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約1年作り続けてわかった、上製豆本の作り方(印刷データ作成編)

手のひらサイズだけど、中を開くと普通の本(?)のように読むことができ、なおかつとってもかわいい豆本。あなたはそんな豆本を自分の手で作ってみたいと思ったことはありませんか?

難しそう?特別な道具がいる?
ご心配には及びません。ポイントをしっかりと抑えながら、着実に工程を踏まえれば、豆本は身近な道具で誰にでも製作することができるんです!

なぜそんなことを言い切れるのか。

実はこの記事を書いている私が、豆本製作未経験ながら過去3回のイベント即売会で手作りの豆本を販売、またはプレゼント用に製作してきたから。

自己紹介遅れましたが、わたくし、小説の執筆から編集・出版までを個人でこなすレーベル「HS書架」の代表をしている春紫苑というものです。

詳しくは上記記事にHS書架のことを書いていますが、軽く説明を(ちなみに自己紹介に興味がない方は、豆本製作本編からお読みくださいね)。

7年前にWEB小説投稿サービスの『小説家になろう』で小説執筆を始め、出版レーベルを立ち上げたのが2年前の2022年。それから1年後の2023年に、初めて『文学フリマ京都』でイベント即売会へ出店デビューしました。

この時はまだ豆本を製作していなかったのですが、それから半年後の文学フリマ大阪でノベルティ用の豆本を製作。

そこから1年で約3冊の豆本を製作、出品できました。ちなみに出品した豆本は、BOOTHショップでご確認いただけます。

おかげさまで、どの豆本も

「かわいい」
「作りがしっかりしてる」

とご好評いただいております。

最初は拙かった豆本製作も、試行錯誤を繰り返し、少しずつ改良してようやく方法が確立してきました。

そこで今回は、小さいけどまるで印刷所で製本をしたような(上製本の)豆本を手作りしてみたい方のために、私がたどり着いた豆本の製作方法を共有したいと思います。


この記事をお読みいただきたい読者

豆本を作りたいけど、何から始めればいいかわからない
本文や表紙のデータは用意できるけど、製本方法がわからない
そもそも本てどうやってできてるの?と疑問の方
HS書架の豆本は信頼できるの?と疑問の方

上記に当てはまる方は(それ以外の方も)、ぜひお読みいただけると嬉しいです♪



豆本製作記事の構成

本記事は、製作段階を4つに分けて書くことにします。

※9/24追記
記事の構成順について、合理性を鑑みて本文作成編と表紙作成編を入れ替えました。


  1. 印刷データ作成編(この記事)

  2. 本文作成編

  3. 表紙作成編

  4. 最終製本編


各段階の大まかな内容

印刷データ作成編
豆本を実際に製本する前に、印刷用のデータづくりと印刷について、軽く触れます。例えばどのようなプリンタを使っているのか、印刷データ製作のちょっとしたコツや注意点などについてです。

本文製作編
豆本の表紙以外の部分(本文と私は呼んでいます)の製作方法について書いていきます。

表紙製作編
上製豆本(と私が勝手に名付けている、上製本を見本とした豆本)の部分は、主に表紙と本文に大別できます。その表紙の製作方法について書いていきます。

最終製本編
先の工程で完成させた表紙と本文のパーツを合体させて、最終的な上製(豆)本へと仕上げる方法について、書いていきます。

(豆)本の構成について

ではさっそく豆本づくりについて、書いていきましょう!といきたいのはヤマヤマなのですが、豆本を作るうえで最低限知っておきたい本の各部分について、軽く触れておきます。

上製豆本の各部名称
  • カバー:表紙を保護したり、豪勢に見せるための紙(など)

  • 表紙:本文を覆う「本の顔」。上製本だと固い紙が使われることが多い

  • 見返し:本文以外の用紙。表紙に貼り付ける「効き紙」と表紙と本文の間にある「遊び紙」がある

  • とびら:本文に入る前のページ。タイトルが書かれたとびらのほかに、本文中のくぎりに挿入する「なかとびら」もある

  • のど:背表紙側(見開きの真中部分)の名称

  • 小口:本の開口側の名称

豆本製作の記事では、本の各名称の用語を使って作り方を説明することがあるので、聞き慣れない言葉が出てきたら、上記をご参照くださいね。(なるべくその都度説明を挟むつもりですが)

豆本製作の道具一式

では製本用の道具について見ていきましょう。
私が豆本製作で使う道具一式がこちらになります(ただし表紙や本文に使う紙類は除く)。

豆本製作の道具一式
  1. 太筆

  2. 細筆

  3. ペンのり

  4. でんぷん糊

  5. 糊をかき混ぜるための皿

  6. 木工用ボンド

  7. スティックのり

  8. ブラシ

  9. 0.2mmのシャープペンシル

  10. 金定規

  11. やすり

  12. カッター

  13. はさみ

  14. クリアファイルの断裁したもの

  15. クリップ大

  16. クリップ小

  17. ガーゼ

こちらの道具類をどう使うのかは、各工程で改めて説明しますが、ぱっと見る限り、身近な道具で揃えられると思いませんか?

この道具の中でも私がこだわって選んだものもあるので、どこで購入できるのかは、各工程記事の最後にリンクをしておきますね。

豆本製作の印刷データ

ではいよいよ豆本の作り方に移りましょう!

といってもこの記事は基本的に『豆本の製本方法』を共有したいと考えているので、本文のデータ作成方法については軽く触れるにとどめます(需要があれば、『入稿データの作り方』を記事にしますが……)。

本文入稿データ

HS書架では、本文の入稿データ(この場合印刷業者にデータを渡すわけではないので、私自身に入稿するわけですが)、Adobe製品の組版ソフト『Indesignを使用しています。

↓Adobe InDesign公式ページ

理由は、やはり専用ソフトなだけあって、柔軟なデータを作ることができるから。たとえば児童文学書によく見る、文中にイラストを置いてテキストを回り込ませるレイアウトを作る時。 

イラストの周りに文章を回り込ませるレイアウト例

文とイラストが別データなら、1ページを丸ごとイラストにするしかないのですが、Adobe Indesignはこのようなことも比較的かんたんに実現できます。

またページの雛形を作り、各ページに適用できるため、判型を途中で変更したり、余白や文字サイズをあとから変更することも、他のソフトと比べると手間がかからずできる利点があります(この機能は後に記載するデータ製作時の注意事項でする工程で、とても役に立ちます)。

他にも様々な利点がありますが、この記事ではこれ以上書かないので、詳しくは「Indesign」や「インデザイン」で検索してみてくださいね。

表紙の入稿データ

もう一つのデータである表紙の入稿データについては、おなじくAdobe製品のレイアウト作成ソフト『Illustratorを使用しています。そうです、HS書架はAdobe信者なのです!(笑)

ちなみに表紙のデータは、お家プリンタで印刷できる最大の大きさ、A4の紙で2冊分配置することができるため、同じデータを2つ並べて印刷しています。

表紙データ(印刷時のもの)

本文印刷時の注意点

ここで豆本製作における、本文データ製作時の注意点をお伝えします。

私が使用している家庭用プリンタでは、両面印刷の精度が低い(各面で印刷位置がずれてしまう)ため、片面の印刷を半分に折り曲げて各ページを作っています。

↓HS書架が使っているプリンタ

本文ページを作るときは、通常「ノド」と呼ばれる背表紙側(見開き中央部分)の余白を小口側(ノドと反対の開口部分)よりも大きく取ります。理由は簡単で、本を開いたときにノド側は紙の重なった部分が読みづらいから。つまりページの左右で余白が異なるわけですね。

また両面印刷での入稿データは、見開きの偶数ページを右側、奇数ページを左側に配置するのですが(手元の本を見ていただくとわかります)、片面印刷を折り曲げてページを作る場合、紙の右側に奇数ページを配置し、左側に偶数ページを配置する必要があります。

HS書架では、『InDesign』でレイアウトするとき、まず通常のページ配置(偶数右、奇数左)でデータを作成します。その後豆本用にページを配置しなおします(偶数左、奇数右)。この配置し直し段階で、先ほど記載したノド側の余白と小口側の余白を入れ替えるわけですね。

これをページごとにすると、ページ数が多くなればなるほど見落としが発生する可能性が高くなります(実際手作業でしていたときは、空きがそのままのページを印刷してしまった失敗もあります……)。

『InDesign』ではこのページ入れ替えの作業を、偶数ページ、奇数ページの雛形を調整するだけで、全ページの空きが設定されるのです。これは時間短縮だけでなく、抜けやミスも大幅に減らすことができます。特にポンコツな私にはうってつけの機能!

Indesignが便利とはいえ、Adobeソフトはなんだかんだいって使用する費用がお高いので、それぞれにあった形でデータを作成していただくのがいいかと思います。


【2024年9月27日追記】表紙印刷時の注意点

表紙データ作成時の注意点についても触れておきましょう。

本文は判型(本の大きさ)のサイズでそのままデータを作り、印刷すれば問題ないのですが、表紙は判型よりも一回り大きく作る必要があります。

理由は3点。まず表紙そのものが判型よりも本の上下(天地)と開口部(小口)側に少し大きいこと(※下図の①)。ハードカバーの本がお手元にあればわかりやすいと思います。おそらく本文を保護するための処置でしょう。

2点目。表紙に使う厚紙に、同じく上下、開口部側に折り返して貼り付ける必要があるからです(※下図の②)。書架の表紙では、それぞれ1cmほどののりしろ部分を設けています。

最後の3点目。背表紙の厚紙と表表紙、裏表紙の厚紙の間に、少し余白をもたせるから(※下図の③)。この余白があるおかげで、本の開きやすさが確保され、使い勝手が良くなります。

表紙の裏側から見た付け加える大きさ(片側のみ)

私が製作した豆本を例に、表紙の印刷サイズを計算してみます。

  • 判型はB8(縦91mm、横64mm)

  • 背表紙は本文の束を測ったところ、3mm

  • 厚紙を少し大きくする部分(①)が縦横2mm。天地表裏分で2倍の4mm

  • 厚紙に折り返して貼る部分(②)が縦横10mm。天地表裏分で2倍の20mm

  • 背表紙と表表紙、裏表紙の余白(③)が3mmずつ、計6mm。

縦幅の計算式はこちら。

91mm + 4mm + 20mm = 105mm

横幅の計算式はこちら。

64mm×2(表裏) + 4mm + 20mm + 6mm = 158mm

これが表紙印刷データの仕上がりサイズになります。実際は仕上がりサイズに印刷用塗り足し3mmを上下左右に加えて、最終111mm × 164mmでデータを作りました。


以上、HS書架の豆本データ作成について記載しました。
このやり方はあくまでHS書架の方法ですので、参考程度にお読みいただけると幸いです。

次の記事からは、いよいよ豆本を実際に作っていく作業を解説していきます。引き続きお付き合いくださいませ。


本記事で使用している道具(やソフトウェア)

Adobe Creative Cloud コンプリートプラン

※Adobe製品のソフトがすべて使えるサブスクリプション(月額ライセンス制)サービス。本記事で紹介したInDesignやIllustratorも含まれます


Canon プリンター インクジェット複合機 PIXUS TS6330

A4で出力できる、ごく一般の家庭用プリンタです。


書架の豆本たち


豆本製作ほかの工程はこちらからどうぞ。


  1. 印刷データ作成編(この記事)

  2. 本文作成編

  3. 表紙作成編

  4. 最終製本編



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