「日本でキャリアを終えたい」~ミラン・ラパイッチのインタビュー(2006年収録)
ワールドカップ・ドイツ大会のグループリーグで日本とクロアチアが二度目の対戦をすることになった2006年。当時、クロアチアに住みながら取材活動をしていた私は、あらゆるサッカー関係者にインタビューしました。
その中で特に印象に残っている一人が、ミラン・ラパイッチ。ペルージャ時代に海外挑戦一年目の中田英寿と共演したことで、日本でもなじみのあるクロアチア人アタッカーです。強烈な左足と強引なドリブルが武器ですが、そのキャラクターも型破り。中田氏も「反面教師みたいな選手だけど、そのポテンシャルは凄かった」と公式YouTubeの番組で振り返っています
ズラトコ・クラニチャール監督率いるクロアチア代表では構想外だったものの、彼に話を直接聞くべくベルギーを訪ねたのが2006年3月。インタビューのアポイントに翻弄され、肩透かしな回答も多かったのですが、クロアチア代表に対する思いや、Jリーグのプレー願望がテーマになると表情が真剣になったのを覚えています。
ワールドカップ後にクラニチャール監督が更迭され、スラヴェン・ビリッチ監督が就任すると33歳で代表復帰。ベテランとして若返を図るチームを牽引するも、2007年夏にスタンダール・リエージュを退団してからは代表チームと縁遠くなり、2008年に二部リーグのトロギルで半年プレーしたのちに現役引退となりました。
報知新聞用にインタビューしたものですが、今回は未掲載の部分も含めて掲載します。インタビューの際にはコーラを飲んでいたので、噂に聞いていた「コーラを一日ペットボトル二本を飲むって本当?」と質問したのですが、「そんなわけない」と返されたことも想い出です(笑)
(インタビュー日:2006年3月24日)
--あなたといえば、ペルージャ時代の中田英寿とのコンビが印象的です。
中田はレジェンドだよ! 今はボルトンでプレーしてるんだっけ? よろしく伝えてくれ。中田は間違いなく日本最高の選手だ。他の日本人選手と比べれば、実力は随分とかけ離れていると思う。ビッグクラブでもプレーしてきたわけだからね。
--中田と一緒にプレーした記憶は今でもしっかりと残っていますか?
忘れるわけがない。彼は優れたパスとプレー感覚を持った恐るべき選手だ。あのような完璧なMFはそうそういるものではない。クロアチアには存在しないと思うよ。
--ペルージャにおける彼とのコミュニケーションは?
彼はすぐにイタリア語を覚えた。素晴らしかったよ。彼はレジェンドだし、サプライズだ。
--連絡は取り合っています?
いや。だからこそ、彼にはよろしく伝えてくれ!
--彼に伝えたいメッセージはありますか?
人生においてすべてが上手くいくように願っているよ。あと健康を維持し、多くの運に恵まれることもね。
--あなたはスタンダール・リエージュでも活躍しているのに、クラニチャール監督はクロアチア代表に呼びません。
残念だよ。本当に残念だ。でも私に何が分かると言うんだね! 私を呼びたけりゃ呼べばいい。クヨクヨなんかしていられないよ。しかし、別の選手が呼ばれている間は私の出番はないだろう。でも、自分は監督のためにプレーするわけじゃない。代表チームのためだ。明日になれば監督が変わることだってあるんだから。
--まだクロアチア代表でやりたいという意欲はありますか?
もちろん。時間はまだあるからね。長く現役を続けたいため、半年前にはタバコもやめたよ。クラニチャール監督は「ラパイッチは歳を取りすぎている」と言っている。今の私は要らないようだけど、別の監督がやってきたならば私が必要になるかもしれない。また、クラニチャール監督がまだ私が代表チームでやれるかどうかを確かめ、今のレギュラーに取って代わってプレーする可能性もあるのだからね。
【代表復帰後の2006年10月、EURO予選のイングランド戦にて】
--ドイツ・ワールドカップのグループFについてどう見ていますか?
ブラジルが1位でクロアチアが2位になれば良いと思っているよ。けれどもクロアチアと日本、オーストラリアは同等の力を持っているから難しいグループになるだろう。クロアチアが先に進むことを願っているけどね。
--現在のクロアチア代表の特徴をどう見ていますか?
分からないよ。なぜならば私は今の代表チームでプレーしてないからね。でも間違いなく、勝つサッカーをやっているだろう。
--弱点については?
もし知っていたとしても言わないよ。とりわけ日本は対戦相手なんだから、そういう立場を取らなくてはいけないね。
--今の日本代表については何か知っていますか?
かなり良いチームだと思うよ。間違いなく特別な監督を持っている。ジーコは選手として偉大だった。偉大な選手は紛れもなく特別な監督であるはずだ。彼について読む限りだと、日本代表を率いてきちんと結果を残している。チームの土台が何たるかは私には話せないけど、間違いなくジーコの下で良いサッカーをしていると思う。グループリーグも突破できるんじゃないかな。
【2007年3月、EURO予選のマケドニア戦にて。彼の代表ラストマッチ】
--日本vs.クロアチア戦で勝利するのはどちらでしょう?
分からないね。運が試合を決めることはよくあるから。サッカーにおいては、ずっと劣ったチームが優れたチームに勝つことだってある。ちょっとした運があればどんな良い結果を残すことができるんだ。
--どんな試合展開になると思う?
ゆっくりしたものかな(笑)
--日本はクロアチア相手にどんな戦術で挑む必要があるでしょうか?
それはジーコが知っている。私ではなくジーコに質問しなくては。彼はお金をもらって監督を務め、チームを作っているわけだから。私が言うことはできないよ。もしその戦術を言ってしまったら日本が勝ってしまうからね。
--中田はトップ下、それともボランチでプレーすべき?
中田は危険な選手だ。中田はどちらのポジションでもプレーできるし、どのポジションを任されても良いプレーをする。ただ私の考えでは、より自由にプレーできるポジションが中田にはふさわしい。そんな彼を前提にしたチームを作るべきだろう。守備の義務を少なくして、なるべく前方に向かわせる。ラストパスの切れ味は恐ろしいんだから。
--個人的にはどんな結果を予想していますか?
個人的な予想はあるけれども、それを言ってしまったら他の人がブックメーカーで当てて儲けてしまうからね(笑)。でも正直なところ分からないよ。
--クロアチアがグループリーグを突破したらどこまで行けますか?
決勝トーナメントの1回戦を越えれば準々決勝。さらに準決勝も越えて再びブラジルと決勝で対戦する。そして3-0で私たちが勝利するのさ(笑)。決勝になれば私を呼んで欲しいね(笑)
--日本がグループリーグを突破したら?
まずは1回戦。まあ、そう急がずに。すべてを通過すれば決勝へと行くよ。
--日本はクロアチアのどの選手を警戒しなくてはならない?
正確なことは言わないよ(笑)
--例えば、右MFのダリヨ・スルナとはハイドゥク・スプリトでも代表チームでも一緒にやっていますよね。
スルナは代表チームでプレーしているけど、今の私はプレーしていない。それは君も知っているだろう? 確かに彼は優れたプレーをしているよ。警戒すべきかどうか私が言うのは許されない。今も一緒にプレーしているのだったら、すべてに関して話すけどね。
--クロアチア代表については語りたがりませんね(笑)
秘密は言えないね。決して明かさないよ。
【2001年10月、ワールドカップ予選のベルギー戦にて。左隣はフランス大会得点王のダヴォル・シュケル】
--今の日本代表で中田以外に知っている選手はいますか?
中村(俊輔)は知っているよ。あと昔の選手だったら三浦(知良)かな。
--あなたは日韓ワールドカップでクロアチア代表の一員としてプレーしています。
あの大会では私たちに運がなかった。少しの運があったならば、ずっと先まで勝ち進めただろう。グループリーグ突破が懸かった横浜でのエクアドル戦で、私たちは勝つことができなかった。あの試合こそ運に恵まれなかった。エクアドルはたった一度のチャンスでゴールを決めてしまったんだから。
とはいえ、日本国内のスタジアムは本当に美しかった。また日本でプレーしたいね。Jリーグで私を欲しがるクラブはないかね? 日本で私はキャリアを終えたいんだ。「Zemlja Izlazećeg Sunca」(日出づる国)でね。
--スタンダール・リエージュではシーズンが始まっても、(2005年)11月まではプレーしませんでした。何があったのですか?
昨シーズンが終わり、スタンダールとは契約延長のオプションがあった。しかし、まずは休んで、それからワールドカップ予選で代表復帰を目指した準備をしていたんだよ。私は呼ばれるものと思っていたからね。
しかし、クロアチア・サッカー協会の人々は連絡をしてこなかったのさ。私はスタンダールのサマーキャンプに参加していなかった。なぜならワールドカップ予選の代表復帰に合わせて休暇を取っていたからだ。そのようにクラブとも合意していた。9月と10月はプレーしなかったけど、今では契約延長にもサインをしたし、クラブとの関係に問題はないよ。
--ベルギーリーグでスタンダールは優勝争いをしていますが、チーム内の雰囲気は?
間違いなく国内最高のチームだ。ある時期はホームで勝点を何度もとりこぼす不運もあったけどね。
--あらゆる国でプレーしてきましたが、ベルギーリーグはあなたにとってどうですか?
他国のリーグよりもずっと選手が走るリーグだ。本当に運動量が多いよ。テクニックではなくパワー主体のサッカーをする。「働く」サッカーだね。
--そんなリーグにおいて、あなたはどのような適応してきましたか? テクニックに定評を得てきたプレーヤーなわけですが。
私はどんなチームでも適応できるからね。スタンダールにとっても私の存在は嬉しいはずさ。私もここでは走らなければならない。走らずして何もできないよ。今のポジションは4-4-2の左MF、もしくは右にポジションチェンジする。(ポルトガル代表の)セルジオ・コンセイソンとのコンビでね。
--今シーズンが終われば、Jリーグのクラブに移籍したいという願望はありますか?
なぜ「願望がない」なんて言えるのかい? 本当に私は日本でプレーしたいんだ。日本でキャリアを終えたいんだよ。日本は驚異的な国だ。国民は常に意欲がある上に規律正しい。まさしく別世界だね。私にとって日本の文明や文化はとても興味深い。
私はイタリアやトルコ、ベルギーでプレーしてきたわけだけど、他国の文明や文化に接し、それを自分の中へと取り入れることを好んでいる。日本の文化を同じように吸収したいんだ。
【一回り年齢が離れたモドリッチと。ラパイッチのポジションは、のちにスルナやラキティッチに取って代わられることになった】
--日本でもあなたはよく知られたプレーヤーです。
中田が出場した試合は日本でも放送されていたからね。だから、日本の人々は「誰が役に立つプレーヤーなのか?」を知っているはずだよ。だから日本のクラブが私を雇ってくれ、私がプレーする試合を楽しんでくれればいいんだけどね。
--日本へのメッセージはありますか?
さらにサッカーを熱愛して欲しい。サッカーは世界で最も美しいスポーツだから。日本人は大きな力を持っていると思う。将来も大きな成功を収められるよう私は願っているよ。また、皆さんが望むことすべてが最高の形に実ることもね。
○ミラン・ラパイッチ Milan Rapaić
1973年8月13日、ノヴァ・グラディシュカ生まれ
クロアチア代表歴 49試合6得点
1991-1996 ハイドゥク・スプリト(クロアチア)
1996-2000 ペルージャ(イタリア)
2000-2003 フェネルバフチェ(トルコ)
2003 ハイドゥク・スプリト(クロアチア)
2003-2004 アンコーナ(イタリア)
2004-2007 スタンダール・リエージュ(ベルギー)
2008 トロギル(クロアチア)
巧みなドリブルを得意とする左サイドのチャンスメーカー。左足からのクロスボールやFKも武器。ハイドゥク・スプリトにスカウトされ、同ユースを経てからトップデビュー。1996/97シーズンに当時セリエBのペルージャに移籍し、セリエAに昇格した1998年にベルマーレ平塚(現・湘南ベルマーレ)から移籍した中田とペルージャの攻撃の中心となった。2000/01シーズンに移籍したフェネルバフチェではリーグ優勝と最優秀外国人選手、アシスト王を獲得している。
クロアチア代表では1994年4月、親善試合のスロバキア戦でデビュー。1998年ワールドカップ3位に輝いたヴァトレニ世代が去ったあとに攻撃の中心となり、2002年の日韓ワールドカップではイタリアを倒す値千金のシュートを決めた(動画)。2004年の欧州選手権にも全試合に出場。
クラニチャール監督時代は一度も代表招集を受けなかったものの、2006年にビリッチが監督に就任すると同時に代表復帰。EURO2008予選前半ではイングランド戦の勝利をはじめ、ベテランとして若手に好影響を与えた。2007年夏にハイドゥク復帰話がまとまらず、翌年にクロアチア二部リーグのトロギルでプレーしたのち引退した。息子のボリス・ラパイッチはスペインのラス・パルマスBでプレーしている。
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