとして構成されている。
ところが、サビでは
|F♯ B7|E7 A7|G♯7 C♯7|F♯ B7|
このように元々3小節目に置かれていたコードが始点となっているのである。
すなわち、
|A|B|C|A|の循環が随所で
|C|A|B|C|に切り替わっているということだ。
この|C|A|B|C|循環パターンが用いられている箇所は以下の通り。
・1番Aメロ3フレーズ(9-12小節)
・1番サビ
・2番サビ(ラスサビ)
・2番サビ(ラスサビ)後間奏
|A|B|C|A|⇄|C|A|B|C|の切り替え。曲全体の衝動的な混沌に垣間見える、知的なギミックに唸る。
25. A song you like by an artist no longer living
(早くに亡くなった
アーティストの曲)
Ain't No Telling/The Jimi Hendrix Experience
27歳の若さで夭折したジミヘンをピックアップ。
冒頭の急カーブのようなビート感の切り替えの時点で展開に期待が膨らむ。
AメロからBメロへと移行する際に一拍D7を経由するが、AメロがC#7をベースとしているためこのD7が新鮮な響きに聞こえ印象的。
そしてC#7とD7を行き来する2小節の後にボーカルがインするが、裏で奏されるギターの♪テレテレテレテレ……はこの曲における象徴的なフレーズの一つだ。
長さとしては2分にも満たない小曲であるが、その短い中に強いインパクトを放っている。
26. A song that makes you want to fall in love
(恋をしたくなる曲)
初恋/aiko
aikoが歌う多種多様な恋愛模様の中でもとりわけ「恋心の甘酸っぱいときめき」「相手を想う愛しさや苦しさ」の純度が高いナンバー。
ギターのロックな音色が12/8のミディアムスローなテイストと調和しながら泣かせにかかる。
学生生活を思い出して少し感傷に浸ってみたり。
27. A song that break your heart
(胸が張り裂けるような
気分になる曲)
束の間の幻影 20. ;Lento irrealmente/Sergei Sergeevich Prokofiev
表題はコンスタンチン・バリモントの詩行 "あらゆる刹那の瞬間に私は世界を見る、虹色にちらつく光に満たされた世界を……" に由来する。仏語の原題はVisions Fugitives。
「胸が張り裂ける」とはこの音楽のためにある比喩表現ではないだろうか。
温度も湿度もない暗闇の薄氷を慎重に歩むような、底の見えない深い穴を覗き込むような、洞窟の氷柱から雫がひたりと落ちるような……休符すらも緊張に満ちた音の重なり。
鋭く研ぎ澄まされた空気と神経質な情調に絡めとられて息ができず、涙も叫び声も出ない。代わりに痛いほどの静寂に包まれる。すると徐々に刺すような冷たさが和らぎ、強張っていた身体が解けていく心地になる——そこにささやかな安堵を覚えるのである。
緊張と弛緩、絶望と救済、畏怖と安堵。対極の観念が共存する不安定さに、胸が抉られるような気分になってしまう。
ここで私がこの曲を聴いたときに思い浮かぶ、スケールの大きく異なる二つの心象を提示したい。
一つ目は「崇高」。「崇高」とは美学的な概念の一種で、要は「恐怖の対象を安全な環境で鑑賞した際に感じる気分の高揚」である。
激しい嵐や猛々しい山は渦中にいると威圧的な恐ろしさを感じるが、自身に影響の及ばない場所から観る限りはむしろその巨大さや勇壮さに魅せられ、歓びすら覚える。
雷雨を部屋の窓から眺める時のドキドキというとイメージしやすいだろうか。ガラス一枚を隔てて荒れ狂う外の世界を内から穏やかに見守るアンバランスな心地良さに、『束の間の幻影』の息の詰まるほどの静けさに身を委ねる体験と通ずるところがあるように思う。
二つ目は「水風呂」。脈絡のなさにハテナが浮かぶのは尤もだが、これはサウナで火照った身体を水風呂で冷ました際に肌を纏う膜、通称"羽衣"を指している。
サウナで軽く温まり水風呂に浸かると、その凍てつくような冷たさに身体が極度の緊張状態になる。しかし交互浴を何巡か行うことで、身体の表面に薄い熱の層が生まれ、水風呂でじっとしている間は冷たい感覚が完全に消え去り、リラクゼーションを享受できる。
この「じっと」というのが肝。少しでも動くと途端に羽衣の効果はなくなり、再び極寒の境地に至ってしまう。微動だにできない状況下でのみ許される束の間の安息。水風呂という庶民的な題材と『束の間の幻影』の高尚で気高い雰囲気は一見すると相容れないが、両者で得られる神妙な感覚は近しい気がしてならない。
28. A song by an artist whose voice you love
(歌声が好きなアーティストの曲)
HOTEL/CHAGE & ASKA
ASKAの豊かな歌声とCHAGEの美しいハモリを堪能できる一曲。
まず出だしのE♭E♭G♭B♭F「土曜日の」の5音に注目。初めの4音は素直に1-3-5度であるが、その次にオクターブ上(8度)のE♭を超えてFと9度も跳躍する。
少ない音数を一気に駆け上がることで生まれる伸びやかさ(頂点の"の"のたっぷりとした感じ!)とASKAの下から突き上げるような歌唱スタイルとがばっちりとはまっており、この5音=5文字の時点で既に色香が漂ってくる。
「君を盗む 奪う 夜更けのホテル」の「ホテル」で一つになる二人のハーモニーも抜群に良い。太いASKAボイスと張ったCHAGEボイス、異なる声質の絶妙な重なりこそがチャゲアスの真髄だと思う。
僅か3行で物語の文脈を過不足なく描き切ってしまう圧倒的な表現力。余談だが「抱かなきゃわからない」の箇所でASKAが度々見せる、両手を広げ相手の腰を引き寄せるような仕草もセクシーで様になっている。
サビの歌詞はジャン・コクトーの一行詩『耳』「私の耳は貝の殻 海の響きを懐かしむ」に着想を得たのだろうか。
調性で見ると、基本はE♭minorでこの箇所のみG♭majorという構成になっている。サビで一瞬だけ長調に転調し、そのまま地続きで短調に戻るという作りが、許されない相手とのその時限りの愛の歓びを象徴しているようで気持ちの昂りと同時に呆気なさや哀しさも感じる。音の明/暗に詞の陽/陰を重ねることで旋律と意味の結び付きを強めた好例である。
楽曲に華を添えるビブラフォンの功績も忘れてはならない。歌声と歌詞とサウンドの全てが甘美的な魅力を放つ名曲。
29. A song you remember from your childhood
(子供の頃から覚えている曲)
Golliwogg's Cake-Walk/Claude Achille Debussy
ドビュッシーの組曲『子供の領分』より。
クラシックピアノを本格的に習い始めた小学生低学年の頃、有名なクラシック100曲が音楽史に則った曲順で収録されたアップライトピアノを買い与えられ、1曲目から順に再生しては気に入った曲のタイトルの横にハートマークを記していたのだが、100曲目にあたるこの曲を聴いて衝撃が走ったのを未だに鮮明に覚えている。
冒頭のユニゾンは紛れもなく明るいものの、序盤からそこはかとなく雲行きの怪しさを感じ始める。最初は露骨にではなく暗い香りがほのかに漂う程度であるが、徐々にその側面が少しづつ強調されていく。似ているようで大きく異なる「快活」と「滑稽」、「陽気」と「皮肉」の比率が場面によって入れ替わりながら展開するのである。
その近現代的な毒のある響きに幼いながら魅了されたのだろう。コンテンポラリージャズやプログレッシブロックを愛聴する22歳の私の原点となった音楽体験と言える。
30. A song that reminds you of yourself
(自分自身を表す曲)
JAM/嵐
先述の通り、私はある時点までクラシック音楽しか知らない小学生だった。クラスメイトの聴く大塚愛、絢香、コブクロ、ゆずといった流行の音楽も認識はしていたが、既にドビュッシー的な独特の和声が嗜好の基盤になってしまっており、ポップスの単純明快さに食指が動かなかったのだ。
その折に出会ったのが、当時10周年のベストアルバムが爆発的に売れ、空前の一大ブームを巻き起こしていた嵐だった。Mステで披露していた最新曲『Crazy Moon〜キミ・ハ・ムテキ〜』に興味を持った両親がベストアルバムをCDレンタルし、車内でリピートしているのを聴いて私も興味を持ったのである。
嵐の楽曲は、あまり興味が湧かなかった他のJ-popと何かが違った。それを強烈に感じたのは、02年の2ndアルバム『HERE WE GO!』や、『JAM』が収録されている04年の4thアルバム『いざッ、Now』を聴いた時だった。
実はデビューの99年から5周年の04年前後までの初期楽曲は、プロデューサーである鎌田俊哉氏の意向や起用された編曲家・スタジオミュージシャンの傾向により、ブラックミュージックの要素が多分に含まれている。
『HERE WE GO!』より『Tokyo Lovers Tune Night』『眠らないカラダ』『星のFreeWay』、『How's it going?』より『身長差のない恋人』『Walking in the rain』、『いざッ、Now』より『JAM』、『One』より『Overture』あたりにその色が顕著だ。そして、J-popの聴きやすさとブラックミュージックのコード進行やリズムとが上手く融合した嵐の初期楽曲の中でも特に好みのエッセンスが凝縮されていたのが『JAM』なのである。
イントロの流れるような楽器の重なり合い、エッジの効いたシンセサイザーの音色、リズムにメリハリを出すクラップハンド、間奏の目の覚めるような転調、アウトロのコーラスのエコーと最初から最後に至るまで凝った作り。言葉遊びを交えながら男女の駆け引きを描いた歌詞も含め、非の打ち所がない至高のアイドルソングだ。