国民の命を守る為に懸命な専門家を批判する「経済学者」とやらは、「国民の命」と「経済損失」がいくらであれば等価になるかを明確に数理で示すべきと思う件
緊急事態宣言が全国的に解除されました。今のところのコロナウィルスの死亡者数が1000人未満の水準に収まり、G7諸国の中でも最高に抑え込みが成功してしまったことで、逆に自粛で非常に経済が落ち込んでしまったことへの批判を強めている人たちがいます。
特に、数理疫学の専門家である北海道大学の西浦博氏への批判をしている方々には「経済学者」を名乗っている人が多いようです。その方々にお伺いしたいシンプルな疑問があります。
「人間の命」と「経済損失」はいくらであれば等価なのか?
ということです。経済学こそ基本的には数理であるはずなので、それをはっきり示す必要があると思うのです。というより、それを示してくれれば解決するでしょう。
コロナウィルスは、多くの日本人を殺してしまう可能性のあるウィルスで、4月15日時点では、行動制限など何もしなかった場合には42万人が死亡するという数字が新聞では報道されています。しかし、これは重篤者85万人の半分が助かる想定ですから、これでもかなり甘い数字です。
5月26日の東洋経済オンラインの西浦博氏のインタビュー記事によると、コロナウィルスの集団免疫率は20%~40%で済む可能性もある、と答えていますので、それをベースにとりあえず中間の30%で考えてみましょう。
日本の人口は1億2500万人ですから、集団免疫を獲得するにはその30%の3750万人が罹患する必要があります。そこに向けて、経済優先で全くコロナ対応をせず突っ込んだとします。
アメリカやイギリスでは、大規模な抗体検査の結果、感染確定者の10倍程度の既感染者がいたと推定されているので、日本も同じレベルだとすると、PCR検査で陽性になるレベルの感染者は10分の1の 375万人くらいでしょう。
この数字は、俗説の日本の「BCGが効いている説」や「東アジア人自然免疫がある説」が本当だとすると小さくなる可能性はあります。専門家会議を批判している経済学者は、医学を学んだこともなく、疫学的根拠もないのに、その可能性にすべてを賭けているようですが。もちろん、当たる可能性はありますけどね。私は「人命がかかる問題に、そんな賭けはすべきでない」、と考えていますし、「そもそも当たらない」と予想しています。
もとい、PCR検査で陽性になるレベルの感染者数が375万人だとします。現在の日本では、医療崩壊していない水準だと、その中の2割ほどが重篤化し、5%程度の方がなくなっています。ですので、医療崩壊しなければ18万7500万人、医療崩壊すれば重篤化した75万人程度の死亡者が出るということになります。普通に考えれば、重症者10万人もいれば医療崩壊します。
さて、経済を優先し何もせず集団免疫戦略をとったとして、その経済学者たちは、この10万人を超える死者数を許容するのでしょうか?しないはずです。
結果論で、死者が1000人以下の水準で済んだのに対し、その反動でひどい経済の落ち込みあるから批判しているわけです。1000人亡くなる災害でも相当なものだと思いますが、その経済学者らは「その程度の人数」であれば許容しているようです。
では、今の経済の落ち込みが許容できないとして、その経済学者たちは死亡者が何人までなら受け入れるのでしょうか?1000人が受け入れられて、10万人が受け入れられないのなら、1万人でしょうか?
疫学の数理的には、そんなの本当に紙一重です。これは、5月29日現在の西側先進諸国の死亡者数を見ればわかります。
アメリカ 10万人超
イギリス 3万7千人
スペイン 2万7千人
イタリア 3万3千人
ドイツ 8千500人
フランス 2万8千人
カナダ 6千800人
これらすべての国は、行動制限により経済活動を相当に制限してもこれですから。ちなみに、アメリカ以外は日本より人口が少ない国々です。
ほんの少し経済を戻すためのためだけに、これ以上の死者を受け入れるべき、と言っているのでしょうか?
もちろん、経済の問題は命の問題である場合もあるでしょうが、今回のコロナショックでは、経済の落ち込みとは裏腹に、会社や学校に行かなくて済んだことでむしろ4月の自殺者は減っています。
経済学とは学問の中でも数理で表しやすい学問であるはずです。そうであるならば、「人の命がどれほど失われるか」という数理と比較して、どこが最適な落としどころであるのかを明確に示すべきでしょう。ちゃんと計算しても今と変わらない水準になるでしょうが。
人命にかかわる計算を、リスクを踏まえたしっかりとした前提で計算しない人など信用することはできません。
コロナでろくに仕事もできないので、暇つぶしに数理モデルで今回のコロナウィルスの動向を分析しています。