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メタモルフォーゼ
「そろそろ、この体を脱ぐときが来たような気がする」
そこはかとない不安にかられて私は言った。
「体を脱ぐ」という言葉が、ここしばらく頭に浮かんで消えない。儚げで、かすかな甘い匂い。この匂いを、私はたぶん知っている。
確信に似たものを感じていた。
そろそろ、この体を脱ぐときが来たような気がすると。
主人はきょとんとした顔で答えた。
「脱皮するってこと?」
思いもよらないその言葉に、世界がぐるっと反転した。フィルムのネガがポジになる、そんな感覚。
そうか、これは脱皮なのだ。
「うん、蝶になるのかもしれない」
と私の口が勝手に喋っていた。蝶になるなんて思ってなかったはずなのに。
主人は戸惑いながら言った。
「それって、完全変態ってこと?不完全変態じゃなくて?」
「そう。私、どうせ脱皮するなら完全変態がいい」
しばらく二人でそんな会話を続けた。完全変態と不完全変態がどう違うかはよく分かっていなかった。娘が帰ってきたら聞いてみよう。
「じゃあ、仕事行ってくる」
「行ってらっしゃい」
主人を見送ってふと、サナギから蝶になることをメタモルフォーゼって言うんじゃなかったかな、と思い出した。響きがかっこよくて、どこか懐かしい。
そんなことを思いつつ、今日も娘の図鑑のページを捲る。図鑑の香りが、心地良くリビングに広がっていた。
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以上、急にひらめいたので書いてみたお話です。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。