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人事課長が、古くなった自社の人事制度を変えたくなった時に考える5つのポイント

企業の成長や市場環境の変化に伴い、人事制度の見直しが求められることがあります。特に、長い間同じ制度が続いてきた場合、その制度は時代遅れとなり、会社の成長を妨げる可能性も出てきます。
しかし、制度改革には多くの障害や課題がつきものです。
この記事では、人事課長が自社の古い人事制度を刷新しようとする際に考えるべき前提と、改革を成功に導くための5つのポイントについて詳述します。


変えたくない人たちの気持ちを理解すること

1. 古い制度がそのまま残っている理由を理解する

まず第一に、長く使われている人事制度には、それが続いている理由が必ず存在します。
特に経営陣の中には、現行の制度が自分にとって有利だと感じている人物がいることが一般的です。
たとえば、評価権限が経営陣や上層部に集中しており、好き嫌いで部下を評価できる余地がある場合、その立場にいる人は変革を望みません。
新しい制度が導入されることで、これまでの特権や権力が失われる可能性があるため、彼らにとっては「現状維持」が最も安全な選択肢なのです。

また、長く続いた制度には、企業全体に「馴染んでいる」という安心感が伴います。
新しい制度がどれほど理論的に優れていたとしても、その安心感を失うことに対する恐怖が、制度改革に対する抵抗を生む要因のひとつです。

2. 変化そのものを嫌う心理を理解する

変化は、多くの人にとってストレスの源となります。特に、現行の制度に慣れ親しんでいる従業員や経営陣は、年齢や性別に関係なく、変化そのものを嫌う傾向があります。
これは人間の本能的な部分であり、必ずしも新しい人事制度案自体に欠陥があるわけではないため、制度変更の議論が進むときには、「変わることへの不安」という感情に配慮する必要があります。

加えて、制度改革には労力や時間がかかるため、日々の業務に追われる社員にとっては「余計な手間」として捉えられることもあります。こうした意識を踏まえ、どのように人々を変革へと巻き込み、納得させるかが大きな課題となります。

3. 新しい制度にはコストがかかる

新しい制度を導入するためには、時間だけでなく資金も必要です。
人事制度の改革には、評価基準の再設定や研修、外部コンサルタントの起用、システム導入など、さまざまなコストが伴います。
また、人事制度を変えたいと考える企業の多くは、業績が悪化しているか、何らかの課題を抱えています。
そのため、「今このタイミングで、さらにコストをかけることができるのか?」という声が上がるのも自然な反応です。

このような反発に対しては、新制度がもたらす長期的なリターンを強調し、投資対効果を具体的に示すことが重要です。コストの面で反対意見が出ることをあらかじめ想定し、十分な準備をしておくことが求められます。

それでも改革を進めるための5つのポイント

1. 役員間の合意を重視する

人事制度の改革を進めるためには、経営陣の合意形成が不可欠です。
特に、役員間の意見が割れている場合、改革の実現は極めて困難です。
ここで役立つのがエビデンスです。
エンゲージメントサーベイやキーパーソンインタビューといった客観的なデータを用いることで、経営陣の間で制度改革の必要性を理解してもらうことができます。

例えば、エンゲージメントサーベイを通じて、従業員のモチベーション低下や制度への不満がデータとして明確に示されれば、役員も無視することは難しくなります。
客観的なデータに基づいた議論を進めることで、感情的な反発を抑え、冷静な意思決定を促すことが可能です。
ただしその際には、課題、としてではなく「伸びしろ」として示すことも重要です。

2. 変わらないことのデメリットと変わることのメリットを強調する

制度改革を押しとどめるのは、「今のままでよい」という思いと「変わることで何かが失われる」という多くの人の感情です。
これを超えるためには、「今のままだと困る」ということと「変わることで得られるものがある」ことを具体的に示し、それらの比較を可能にすることです。
「変わらないことのデメリット」と「変わることのメリット」をしっかりと示すことが大切です。
人は年齢を重ねるごとに思考や行動が保守的になりがちです。
このため、「現状維持」のメリットを超える理由を示さなければ、変革は難しくなります。

特に、経営層にとっては、将来的な人材不足や若手の育成の遅れ、会社全体の成長機会を逃すリスクなど、長期的な視点での問題を強調することが有効です。
また、従業員に対しても、個々のキャリアやスキルアップの機会を増やすための改革であることを伝えることで、賛同を得やすくなります。

3. 投資として人事改革を整理する

人事制度の改革は、コストではなく「投資」として捉えるべきです。
新しい制度を導入することで、既存の人材が最大限に活用され、組織全体の効率性や生産性が向上する可能性があります。
これにより、既存事業の利益率が改善し、新たなビジネスチャンスも生まれることが期待できます。

特に人事インフラの整備は、会社の長期的な競争力を高めるための重要な施策です。
従業員のエンゲージメント向上や離職率の低下は、結果的に業績向上に繋がります。
こうした効果を「見える化」し、経営陣に対して制度改革が単なるコスト増加ではなく、企業価値向上のための重要な投資であることを強調することが必要です。

4. ゴールを定める

制度改革には明確なゴール設定が不可欠です。
多くの場合、新しい制度は新年度から導入されますが、それまでの期間に準備を整え、半期時点で評価制度を先行導入するなど、段階的に進めることも可能です。
これにより、変革のプロセスがスムーズになり、従業員の混乱を最小限に抑えることができます。

また、制度改革を周年事業や事業承継に関連付けることで、従業員や経営陣の理解を得やすくなります。
こうしたタイミングを利用することで、改革の必要性を自然に受け入れてもらえる環境を整えることが可能です。

5. 外部の力を借りる

制度改革を進めるにあたって、外部の専門家の力を借りることは有効です。
コンサルタントはもちろんのこと、親会社からの出向者や社外取締役など、多様な視点や専門知識を持つ人材を巻き込むことで、改革の質が向上し、内部の抵抗を軽減することができます。

特に、外部のコンサルタントは、組織内部の力学に囚われず、客観的な視点から改善策を提案してくれるため、制度改革が進みにくい組織において非常に有効です。
また、外部からのフィードバックを取り入れることで、改革案がより実現可能なものになり、経営陣や従業員の信頼を得やすくなります。

結論

人事制度の改革は、組織の未来を大きく左右します。
経営陣との合意形成やデータに基づいたアプローチ、長期的な成長を見据えた投資視点を持つことで、改革を成功に導くことができるでしょう
。また、外部の力を活用し、多様な視点を取り入れることが、より円滑な改革プロセスを支える鍵となります。

セレクションアンドバリエーション株式会社
代表取締役 平康慶浩(ひらやすよしひろ)