高田馬場のネイルサロン
今年の春頃からネイルサロンで爪を可愛くしてもらうのにハマっていた。
ふとした瞬間にキラキラ・ちゅやちゅや・ごてごてと自分好みに仕上げられた爪が目に入ると、思わずにんまりするくらいには気分があがる。
ただ難点があって、爪は約一か月で生活しにくい長さまで伸びるため、毎月サロンに通っているとそこそこお金がかかる。それに、最近はやりたいデザインも尽きてきた。
ということで、ジェルネイル生活から一旦素爪に戻ろうとネイルオフのみ施術してくれるサロンを探すことにした。
予約したサロンはコスパ重視で探した高田馬場のサロン。予約ページに口コミが無いのが心配だったが、日程の都合とまあオフだけだしということでそのお店に決定した。
予約後に送られてきた店の住所を見ると、どうやらマンションの一室のようだった。営業可能なマンションの一部屋を借り、プライベートサロンをこじんまりと営まれているサロンは今までもちらほら見かけていたので、そのタイプだろうと思うことにした。
そんなこんなで今日はそのサロンにお世話になるべく、高田馬場へと出向いた。
話が少し逸れるが、私は地方出身のため都内でも降りたことがない駅や訪れたことの無い土地がまだまだ存在する。実は高田馬場もその一つだった。(正確にはどっかから新大久保まで歩いてて通り過ぎたことはある)
人によって、そこに自分が滞在していて肌感の合う土地、合わない土地というものが存在すると思う。私に限って今までの傾向を言うと、人も多く小汚い小道が込み入った渋谷の道玄坂エリアや、様々な風俗が入り混じった池袋の猥雑な空気感は特にどうも苦手で、感覚的に嫌悪感を感じる土地は用事が無い限りできるだけ避けるようにしている。
今日は先に用事があった大塚から高田馬場まで歩いてみることにしたのだけれど、単刀直入に言うと高田馬場も(その通過エリアも)あんまり好きじゃない空気漂う街であった。駅周辺しかうろついていないが、歩道がそこはかとなく汚くて、狭い土地に席間隔の狭いチェーン店がひしめいていて、その中でも飲み屋が心なしか多くて、色んな店があるけどどこもこだわりがなさそうでこれといって食指の動く店は無い、駅前の様子がごちゃごちゃっとしている空気感・・・?
まあ山の手沿線って大体そんなもんか・・・と思いつつも、何となく好きじゃないなぁと居心地の悪さを覚えるような、自分の収まりの良い居場所がどこ探してももないような感覚がある街だった。
せっかくだから高田馬場にしかない飲食店でランチでも食べようかしら、と訪れる前までは考えていたけど、駅前に到着した時点で食べたいものも気になる店もピンと来なかったので、これまた何気にお初な富士そばでカツ丼を食べてみた。味は至って普通だったけど、妥協案としてその時の気分と胃袋的には最適解だった気がする。
カツ丼を食べ終わり、いよいよ趣旨であるネイルサロンへ向かうことに。地図を見て少し迷いながらも指定のマンションにたどり着き、サロンがある5階へ向かった。
マンションは何の変哲もないコーポといった感じ。でも、他にも住居以外の目的で使われている部屋がありそうな雰囲気だった。
サロンの前に到着し念のため部屋番を確認した後、インターホンを押した。
ピンポーンと音がして少し経ってから部屋のドアが開いた。
「いらっしゃいませ」と声をかけられて中に入ると、まさにマンションの一室というような小さな玄関で靴を脱ぐように促され、用意されたスリッパを履く。そして、奥へ進むと9畳程度の1K部屋にネイリスト4人が机いっぱいに道具が乗った長机に横並びに座り、お客さんを施術していた。
1人のネイリストに対して1人客がいるから9畳の部屋に8人がいる状態は、率直に言うと人口密度が高くてせせっこましい。予約時間より少し早く行ってしまったのだが、待っている時間は空いている部屋の片隅に立っておくしかなかった。
時間があるし一応お手洗いを済ませておこうかとトイレを借りると、ユニットバス。めちゃめちゃ家である。まあそうかと中に入って便器を開けると、たぶんこのまま流したら水道業者を呼ぶことになりそうと思う無機物が浮いていたのでそっと蓋を閉じ、手だけ洗わせてもらった。
予約時から何となくそんな予感がしていたのだが、案内してくれたスタッフさんの話ぶりからしてこの店は外国人の方々で営んでいるネイルサロンなのだと分かった。予約したネイリストさんの名前は日本語だったけれど、ネイリスト間の会話も中国語で行われている。お客さんとネイリストさんは必要最低限しか会話をしていない様子で、黙々と作業を進めるネイリスト達の後ろに置かれた小さなテレビには男女逆転版バチェラーが流れていて、それを時々客達が手持ち無沙汰そうに見ていた。
施術については、一応ネイルオフをしてもらうという本懐は果たせた。
「削ってて熱かったり痛かったら言ってください」「わかりました」みたいな簡単な会話は途中で交わしつつ、基本的には黙々と作業してもらう形。
集塵機が前のお客さんのごみで汚れていたり、削れそうな部分はゴリゴリっと削られて爪先が割れるような薄さに仕上げられたり、言ってしまえば『粗雑』の一言に尽きるけれど、お値段相応ということで飲み込んだ。(爪整えるケアまで含まれているものだと思っていた私の勘違いもあった)
一通りオフが終わって「気になるところありますか?」とネイリストさんに聞かれた。正直気になるところだらけだったがその頃にはすでに次のお客さんが来ていたので、私は「大丈夫です」と答えてお会計を済ませ、また小さな玄関で靴を履き店を出た。何でもいいからもうこの空間から出たい、という気持ちも正直あった。
30分960円。単純計算で1時間1920円のお仕事をこのネイリストさんたちは小さな部屋で10:00~21:00の間ほぼ毎日繰り返しているんだなぁと思うと、なんだか息が詰まるような時間だった。
これまで通ったネイルサロンのお姉さんたちはみんなネイルデザインを考えたり施術をすることが好きと言っていて、忙しくて大変そうだけれど、ネイリストという職にこだわりや好きが詰まっているように客である私には見えていた。サロンの店内も店によって内装やインテリアの雰囲気が違って、その店ごとのブランディングやこだわりがあるんだろうなと感じていた。
でも、今日のサロンにいたお姉さんたちからはそれが透けて見えなくて。
この土地で生活をするために、お金を貰うためにやっている仕事がネイリスト。その仕事場として借りられているワンルームでしかなかった。それこそ、私が空腹を収めるために食べた惰性のカツ丼、私から見える高田馬場のようにも思えた。
帰り、駅前に学生用ローンがあるのって絶対早稲田生ホイホイじゃんって思いながら山手線内回りのホームに向かった。降りたのは原宿、気になるコートがあったので一目見て見たくラフォーレに寄った。それから渋谷方面まで歩いてニコアンドで服を2着、無印で洗顔フォームを買って帰るうちに、何となくざわめいていた心が少し落ち着いた気がした。こういうとき、私の中に社会を青と白で切り離して考える思考が存在してしまっていること、内在的な差別的感覚を自覚させられる気がしていつも言い知れぬ感情になる。