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なぜ、コーラが吹き出すのか?
先日、コーラを自販機で買った直後にペットボトルの蓋を開けたらコーラが吹き出しました。
「なんでビシャってなったの?」という4歳の娘の質問にその場でうまく回答できなかったので、今回は自分の理解のために、なぜコーラがペットボトルから吹き出したのかについて、順を追ってメカニズムを確認して、反省したいと思います。
コーラの中に二酸化炭素が閉じ込められている
まず、コーラには二酸化炭素(CO2)が高い圧力によって水に溶けています。コーラのシュワシュワ感は、この二酸化炭素が原因です。製造時には、二酸化炭素を水に圧力をかけて溶かす「炭酸ガス注入」という方法で作られています。
分子間力(分子同士が引き合う力)によって、二酸化炭素は液体に溶け込んでいます。ここでいう分子間力とは、分子の中でプラスとマイナスの電荷が引き合う力で、重力とは違います。
どういうことかというと、気体の分子は通常、自由に動き回る性質を持っています。圧力が低いと、気体分子は広がろうとし、液体に溶けにくくなります。
しかし、圧力をかけることで、気体分子が液体に押し込まれるようになります。圧力がかかると、気体分子は狭い空間でゆっくり動くようになり、液体の表面に近づきやすくなります。そして、液体の分子との間に強い引力(分子間力)が働き、気体分子が液体に閉じ込められた状態になります。
この状態を保てるのは、ペットボトルが密閉されていて、外の空気よりもボトルの中が高い圧力で保たれているためです。高い圧力のおかげで、二酸化炭素は水に溶けていられるのです。この状態を「溶解平衡」といいます。
ペットボトルを落としたり振ったりすると、気泡の核が形成される
ペットボトルを落とすと、慣性の法則によって中の液体が急激に上下や横に動きます。液体はすぐには止まらず、ボトル内で揺れ続けます。このとき、液体とボトルの壁との間で摩擦が起き、液体が乱れる(乱流)ことで、液体の中で圧力の変化が起こります。
この圧力の変化が、小さな気泡を作りやすくします。液体中の小さな不純物やボトルの内側のざらざらした部分に、気泡の「核」となる場所ができます。この「核」は、気体(二酸化炭素)が集まりやすい場所で、後に大きな泡を作るきっかけとなります。
物理的に見ると、この「核」に気体分子が集まる理由は、そこがエネルギー的に楽な場所だからです。気体分子は、液体中にそのまま溶けているよりも、この「核」の周りに集まる方がエネルギーが少なくて済むため、自然に集まっていきます。
核周辺の乱れが表面張力を下げるのでエネルギーが少なくて済む
なぜエネルギーが少なくて済むのでしょうか? これは、液体の中では、気体分子が泡を作るために表面張力という力を打ち破る必要があることが関係しています。
表面張力とは、液体の表面で分子同士が引っ張り合って、膜のように振る舞う力です。たとえば、水の上に小さな針を置くと浮くことがありますが、これは水の表面が薄い膜のようになっているからです。小さな水滴が球になるのも同じ原理です。この力のおかげで、水や液体は表面積をできるだけ小さく保とうとします。
では、なぜ分子同士が引っ張りあって表面を小さくしようとするのでしょうか?
液体の中にある分子は、周囲全方向からほかの分子と引っ張り合っています。しかし、液体の表面にいる分子は、上方向には他の液体分子がいませ。そのため、表面の分子は、下や横方向からの引力だけを受けています。この引力の不均衡が、表面の分子をより密に引き寄せ合う状態を作り出し、分子はより安定しようとするため、表面積をできるだけ小さく保とうとします。
ここで「上方向に気体分子はいるのでは?」という疑問があるかもしれません。確かに気体分子は存在しますが、気体分子は液体分子と比べると非常に軽く、密度が低いため、液体分子に強く引っ張る力を与えません。結果として、液体の表面分子は、ほとんど下方向と横方向にしか引力を感じず、表面を小さくすることでエネルギーを減らそうとするのです。
気泡の「核」がある場所では、液体が乱れているため、表面張力が弱くなっています。そのため、新しい泡を作るために必要なエネルギーが少なくなり、気体分子が集まりやすくなるのです。核がない場所で新たに泡を作るよりも、核がある場所ではエネルギー的に楽に泡が作られるのです。これが「エネルギーが少なくて済む」という理由です。
気泡の核に二酸化炭素が集まる
液体の中に「核」ができると、その周りにCO2分子(炭酸ガスの分子)が自然に集まり始めます。その理由は、核がCO2分子にとってエネルギー的に安定した場所を提供するからです。分子は、エネルギーが低い場所、つまり安定した場所に集まりやすい性質を持っています。核があると、周りにいるCO2分子は、エネルギーを少なくして安定したいので、自然と核に引き寄せられます。
CO2分子が核に集まると、気泡が大きく成長し始めます。この気泡は、CO2が気体として液体から出てくる形で膨らんでいきます。気泡ができると、その中の気体(CO2)は液体よりも軽いため、浮力によって上に移動しようとします。一方で、周りのCO2分子が次々と核に引き寄せられて、さらに気泡を大きくします。
このようにして、気体が液体の中で体積をどんどん膨らませていくのです。
ふたを開けたときに圧力が急激に低下して気泡が急速に膨張して液体が吹き出す
ここでペットボトルのふたを開けると、中の高い圧力が外の空気と同じ圧力(低い圧力)になります。この圧力の急な変化によって、液体に溶けていた二酸化炭素(CO2)が溶けたままでいられなくなり、気体として外に出ようとします。これは、圧力差が気体を拡散させる働きをするからです。
圧力が下がると、液体に溶けていられるCO2の量が減少します。高い圧力では多くの気体が液体に溶けることができましたが、低い圧力ではそのバランスが崩れ、CO2は気体に戻ろうとします。このとき、CO2分子が液体の中を移動し、核に集まりやすくなります。
高圧から低圧への急激な変化によって、CO2分子は液体中での結びつきが弱まり、気体に戻るエネルギーが与えられます。圧力が低くなると、CO2は気体に戻りやすくなり、気泡として膨らんでいきます。
気体は、圧力が下がると体積が増加します。これはボイルの法則と呼ばれる現象で、一定の温度では気体の体積が圧力に反比例するため、圧力が低くなると気体が膨張するのです。たとえば、ふぐが水の中では縮んでいても、地上では膨らむのと同じ原理です。
気体の密度は液体よりも軽いため、気泡は液体の中で浮力を受け、上に上がろうとします。振動によって多くの核ができていると、気泡が一斉に膨張し、液体全体を押し上げる力が強まります。
特に、気泡の膨張が早いと、液体が強く押し上げられ、外に噴き出す力が生まれます。気泡が急速に膨らんで上に移動すると、液体も一緒に持ち上げられて噴出します。これは、ロケットが燃料を噴射して飛び上がるのに似た現象です。
気泡が急激に膨張しながら浮力で上に移動すると、液体も一緒に押し上げられます。多数の気泡が同時に上昇するため、液体全体が持ち上がり、ペットボトルの口よりも高くなろうとして、結果としてコーラが勢いよく噴き出します。このとき、圧力差と浮力が組み合わさって噴出が発生します。
メカニズムのまとめ
以上のプロセスをまとめれば、以下の通りです。
1、コーラの中に二酸化炭素が高圧で溶け込まされている。
2、ペットボトルを落とすとコーラが動いて大量に核ができ、二酸化炭素が集まって、大量の気泡ができる。
3、蓋を開けると減圧されて、コーラの中の二酸化炭素が気体になることに加えて、大量の気泡が膨張し、液体を全体的に押し上げる。
4、その結果、ペットボトルからコーラが吹き出す。
これが、コーラを振ったり落としたあとにふたを開けると、コーラが勢いよく吹き出すメカニズムです。
コーラのペットボトルを落としたらどうすればよいか?
まず1つ目の対策は、ペットボトルを静かに置いて、数分間待ってからふたを開けることです。
気泡の「核」は、液体が動いている間は比較的安定して存在しますが、液体が静かになると、液体分子が再配置されて核が崩壊しやすくなります。核が崩れると、CO₂が新たに気泡を作ることが難しくなります。
そして、液体が静止している状態では、気泡内部のCO₂分子が液体へ再び溶け込む現象が進行します。気泡は外部との境界面において表面張力により収縮しようとする力が働きます。そのため、気泡内の気体分子は少しずつ液体中に拡散していき、気泡の大きさが減少し、安定するのです。
2つ目の対策は、ふたを少しずつ開け締めすることです。圧力が急に変わるとCO₂が一気に気体になり、膨張してコーラが吹き出します。ゆっくりと外の圧力に近づけながら開けると、CO₂が少しずつ放出されて、吹き出しを防げます。
3つ目の対策は、冷やすことです。温度が低いとCO₂が液体に溶けやすくなり、気泡ができにくくなります。また、液体や気体の分子の動きが遅くなるため、表面張力が強まり、気泡が成長しにくくなります。これにより吹きこぼれを防げます。
こうしたことを考えると、夏に自販機から落ちてきたコーラをすぐに強く握って一気に開けた私は、最悪の選択をしていたことがわかります。今年の冬は、数分待ってから慎重にふたを開けるように反省しました。