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【私の好きな曲#6】Jóhann Jóhannsson / Flight From The City


ひとことまとめ

アイスランドの作曲家、ヨハン・ヨハンソンが2016年に発表したアルバム「Orphée」の1曲目に収録。

ヨハン・ヨハンソンは映画音楽からコンテンポラリー・ダンスとのコラボレーションなどに至るまで幅広い分野で活動しており、マックス・リヒターとともにポスト・クラシカルの代表的アーティストと称されることが多い。

Flight From The Cityは、永遠に寄せては返す波頭のように、穏やかでシンプルなピアノのメロディーが繰り返される、環境音楽のような曲。

家族が寝静まった深夜、部屋の明かりを消してこの曲に没入すれば、遠く離れた北極圏近くの大海原を悠々と泳ぐクジラのような気分にさせてくれる。

解説

ヨハン・ヨハンソンは1969年生まれ。11歳より故郷のレイキャビクでピアノとトロンボーンを学ぶも、「お勉強」として音楽を学ぶことに飽き、放棄した。大学では文学を専攻し、卒業後はギターのフィードバックを多用したものや複雑なサウンド・スケープ作品をインディーズとして作曲。生音とデジタル音の融合の実験を数多く繰り返した。

2002年にアルバム「Englabörn」でソロ・デビュー。オーケストラに電子音を組み合わせた独特のスタイルで大きな反響を呼んだ。以降もユニークな作品をいくつも発表する(IBMコンピューター向けマニュアルのためのサウンドトラック「IBM 1401, A User's Manual」(2006年)なんてものもある!)

冒頭で紹介しているPVは、アイルランドの映像作家クレア・ランガンによる映像作品であり、母と子がピアノのメロディーとともに水面をゆっくりとたゆたう様子が繰り返される。まるで太古の昔から現在に至るまで永遠に繰り返されているような、終わりのないリズムがとても心地良い。

個人的な話で恐縮だが、アイスランドはぜひ訪れてみたい国のひとつである。ビョーク、シガー・ロス、ムーム、そしてヨハン・ヨハンソン。アイスランド出身のアーティストによる音楽は、どことなく浮世離れしているというか、この世とあの世の境目にいるような、心地良いところとゾクッとしたところが同居していて、他の国のアーティストにはない独特の表情がある。

そのヨハン・ヨハンソンであるが、彼は2018年2月にベルリンのアパートで亡くなってしまった。死因は薬物の併用摂取による急性薬物中毒死の可能性が高いと見られている。48歳という若さだった。

思いがけず彼の最後のソロ・アルバムとなってしまった「Orphée」。その1曲目である「Flight From The City」を聴くと、心はいつでも都市のけたたましいリズムから解き放たれ、遠い彼岸の大海原をゆらゆらと漂いはじめる。

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