「医療ドメイン」って難しい? "なるほど!人を助けるデザインのひみつ" 書き起こし
はじめに
こんにちは、まずは簡単に僕の自己紹介から。
吉井と申しまして、Ubieでデザイナーをしております。その前はクックパッドだったり、そこからスピンアウトしたロコガイド (旧: トクバイ) という生活情報サービスを扱う会社にいたりしました。
ユビーというサービスについては、ご存知の方もいるかもしれないですが「頭が痛い」とか「お腹が痛い」とか気になる症状について質問を答えていくと、病気との関連だったり、症状に合った病院を教えてくれるようなサービスになっています。
そういった「気になる症状を調べる」という利用回数がこれまで累計で1億回を超えていまして、月間でいうと700万人の方にご利用いただいています。さらに昨年には、Google Play ベストオブ 2023 優れた AI 部門 の大賞を受賞させていただきました。
今日は時間もないのでこのあたりはざっとご紹介だけで、さっそく本題にいきたいと思います。
今日の湯上がり感
Ubieでは、MTGや何かが終わったあとのゴールのことを 「湯上がり感」と表現したりします。で、この10分のLTが終わった後の湯上がり感をどうしたいかと言うと2つありまして、
ひとつは、僕 (たち) の仕事が皆さんに伝わるということ
もうひとつは、それによって医療ドメインの認識が変わること
を目指してお話ししていければと思っています。
医療ドメインあるある
ではその「医療ドメイン」というところで。
僕も3年ぐらいUbieという医療系のスタートアップで仕事をしてきたんですが、外の方からは
医療に高い関心・使命感がない (ので手を出しにくい)
単純に医療ってすごく専門性が高い領域で難しそう (で気が引ける)
みたいな声をいただいたりします。
転職をご検討されている方からも、そのような理由で医療ドメインは自分には合ってなさそうだな… と固辞されるケースも (多くはないですが) あります。
しかしこれは大きな誤解だと思っていて、僕自身も別に医療にめちゃくちゃ関心があるとか、なにか強い課題意識や原体験があるわけではありません。
僕も入社を考えていた時、医療は興味ないかもな…とか、あんま分かんないな… みたいな感情を抱えていた人間なので、そんな僕がなぜ3年働けて、今どういうことをやってるかっていうのをお話ししたいなと。
もう結論から言うと「なにも特別難しいことや変わったことはない」というスタンスで、今日はお話をしたいと思います。
僕たちがやっていること
では僕たちがやっていることに徐々に移っていきたいんですが、その前に、改めて会社の紹介からさせてください。
我々Ubieは、「テクノロジーで人々を適切な医療に案内する」というミッションのもと活動をしています。
ここで考えたいのが、その「医療」や「適切な医療に案内」っていう言葉から思い浮かべるのって何だろうかと。
医療というからには病気が関係するんだろうなとか、病気があるからには患者がいるんだろうとか。そんなイメージが分かりやすいのかなと想像します。
が、当然ながら僕たちは開発者であって、医者ではありません。
なのでここで言えば僕たちは、病気そのものに対してアプローチをする・病気を治すのではなく、「患者さん」という存在に大きくアプローチをしています。
患者さん自身の行動によって、病院の早期受診・病気の早期発見につなげていただいて、適切な治療というのは医師の方をはじめ医療現場で行ってもらうということですね。
まだちょっと抽象的な話かなと思うので、もう少し具体的な例を挙げながら続けたいと思います。
世の中で言われていること
実は、そういう「早期発見とか早期受診が大事で、適切な医療行動につなげてほしい」という願いは結構昔からある話です。
なので世の中にも教科書というか、いろんな本や調査がたくさん出ています。たぶんここ (※ イベント当日の会場が文喫という素敵な本屋さんでした) にも似たようなものがあるんじゃないでしょうか。
実際にこういう本をざっと読んだりして、デザイナーやチームの中でなるほどそういう考え方や事例があるのか〜みたいな知識を仕入れてたりします。個人的にはあんまり隅々まで本を読み込むタイプではないので、必要そうな知識を必要なときに取り入れる、みたいな感じです。
今日はせっかくなので、いくつか代表的なものをご紹介してみます。
健康信念モデル
これはヘルスビリーフモデル (健康信念モデル) と言われるもので、どうやったら人は健康に関する行動を起こすのか?を表した図になります。
上から順に読むんですが、まずは「病気になっちゃうかも…」とか、「このままほっとくと大変なことになっちゃうかも…」と健康リスクをちゃんと脅威として認識することが、行動を起こすためにはまず必要だそうです。
その次に、例えば病院のために仕事を休んだり、出かけたり、面倒くさいことをするようなデメリットと、病院に行ったら今の不調が治るかも?のようなメリットが天秤にかかります。
そしてこれはデメリットよりもメリットが上回る!と判断すると、じゃあ何か行動した方がいいね (病院に行くとか、運動を始めるとか) という気持ちになって、ようやく重い腰を上げる。
そんな思考の流れを表したのがこの図式です。同じ人間としても、なんか感覚的にも分かる気がします。
損失回避バイアス
もう一つ、人間的な判断の仕方でいくとこちらも界隈では有名な事例ですが、八王子市のがん検診の啓発ポスターです。左右どちらも、内容的には「大腸がん検診を受けてほしい」という同じことを言っています。
違いとしては、左は「がん検診を受けてくれた方には検査キットをまた来年もお送りできます」みたいな特典を、右はその裏返しで、「今年受けてもらわないと来年からはもう送れなくなっちゃうよ」という損を伝えたと。
つまり同じ物事を、損得両面から捉えてメッセージングしています。
これ、どちらが受診率が良かったかと言うと、右側の損を伝えた方が効果が良かったそうです。人間は得をするよりも損をしたくない、という損失回避のバイアスが強く働くそうで、それを受診行動につなげた事例の紹介でした。
行動変容ステージモデル
で、行動を起こしていくところにも行動変容ステージモデルというものがあります。全然関心を持ってないところから実際に行動して習慣づいていくまでの流れを、こういうモデル図で表したりするそうです。
健康診断とかで「6ヶ月以内に生活習慣を変えるつもりがあるか?」みたいな質問を見たことがある方もいると思いますが、おそらくこの図に照らし合わせた聞き方をしてるのかなと思います。
一般論からユーザー理解へ
という余談も挟みつつ、教科書的な一般論としてはなんとなく分かってきました。
ここで冒頭の話に戻るんですが、僕たちが実現したいことも「患者さんに行動を変えてもらう」「適切に自分の体の異変に気付いて、病院に行くべき時は行ってもらいたい」ということです。つまり行動を起こしてほしいということになります。
そこで今のような一般論がどれぐらいユビーに当てはまるのか、実際にサービス内でアンケートを取って、ユーザーさんの実態を見てみました。
このグラフ (左) は、回答結果を先ほどの行動変容ステージに当てはめて分類したものです。こうして見ると、実際にも紫色の病院の受診をためらっている人 ( ≒ 関心期にいる人) が多いことが分かります。
なぜためらわれるのかの理由 (右) を聞いてみると「危険度が分からない」が最も多く、このあたりは先程の健康信念モデルにも則していると考えることができそうです。
今回は更にもう少し深ぼってみたいと考えたので、そういった方々にコンタクトを取って直接インタビューをしてみます。
何が受診の障壁になっているのか、受診をする意思決定は実際どのようにされるのか、受診をする病院の選び方は? のような、定量から見えてきたユーザー像のリアルを探ってみるという感じですね。
そうすることで、回答や思考の裏側にあるものが読み取れたり、ユーザーさんの生活が手触り感を持って掴めてきたりします。
また他の観点でいくと、ユーザーさんじゃない人にも最近はインタビューをしていて。例えばUniiリサーチさんという外部ツールを使って、ご病気を持っている方とがどういう風に病気と付き合ってらっしゃるのかなど、多方面から理解を進めています。
ホラクラシーの患者調査サークル
またちょっと余談ですが、これは何も僕個人だけが行っていることではありません。組織的なところでいくと、Ubieはホラクラシーという組織構造で運営しているんですが、そのなかに「患者調査サークル」というものがあります。
そこでいろんなチームの人が集まって、こういう調査結果を話したり、知見を共有したりみたいなことをやっています。
数字じゃなくて人に向き合う
冒頭ユビーは「700万人に使ってもらってます」とか「1億回使われました」みたいな話をしたんですが、それら数字を額面通りに捉えて喜んでいるだけではあまり良くないかなと思っています。
その背景にいるのがどういう人たちで、どういう生活をしていて、そこにどんな感情があって… というのを理解していかなければ、良いサービスを届けていくことはできません。
本屋さんに行ったり、インターネットを見てたら情報はいっぱい溢れています。定量的なデータは機械的にある程度得ることができます。
ただ、僕たちはできるだけ様々な側面から患者さんという人たちに向かい合うことを大事にしたいと思っていて。700万人全員の声を聞くことは難しいですが、1人のユーザーの話から想像を巡らせていこうとしています。
このあたりは同僚のsatoruさんが先日出したnoteでもこういったことを言っていて、サービスを作るうえでとても大事な観点だと考えています。
もちろんヒアリングできたことから、プロダクトに価値を落とし込んでいく活動も進めています。
が、やはり一筋縄ではいかないところもあって今日までに自信を持ってドヤれるようなことはなかなか現れておりません。。。
ちょっと学んだり改善したところでうまくいく甘い話はないなと身につまされることばかりですが、みんなで継続的に頑張っています。という感じです。
つまりは
要は何が言いたいかというと。僕たちがやってることは、難しい医学的なことかやっているかと言うと全然そういうわけではないということです。
高い専門性を持っていて、なんだか小難しい知識を持っていて、医学的な勉強をたくさんしないと、デザインが上手くできない… なんてことはありません。
もちろん医療的な知識が必要になる場面もある時はありますが、それは周りにいる医師 (Ubieには現役医師の社員がいます) だったり、その道に詳しいメンバーがサポートをしてくれます。
なので僕としては、「医療のプロダクトデザインをしている」のではなく、適切な医療に案内するためにユーザーに寄り添って「人の行動を促すコミュニケーションをデザインしている」という感覚が近しいのかなと考えています。
でもこれ、ちょっと広めにというか抽象的に捉えると、皆さんもいろんな業界とか事業ドメインでお仕事をされていらっしゃると思うんですけど、本質的にはどこも同じではないでしょうか?
金融、小売、不動産、モビリティ、人材紹介etc…
ユーザーから学びを得て、示唆や価値を伝えて、行動を一歩前に進めてもらう。今よりも良い明日に向かってもらう。そういうことって別にどの業界も変わらないんじゃないかと思っています。
もちろんそれぞれの業界で知っておかないといけない知識もあると思いますが、それはどこも同じです。
医療だからといって何か特別小難しいことや重苦しいことをやってるわけじゃなくて、良いサービスのために結局やるべきことは変わらないんじゃないの?というのが、僕の持論です。
じゃあ何がいいのか?
では他と変わらないなかで、医療ドメインにおいて僕がすごくいいなと感じていることは、これはもう分かりやすく誰かや世の中の役に立っている実感です。時にものすごく熱くこみ上げるものがあります。
ユーザーインタビューをしていると、ユビーがあって病気との関連性に気づけたとか、病気と付き合い方を振り返るきっかけになった、などの声をいただいたりします。
ある方はユビーのことを「人生の伴侶」のように表現していただいたりして、そんなとき誰かの役に立てているんだなあと強く実感します。
また「健康寿命」という言葉もありまして、ユビーが世の中の健康寿命の創出にどれだけ寄与できたかを算出してみようという話もあったりするんですけど、まさにこういったところが他のサービスとは異なる良さなのかなと。
そして今日ちょっと詳細は端折りますが、あとは組織が面白いとか、慈善事業やボランティアではなくて、ちゃんとビジネスにも繋がっていく。事業として成り立っているというのが良いところだなと感じています。
おわり
ということで今日は10分しかなくて駆け足だったんですが、以上で私からのお話は終了とさせていただきます。
Pittaにもカジュアル面談の窓口を出しているので、気になることがあれば是非お気軽にコンタクトいただければと思います。
ありがとうございました。
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