「愛されなくて悲しい人」「愛せるから幸せな人」
「お前じゃ話にならん。店長を出せ」
顔を真っ赤にした中年男性が、コンビニのレジで若い女性を怒鳴る。右手の手の平でレジカウンターを、バンバン叩いて威嚇しながら。
理由はわからない。どうやら女性店員の対応に腹を立てているらしい。
怒鳴られた女性店員は、真っ青になりペコペコと平謝りだ。
クレーマーに絡まれた店員という構図だが、この中年男性には愛が足りていない。
昔はたくさん愛されていたのに、今は誰も彼を愛してくれない。
怒りの正体は悲しみだ。
誰も自分を愛してくれないのが、とても悲しい。
でも「俺を愛してくれ」なんて、恥ずかしすぎる。そんなこと、いい年した大人の俺がとても口にできない。
「俺は大人だ。隙を見せちゃいけない。隙を見せないためには、どうすればいい? そうだ!怒りで威圧すれば、いいんだよ。なぜなら俺は怒りなら、いとも簡単に表現できる」
怒りを表現し続けた人は、自分と同じ悲嘆に暮れる人を増やす。
怒りに憑りつかれた彼は、もはや自分の本音に気づけない。自身の心の声を聴けなくなってしまったから(本当は聴こえているけれど)。
翌日、同じコンビニで同じ店員の女性に、笑顔で話しかける老年の男性がいた。
「いつも、ありがとうね」とニコニコ笑う姿は、まさに好々爺だ。
男性に話しかけられた女性店員は、ぱっと笑顔になる。
八つ当たりされることの多い仕事の中で、癒される一瞬だ。
この老人は、誰からも愛されている。
だから人を愛せる。
愛を受け取るのが得意だ。
だから人を愛せる。
言葉で「愛されて幸せ」と伝えることこそないが、行動や表情でそのメッセージをこまめに届け続ける。
彼に愛された人は、愛を受け取りたちまち笑顔になっていく。
彼は受け取り上手で、与え上手。
「愛されなくて悲しい」と感じる人が増えると、この国はどんどん沈んでいく。
「愛されて幸せ」と感じる人が増えると、この国はどんどん豊かになる。
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