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通い猫れんちゃん
我が家のご近所さん(約10軒ほど)どこのお宅ででも、当たり前な顔をしてくつろぐ、白黒八割れソックス猫がいる。
元・男の子で、もうかるく12歳は超えてるんじゃないだろうか。
人懐っこくて優しくて賢くてヘタレだ。
二軒先のYさん宅の飼い猫だったのに、後輩猫に追い出されたらしい。
Yさん家のおばあちゃんが「れんちゃん」と呼んでいたので、我が家での呼び名はれんちゃんになった。
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もうウチの子になっちゃえば?とばかりにトイレを用意してみたが、お気に召さなかったようで、一度もお泊りはしてもらえなかった。
雨の日も雪の夜も、窓の前で『開けて』のサイレント・ニャー。
庭で草取りをしていると、どこからともなく現れて声をかけてくれる。
あれはひょっとして 『励めよ』 だったのかもしれないな。
1メートルくらい離れたところに陣取って、毛繕いしたり、昼寝をしたり。
草取りが移動すると、れんちゃんも移動する。とても勤勉な現場監督。
それぞれのお宅の車の音もちゃんと聞き分けていて、向かいのお兄さんが帰って来ると庭木の下でお出迎え。
ウチの車が帰ってくると、道路を渡って走って来る。安全確認も万全。
道の向こうから『来たよー 来たよー 』と何度もお触れを出しながら。
春、土曜の夕方。タタタッと走ってきたれんちゃんが、ものすごい勢いで話しだしたことがある。
ああ、お田植で、ご近所の皆さんお留守だったのね。
モグラ、子ネズミ、スズメ、バンの幼鳥。
たくさんのプレゼントをありがとう。
日当たりのいい庭石に、お隣の三毛が来る。
「ごめん、そこ、れんちゃんのとこよ。」って何回か退いてもらった。
スズメもハトも、尾っぽの長いきれいな鳥も、いっぱい来る。
みんなのほうが、わかってる。
それでも。
窓を開ければ、ブロック塀の上できちんと座って待ってるようで。
雪が積もれば、車のボンネットに一直線の足跡がついているようで。
「れーんちゃーん」
屋根に向かって小さく呼ぶ。
今もつい、返事を待ってしまう。