桜ってのは
11月に引っ越してきた部屋の窓からは、
隣の家の庭がよく見えた。
正直、建物が密集した東京で暮らすとなってから、窓からの景色は期待していなかった。
でも運良く窓の先には庭があって、開放感があった。
庭には、
花を植えるプランターが複数、肥料袋とシャベル、葉も何もついていない木があった。
11月の庭は寂しかった。
しばらくして3月、東京の生活に慣れた頃。
何気なく窓の外を見ると、葉も何もついていなかった木に、淡い花がいくつかついていた。
そして気づけば、
何もついていなかった木は、木いっぱいに花をつけ、揺れていた。
その木は、桜だった。
その木は、桜だった。それだけだけど、何かわからないけど、なんか嬉しかった。
それだけ。