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「やる気」のつくり方

いつ人は「やる気」や「没入感」を感じますか?
山を登っている時、楽器を演奏している時、マンガを読んでいる時。
スポーツの世界では「ゾーン」と呼ばれるものがそうでしょう。
周囲や時間を忘れるくらい集中していて、気持ちがとてもポジティブで良い心理状態です。
そして勉強や仕事など、いつでも好きな時にそのやる気や没入感を作ることはできないのでしょうか。

心理学ではそのような状態を「内発的動機付け」や「フロー」と呼ばれるそうです。 米国ノースイースタン大学のメルニコフ研究員がその「フロー」の発生条件を情報学の理論で上手く説明できたという論文を発表し、なかなか興味深い内容でした。
引用論文:https://www.nature.com/articles/s41467-022-29742-2#Abs1

「やる気」で悩む人の為に、論文のエッセンスを元に「やる気」のつくり方を考えていきます。



「やりたい事について未来の曖昧さが減った時に人は没入感が高まる」

結論から述べると「やりたい事について未来の曖昧さが減った時に人は没入感が高まる」とこの論文から読み取れます。

論文に書かれている表現では「やりたい事(M)に対して目標達成に関係する情報(E)を得た時の相互情報量I(M;E)が高まると没入感の向上が確認できる」とされています。
言葉が専門的過ぎますので、簡単な思考実験をしながら具体的に考えていきましょう。

コイントスの思考実験

例えば貴方はコイントスの賭け事に参加しようか悩んでいるとします。
普通のコインならば表と裏の出る確率は共に50%ずつ、貴方が当てる確率は50%です。
貴方はこの賭け事に参加したいですか?
50%の確率で負けてしますので微妙と感じるかもしれません。

ここで、貴方は表面が90%の確率で出るイカサマ付きコインを入手しました。そのコインを持ち込んで賭け事に参加できます。
すると「それなら賭け事に参加しても良い」と感じませんか。
また更に表面が99%で出るイカサマ付きコインを入手したらどうでしょう?
もっと「賭け事に参加して良い」という気持ちになりますでしょうか。
イカサマで例えるのは道徳的に良くないですが、「賭け事に参加してみよう」とポジティブになった感じがすると思います。

論文の著者はこの心情の動きを情報理論の「相互情報量」で上手に表現できると主張しています。その「相互情報量」とは下記の数式で表せます。

相互情報量I(M;E) = 平均情報量H(M)- 条件付きエントロピーH(M|E)

情報理論の専門用語が出てきていますが、これらはエクセルなどを使えば計算できます。計算の仕方は別の記事(https://logics-of-blue.com/information-theory-basic/)に委ねるとして、ここでは具体的な計算結果のみを見てみましょう。

表. 各コイントス条件での平均情報量、条件付きエントロピー、相互情報量

この表で先ほどの思考実験をした3パターンにおける相互情報量を計算しています。
コインの表面の確率が上がる、つまりイカサマの度合いが上がるほど「賭けに参加しても良い」と感じましたが、ともなって相互情報量の計算値も確かに上がっています。この計算アプローチは心情の変化を上手に数値で表現出来ていると言えそうです。

ここで相互情報量が増えるということは「条件付きエントロピー」の項目が小さくなるという事と同じです。「条件付きエントロピー」とは「何か条件がついた時の事の曖昧さ、不確実さ」の量を示しています。
つまり「やりたい事について未来の曖昧さが減った時に人は没入感が高まる」という提言がこれらの検証結果から読み取れると思います。


本提言の注意点

論文でも述べられていますが、この「やりたい事について未来の曖昧さやが減った時に人は没入感が高まる」には2つの注意点があります。
 
一つにこの着眼点だけで全ての「やる気」や「没入感」を説明出来ないことです。
もしやる気が出ないと感じた時、それは単純に身体が疲れているだけかもしれません。その場合は無理に頑張るよりも良く休養をとった方がきっと良いでしょう。あくまでこの提言は「やる気」を出す1つの要素として捉えてください。
 
もう一つに「未来の曖昧さ」というのは人の主観的な量です。同じ物事でも人それぞれに感じ方は異なり、それに伴って「未来の曖昧さ」も変化します。先ほどのイカサマコインの例も「バレるかもしれない。そうなるとどうなるか分からない」と考えると、未来の曖昧さは増加し、やる気は出ないでしょう。
逆に考えると、物事の主観的な捉え方がやる気のつくり方において重要であるともいえます。


本提言の使い方

やりたい事について未来の曖昧さやが減った時に人は没入感が高まる」と提言致しました。
この考え方を元にして、「やる気」が起きないと感じた時には下記の自問をしてみてはいかがでしょうか。

作業の次の動作がボンヤリしていないか?  

「勉強や仕事をすべき」と頭で思っていても、次の動作の有効な一手の情報がなければ、気持ちは曖昧なままです。もしかしたら勉強法が具体的に分かっていませんか?仕事の手順が具体的に分かっていませんか?
そういう場合は自分のアクションを有効に導くような情報を探し始めた方が良いかもしれません。一度やりたい事の進行を止めて、ネットで調べたり、同僚や友人に聞いてみたりして、自分の次の一手が決まるような情報を探すのも有効でしょう。
 多くのテレビやスマホのゲームなどは「目的達成の為の次の行動の情報」が常にどこかに提示されるようにデザインされている為、やめ時を忘れてついつい没頭してしまいます。
あらかじめやるべき事を調べ、具体的にまとめた「ToDoリスト」を作ってその通りに作業するのも、自分の「没入感」を演出として有効でしょう。

次の動作の選択肢が多過ぎないか?何でも出来すぎる環境にいないか?

特に自宅勤務の方などは感じたことがあるかもしれません。
パソコンや机に向かって作業をしなければならないのに、いざとなればスマホで動画を見ることも、そばにあるベットやソファで寝ることも出来てしまします。
出来てしまうとつい次の行動の選択肢になってしまい、なかなか進めたい作業に手が付かないことがあります。できることが多すぎると次の行動の不確実さは上がります。
よってスマホの電源を切る、仕事空間を仕切るなど、仕事以外の選択肢が無いような環境を用意するのも、やる気を起こすきっかけとして有効な手段と考えられます。


さいごに

ここまで読んで頂いてありがとうございます。
やりたい事について未来の曖昧さやが減った時に人は没入感が高まる」という考え方はやや抽象的ですが、私はこの論文を読んで「確かにそうかもしれない」と思い、周りの作業環境を整えたり、仕事の工夫の参考にしています。実感として以前よりスムーズに集中状態に入れている気がします。
この提言が「やる気」に悩む人への一つのテクニックになれば幸いです。

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