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肺血栓塞栓症のClinical Practice
NEJMにPEのClinical Practiceが出ており、特に診断と治療のアルゴリズムがわかりやすくまとまっていたので紹介します。
NEJM 2022/7 CP(PMID: 35793208)
<診断>
・一般的な症状は、倦怠感、息切れ、胸痛、めまい、咳嗽、発汗、発熱、喀血
・メタアナリシスによると、呼吸困難、無動、最近の手術歴、活動性の悪性腫瘍、喀血、肺血栓塞栓症の既往、失神の病歴が肺血栓塞栓症の可能性増加と関連することが示された
・初期の誤診が多いため、別の呼吸器疾患と診断された場合の治療に反応しなかった場合、肺血栓塞栓症を考えるべき
・肺血栓塞栓症の臨床的な確率に基づく非侵襲検査(スコアリングやD-dimer)はCT検査を減らすために非常に効果的であり、肺血栓塞栓症が疑われる患者の30~40%のみ診断的画像検査を受けることになる
・医師が肺血栓塞栓症の可能性が非常に低いという感覚がある場合(推定 <15%)、PERCが陰性であれば安全に除外できることが示されている
・スコアリング+D-dimerを使用することで高感度でPEを除外できる(いずれも感度93~99%程度、特異度は40~60%程度と低い)
・画像検査はスコアリング、d-dimerで否定できない場合に被爆の害を考慮して施行する
・造影CTによる偽陽性は5%にまでのぼる
・PEが疑われて施行された造影CTで異常がなくても3ヶ月以内に1.2%がVTEの診断を受ける
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<初期治療>
・臨床症状、検査所見に応じてリスク分類を行う
○High-Risk
・患者の約5%は、ショック、臓器低灌流、低血圧、心停止の所見を示す
・脳転移、出血性疾患、最近の手術など禁忌事項がなければ再灌流療法を考慮する
・経静脈的血栓溶解薬投与は、最も簡単に施行できる再灌流療法
・テネクテプラーゼ or アルテプラーゼ 0.6mg/kgまたはアルテプラーゼ 100mgを1−2時間以上かけて投与
・いずれの薬剤がいいかは不明(高齢者や低体重の患者では体重あたりの投与量の方が好ましい)
・他の再灌流療法としては、外科的血栓摘出術やカテーテルによる血栓溶解療法、血栓摘出術もある
・支持療法としては強心薬やECMOの使用も含まれる
○Intermidiate-Risk
・右心緊張のエコー所見や心臓バイオマーカーの上昇(トロポニンやBNP)のいずれか、もしくは両方があればこれに分類
・再灌流療法は推奨されない(RCTでは出血リスクが上回る結果であった)
・注意深く抗凝固療法を開始し、20人に1人の割合でショックに移行するため、その時点で再灌流療法を行う
・専門家の間では即時治療としては低分子ヘパリンを推奨している(日本では保険適応なし)
・Intermediate-Riskを対象としたDOACと低分子ヘパリンを比較した研究はなく、未分化ヘパリンは出血が増えるため
・カテーテルによる血栓溶解療法は、中枢、近位のPEの治療の選択肢ではあるが低分子ヘパリンとの比較はされていない
○Low-Risk
・循環動態が安定しており、右心緊張のエコー所見がなく、心臓バイオマーカーが正常な場合はこれに分類される
・DOACで治療を開始
・下図の条件を満たせば外来治療も可能
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<その後の管理>
・抗凝固療法はDOACが第1選択の治療
・DOACはVKAと同様にVTE再発を抑制し、大出血のリスクを低下させることが示されている
・DOAC同士の研究は不足しており、薬剤相互作用や内服回数などで決める
・がん患者では、低分子ヘパリンの代替薬としてアピキサバン、エドキサバン、リバーロキサバンの安全性、有効性が示された
・進行した腎臓病、肝臓病、抗リン脂質抗体症候群(triple positive:ループスアンチコアグラント、抗カルジオリピン抗体、抗β2-GPⅠ抗体がすべて陽性の場合 or 抗体価が非常に高い場合 or 動脈血栓症の既往のある場合)では、DOACよりもVKAが好ましい
・妊婦の症例では、DOAC、VKAが有害な結果と関連しているため、低分子ヘパリンを使用する
・少なくとも3ヶ月間は抗凝固療法を施行する
・無期限に継続するかどうかは、再発リスクと出血リスクの兼ね合いで決める必要があり、患者の希望も含める必要がある
・一過性の誘因(30分を超える全身麻酔を伴う手術、急性疾患による3日以上の入院中のベッド上安静、大きな外傷、大きな骨折など)の場合は長期的な再発リスクは低く、抗凝固療法は3ヶ月で中止できる
・肺塞栓が非常に大きい場合、右心機能の中等度の機能不全、患者に症状が残存する場合には一部の専門家は6ヶ月への延長を推奨している
・活動性の悪性腫瘍、抗リン脂質抗体症候群などの持続的な誘因がある場合や以前にも誘因のないVTEを発症した場合は、再発リスクが高く、無期限の抗凝固療法が推奨される
・初回の誘因のないVTEや弱い誘因しかないVTEの場合(エストロゲン療法、妊娠、小手術、軽度の脚外傷など)の治療方針は定まっていない
・これらの患者では、抗凝固療法を中止した後のVTE再発は1年で10%、10年で36%、致死的なPE発症は1年で0.4%、10年で1.5%
・リスクは女性よりも男性で高い
・過去の研究では、抗凝固療法を延長した方が再発率を低下させることが示されている
・一方で、メタアナリシスによると長期抗凝固療法はDOACで1.12人/100人年、VKAで1.74人/100人年の大出血と関連していた
・出血リスクは、高齢者、Ccr<50、出血既往、抗血小板薬使用中、Hb<10で高かった
・女性の初回の誘因のないVTEや弱い誘因しかないVTEを前向きに検証した予測スコアとしてHERDOO2 ruleがある
※男性はない
<その他の検査>
・潜在性の悪性腫瘍は、誘因のないVTEの診断後1年以内に患者の5.2%で検出される
・広範なスクリーニング検査は、限定的なスクリーニング検査よりも多くの悪性腫瘍を検出できる可能性があるが、患者転機が改善するかは不明
・専門家の推奨では、病歴、身体診察、基本的な検査、胸部X線、年齢・性別に応じたがん検診に基づく限定的なスクリーニング検査を推奨している
・呼吸困難または機能制限を評価するために、PEと診断されて3〜6ヶ月後に患者を評価する必要がある
・症状が残存している場合は肺塞栓後症候群またはCTEPHの可能性がある
・PEの診断時に抗凝固療法を永続的に使用することを決めた場合は、毎年もしくはより頻繁に抗凝固療法の継続期間について再評価されるべき
・出血リスクが高まる場合、大出血を発症した場合、患者が治療の中止を希望する場合は、抗凝固療法の終了を検討する
【実践的なまとめ(個人案)】
○診断
・YEARS criteria 0個+D-dimer<1000 ng/mL
・YEARS criteria≧1個+D-dimer<500 ng/mL
いずれか満たせば除外、満たさなければ造影CT
YEARS Criteria
①PEが最も疑わしい疾患 ②血痰 ③DVTの徴候がある
○治療
High-Risk:ショック、心停止
・支持療法:昇圧薬、ECMOなど
・再灌流療法(モンテプラーゼ、カテーテル、外科治療)
・その後、抗凝固療法に移行(ヘパリン、DOAC、VKA)
Intermidiate-Risk:右心負荷所見 and/or TnT/BNPの上昇
・抗凝固療法(ヘパリン、DOAC)
・慎重なモニタリング➔High-Riskに移行する場合は再灌流療法
Low-Risk:上記以外
・抗凝固療法(DOAC、VKA)
○治療期間
・一過性の誘因:3ヶ月で終了
・持続性の誘因、誘因がなく繰り返している場合:原則継続
・初回の誘因なし、弱い誘因のみ:リスク・ベネフィット、患者の好みを踏まえて決める
<コメント>
・PEのスコアリングが乱立しているので少し整理されました
・診断の際にはD-dimerが味方してくれないと(低値でないと)除外できないので、結局造影CTをするかどうかで悩むのでしょう・・・