ビジョンファンドの憂鬱
ソフトバンクのビジョンファンドは世界最大のベンチャーキャピタルとして、数多くの新興企業、特にIT関連の企業に多額の資金を投資しています。
ウィーワークの上場失敗とその前後の混乱でビジョンファンドやソフトバンクの投資姿勢に対して批判も上がりましたが、配車・宅配サービス業界においても一般的な常識から見たら不可解な投資をしています。
ソフトバンク投資先企業、世界で競合する矛盾
料理宅配3社が争うメキシコ ビジョンファンドの資金が入るウーバー・ディディ・ラッピ
https://jp.wsj.com/articles/SB10756748667192203284504586179891908269436
アメリカ発のUberと中国発のDiDiのどちらにもソフトバンクが出資していることは結構有名だと思いますが、その二つ以外の競合企業にも出資しているようです。
完全にお互いの売上・利益を食い合っている状態になっているはずですが、普通はこういう投資はしないでしょう。ウィーワークの問題が起きたときの一部報道では、ビジョンファンド内ではチーム間の連携が取れていないため、一つの企業に対してビジョンファンド内の複数のチームから話が持ちかけられることもある、という話もありました。市場に存在する企業同士で不毛な競争をしているだけではなく、ファンド内でも不毛な競争をしているのであれば笑えないジョークです。
さすがにUberとDiDiクラスの出資であれば、チームレベルではなくて上の方まで話が行っているはずですが、競合の問題を解消する動きが無いのであれば、そもそも競合して利益が減っても構わないから、その市場を大きくすることと、ビジョンファンド出資企業の市場シェアを大きくすることを優先しているのでしょう。
ただ、大きな問題があります。上記記事中にある通り、例えどこかの企業が赤字と引き換えに市場シェアを大幅に獲得した後に、黒字にするために料金(報酬)体系を変更すれば、また新たな企業が赤字覚悟でシェアを増やす余地が出てきます。配車サービスや宅配サービスは新しい産業ではありません。その市場が急成長しているのは、従来のタクシー業界や出前システムに対して消費者が不満を持っていたからであって、革新的でこれまでに無かった市場だからではありません。手軽さと安さでシェアを拡大出来るのであれば、他の企業も同じことが出来ます。
いっそのこと、UberとDiDiを合併・買収してしまうくらいのことをすれば、巨大な企業となり市場をコントロールできるようになるかも知れませんが、アメリカ企業はともかく中国の国際的企業を他国企業が買収できるはずありません。中国政府が絶対阻止するでしょう。
犬の散歩やしつけのシェアリングサービスを提供するWag!に、ビジョンファンドはかつて3億ドルも出資しましたが、昨年末に大きな損害を出して撤退しました。
ソフトバンクのファンド、犬の散歩代行アプリ企業に3億ドル出資で合意
2018年1月31日 1:00 JST
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2018-01-30/P3CQVQ6TTDS101
ソフトバンクG、犬の散歩代行アプリ「ワグ」への出資引き揚げ
2019 年 12 月 10 日 06:42 JST 更新
https://jp.wsj.com/articles/SB11405409923491164573304586068520526624178
犬の散歩に300億円以上も出資するとかちょっと何言ってるのか分からない状態になってしまいますが、ビジョンファンド・ソフトバンクの出資金の一部は日本の消費者から出ているのですよね。
ソフトバンクの携帯をメインで使ったことはこれまで一度も無いのですが、ソフトバンク携帯のユーザーはちょっとは怒ってもいいんじゃないでしょうか。怒ったところで何一つ変わりませんけど。
そういえば、かつてdocomoもiモードの成功以降、多額に積み上がる資金を国外の企業買収や資本提携に大量に使っていましたが大量に失敗して撤退していましたっけ。
ちなみに、ビジョンファンドについてはこんな報道もありました。
ソフトバンク、ビジョン・ファンドでパートナーが退社へ
2020年2月5日 6:25 JST
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2020-02-04/Q56ZP7DWRGG101
あまりに好き勝手にやっていたら、日本の携帯ユーザーの怒りはたいしたことなくても、サウジアラビアの皇太子の怒りが半端なくなるんじゃないかと思うのですが。