シリアの解放と新たな苦難の始まり

突如として、という感想になってしまうのですが、シリアのアサド政権が崩壊しました。

反政府勢力の攻勢が強まったのも束の間、あっという間に首都まで進軍し、アサド大統領が反撃する・・・と思いきや、親族にも側近にも嘘を付いて超極秘に出国、逃亡したそうです。

どこまで正確な情報か分かりませんが、ここまで急激に情勢が変化したと言うことは、色々と異常な事態が起きていたのでしょう。

ともかく、シリアは半世紀以上に渡り続いてきたアサド父子の独裁政権の軛から逃れることになりました。長きに渡りすぎた内戦による死傷者は恐ろしいほど多く、それに加えて多くの難民・移民が周辺国や世界中に散らばりました。

シリアが「普通の国」に戻る第一歩を踏み出す準備が出来たのは確かです。ただ、その一歩目、そして次の二歩目以降がさらなる苦難に満ちています。

まず、国土が荒廃し、経済が崩壊し、社会が混乱している国家が、政情を取り戻すにはあまりに足りないものが多すぎます。アサド支持だったロシアは支援しないでしょうが、トルコとアメリカが支援するにしても、充分なものにはならないでしょう。

国内情勢自体、反政府勢力の中で群を抜いている勢力がイスラム原理主義であり、アメリカからテロ組織指定されていることも困難さに拍車をかけています。

かつて、アラブの春によって民主化されたエジプトで、選挙によってムスリム同胞団が政権を握ると、アメリカはエジプト軍を支援してクーデターによって政府をひっくり返してしまいました。今回のシリアで民主化された選挙によって、シリア解放機構(HTS)が政権を取った場合、アメリカは黙っているでしょうか?

また、シリアの社会も落ち着けば良いですが、果たして落ち着くでしょうか? 亡くなった人は残念ながらもう戻ってきませんが、難民・移民として各国に移住していた人はそれなりに戻ってくるでしょう。

アサドの圧政を嫌い、虐殺から逃れることはおかしなことではありませんが、逃れた人と残った人の間に、軋轢が無いとは言い切れません。

難民のうち、知識階級や熟練工は、急にシリアに戻ってきても、それなりに仕事は得られるでしょう。ただし、それは苦しみながらも国内に残り続けた人たちから仕事を奪う形で、仕事を得るのです。どう考えても残っていた人々の反感を買うことは間違いありません。

また、仕事を得やすい知識・技能などが無い人は、そもそも逃亡先・移住先でも仕事探しに苦労していたはずで、どちらにしろ苦しいのなら故郷のシリアに戻りたい、というのは当然の人情です。しかし、シリアに戻っても結局仕事がありません。そういう人たちを、今のシリア国内の経済と社会が支えきれるでしょうか。

そして、そもそもアサド政権は、彼一人だけで存続できていたわけではありません。支持者、協力者がいたからこそであり、それらの人々の大半は、まだシリアにいます。

アサド政権を支持していた人、協力者たちは魔女狩りのような目に遭いかねないですし、厳しく追及しすぎると、ロシアが支援してアサド政権復活の動きに協力して、また内戦が勃発する恐れもあります。

そこまでの動きには至らないにしても、反アサド勢力による新政権が国家運営に失敗し、国民の不満が溜まりすぎると、アサド時代の方が良かったという人が出てきかねません。その時、時の政権は「アサドの方が良かった」という人に対して寛大な対処を出来るでしょうか?

あまりに否定的なことばかり書いてしまいましたが、それだけシリアの現況と未来は厳しいものがあります。ただ、市民を虐殺していた独裁政権崩壊後として、アルゼンチンという実例もあります。

1970年代~80年代前半の軍事独裁政権では多くの国民が犠牲になりましたが、軍事政権が崩壊した後のアルゼンチンは、経済的には何度も破綻しながらも、一応はまだ今のところ民主的な国家であり続けています。

しばらくは内憂外患まみれの情勢になるでしょうけれど、シリアの未来に絶望しかないわけではありません。シリアに関わる人、組織、国家がどのようにシリアを扱うのか。

そもそもは、シリア国民の意思と意志が一番重要だと思うのですけれど、結局は大国、周辺国、反政府勢力のパワーゲームになってしまうんでしょうね。

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