緊急事態宣言が解除されたものの、数理モデル的に言えそうなことは「日本人の生活様式は他国より再生産数が低いかも」だけな件。

ようやく全国の緊急事態宣言が解除されましたね。とりあえずは皆さまお疲れさまでした。

この数週間ほど、専門家会議の西浦博氏の論文等を参考にして数理モデルを作って、コロナウィルスの感染者数の推移を他国と比べるなどして観察してきました。感染症分野で使われる「SIRモデル」というものをベースにした簡易数理モデルですので、一応傾向はとらえることができたと思います。

一番最初に数理モデルを紹介した記事に添付したエクセルシートでは、大体

再生産数1.7、
緊急事態宣言後の接触削減率 6割5分程度
重症化率 2割
死亡率 重症者の25%

という設定にしていて、最終的な死者数が1000人程度と予測したんですが、5月24日現在は死者830人と、入院が長期化している人もいることを考えれば、おおむね予想通りの傾向で推移しました。

それにしても「自粛の要請」だけで、人と人との接触を、8割とは行かなくても、一か月以上にわたり6割5分(約3分の2)程度以上減らせる日本人のすごさを実感します。

今後、政府や東京都などにより、大規模な抗体検査が予定されていて、その結果でかなり見解も変わってきますが、今のところの数理モデルの観察で考察したことを並べておきます。

・日本の再生産数は他国より小さく、たぶん自由主義先進国中で最小
緊急事態宣言時には他国の状況なども勘案して、最悪の再生産数2.5を想定したようですが、おそらく平時でもそこまではいかず、1.7とかそれくらいだと思います。他国と比べて数十%程度も低い理由は正確にはわかりません。マスク文化、お辞儀・スキンシップが少なめ、手洗い・うがい・お風呂習慣、除菌抗菌家電、ウォシュレットの普及率など複合的な要因だろうと思います。

・非常事態宣言は必要だった
先進国の中でもかなり感染は抑えられていますが、3月下旬~4月上旬は指数増加的傾向を示しており、再生産数は1を大きく上回っていたことは間違いがなく、国民の意識を変えるために非常事態宣言は必要だったでしょう。数理モデル上は、4月1日に発令していれば、感染者・死者は3分の1程度以下にはできた可能性があり、さらに宣言解除もGW後すぐに行えたはずです。

・日本人は政府の要請レベルで再生産数をかなり下げられる
これは、緊急事態宣言下で各マスコミから出された人出の統計を見ても明らかでしょう。日本人的には当たり前でも、他国では強制しないと無理です。

・感染確定者の死亡率はG7の中でも低いが、それほど大差はない
G7諸国の中でも、感染確定者の死亡率はドイツと並び最低レベルといえます。今日時点ではドイツより数字が悪いですが、日本のほうが高齢化率が高いことを考えれば、誤差といえる程度です。感染者にアビガンの投与すれば重症化率・死亡率を劇的に下げるという根拠も、数字を見る限りは疑問符が付きます。かかってしまえば、ほかの先進国と日本人も同じぐらい重症化し、死亡してます。

・PCR検査での感染者の検出率は相当に低い
抗体検査でアメリカ、イギリス、スペインそのほかの先進国で感染確定者の10倍程度の抗体獲得者がいることが明らかになっています。これは、PCR検査などでの感染者の検出率が非常に低く、感染者を適切に隔離できないということです。それが世界的なパンデミックが防げない要因でもあるでしょう。詳しくはこちらの記事を参照。

・PCR検査に依存しすぎない診断・行動自粛要請が効いた可能性
マスコミはPCR検査の検査体制の不備をしきりに指摘しますが、数理モデル上は偽陰性率の余りの高さに感染者数の抑制にはあまり効果はなく、むしろ陰性を確定せず、健康観察期間中の自粛を指示し、国民はよくそれを守ったことが再生産数の抑制に効果があった可能性があります。

・日本では集団免疫はまだ無理だろうし、自然免疫もたぶんない。
日本では無作為の大規模抗体検査がまだ行われていませんが、東京で献血を行った人で0.6%程度だったとの厚生労働大臣からの発表もあり、これでは集団免疫戦略は取れないということになります。
発生直後から「日本のBCGがコロナウィルスに効いている」説も有力視されていますが、今確定している数字だと積極的には肯定しにくいです。
今後の大規模調査で、抗体獲得者が大都市で数%程度以上いれば、「日本人がコロナに強い免疫を持っている」説も再浮上するので、そうなることを祈りつつ結果待ちです。個人的にはそうであってほしいとは思いつつも、可能性は低いかなと思っています。

・ファクターXとして、今のところ再生産数以外はあまり有意差がない
日本人の人口当たりの死亡率が極めて低い水準であることが、今世界で一番謎なのかもしれません。感染症自体への詳しい知識はなく、数理モデルだけを眺めている限りでは、他国との決定的な違いは再生産数ぐらいしかないです。日本人は単に「まだ感染していない」だけです。ファクターXと呼ぶには地味すぎですが。
今後、抗体検査の結果が先日の献血の結果と大きく違う結果となれば、そちらがファクターXとなる可能性はあります。

いろいろとつらつらと書いてきましたが、現在のところは、決定的な治療薬もワクチンもないのですから、3月上旬ごろの状態に何とか戻しただけに近い状態です。

個人的には80代後半の親族と同居していますから、高齢者は感染感度も高く、死亡率が高くて、予防法もない、検査精度も低く適切な感染者隔離が困難、決定的な治療法もない、という状態ですから、「うかつな外出ができない」という状況は全く変わっていないですね。

来年の今頃までは、あまり動かない覚悟をしていますが、そのころまでには何か決定的に状況が変わってくれるでしょうか。

コロナでろくに仕事もできないので、暇つぶしに数理モデルで今回のコロナウィルスの動向を分析しています。