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30代社員が会社を見捨てる時 中堅層の大量離職の1要因

「なんでこんな風になっちゃったんだろう」

ある老舗の専門商社で、幹部がぽつりと漏らした言葉だ。この3年間で、10人いたチームメンバーのうち、5人が退職してしまったという。そのほとんどが30代前半、在職期間は3年未満という若い社員たちだ。企業としても衝撃を受けたのは間違いないだろう。

筆者はその後、退職した5人から離職理由を聞き出すことに成功した。彼らの口から出た言葉の中で、最も多かったのが以下の一言である。

「YESマン幹部達の存在」

この一言が、彼らの離職の本質的な理由であり、また組織全体にとっても重要な警鐘であると感じた。そこで本記事では、「YESマン幹部」がもたらす組織の問題とその影響、さらにこの状況を改善するための方法を考察する。

1. 企業における「YESマン幹部」とは何か

「YESマン幹部」という言葉には、幹部たちが経営陣やトップの意向に対して無条件で賛成し、反対意見や改善提案をしないという特徴がある。これは、単なる意見の一致を超えた、無批判的な同調を指す。

企業文化としてこの「YESマン」が蔓延すると、組織の問題はどんどん深刻化する。なぜなら、幹部層がトップの指示に従うだけでは、組織の健全な成長が妨げられるからだ。特に、このような文化が定着すると、現場の社員は自分の意見を言えず、改善の余地が見つからなくなってしまう。

退職した社員たちの話を聞くと、彼らが感じていた最大の問題は、「YESマン幹部」によって現場の声が反映されなかったことだ。どれほど現場の社員が改善案を提案しても、幹部がその意見を無視し、さらに上の経営陣に伝えることもなければ、問題はそのままである。最終的には、現場社員のモチベーションが低下し、退職に至る。

2. YESマンが生み出す「評価の不透明さ」と「組織の硬直化」

2.1 評価制度の不公平

この企業の評価制度は「定性評価」に依存している。つまり、社員の評価は数字で競い合うことなく、上司の印象や感覚で決まる。理論的には、柔軟で温かい評価制度に見えるかもしれないが、現実は異なる。定性評価の問題点は、「誰が評価するか」によって評価基準が大きく変わることだ。評価者がYESマンであれば、評価の基準が曖昧で、実際の業務の成果や努力が反映されないことが多い。

評価を決定する幹部が自分の既得権益を守るために、意図的に部下を昇進させない、または評価を下げることがある。特に幹部が自分の地位を守るために、自分の考えに逆らわない部下を好む場合、実力よりも「調和」を重視してしまい、優秀な人材が評価されないことになる。このような不公平な評価制度は、社員の士気を大きく削ぐ要因となり、退職に繋がる。

2.2 高齢化する社長と幹部の無力感

さらに、この組織には「社長の高齢化」という問題もある。お爺ちゃん社長は長年にわたって経営を引っ張ってきたが、そのパフォーマンスが衰えてきている。しかし、幹部は社長に逆らうことができず、社長の非現実的な経営方針をそのまま実行するしかないという状況だ。

「もう引退してください」と進言できる幹部がいないことで、社長が思いつきで掲げた施策が、実行されることになる。その結果、社員は「なぜこんなことをやっているのか?」と感じ、業務の意味や目的を見失ってしまう。若手社員にとっては、経営方針に対する不安や疑問が募り、最終的には「こんな会社で働きたくない」と思うようになるのは当然だ。

3. YESマン幹部が引き起こす「社長の思いつき経営」

さらに問題なのは、社長が自分の思いつきで経営戦略を決めるということだ。どこかで読んだ本や、他社の成功事例を取り入れることが多く、現場の実情や社員の声は無視されがちだ。その結果、経営施策が外れてしまい、組織全体が無駄な方向に進む。

もしその施策がうまくいけば問題は少ないが、成果が上がらない場合、社員は次第に疑問を抱き始める。「なぜこんなことをやっているのか?」と。若い社員にとっては、意味不明な経営方針に従うことは大きなストレスとなり、最終的にはモチベーションの低下や退職に繋がる。

4. 「YESマン幹部」を打破するための5つの対策

それでは、企業が「YESマン幹部」の文化を打破し、健全な組織を作るためにはどうすればよいのか。以下に、いくつかの有効な対策を挙げてみる。

4.1 意思決定の透明化

幹部が意思決定をする際、そのプロセスを透明化することが重要だ。具体的には、決定の背景や理由を共有し、社員が納得できる形で進めることが求められる。意思決定の過程が不透明だと、社員は自分たちの意見が無視されていると感じ、モチベーションが低下する。

4.2 幹部に「逆説的な意見」を言える文化を作る

「YESマン幹部」が支配する組織を変えるためには、幹部が自由に意見を言い合える環境を作ることが不可欠だ。幹部がトップに対して「ノー」と言える文化を作ることで、健全な議論が生まれ、より良い意思決定ができるようになる。これには、経営層からの意識改革が必要だ。

4.3 評価制度の見直し

評価制度を見直し、より客観的かつ実績に基づく評価を導入することが重要だ。定性評価に頼るのではなく、成果を数字や具体的なアウトプットで測ることで、社員が自分の努力がどれだけ評価されているかを実感できるようになる。また、評価者の力量や偏見が評価に影響を与えないよう、適切な教育やサポートを行う必要がある。

4.4 社長のリーダーシップ力の強化

社長のリーダーシップ力が低下している場合、それを補うためのシステムを整えることが重要だ。社長が一人で全てを決定するのではなく、幹部や社員の意見をしっかりと聞き入れ、組織全体で意思決定を行う体制を作ることが求められる。

4.5 社員の声を反映させる仕組み作り

社員の声が反映される仕組みを作り、現場の意見を経営に届けることが大切だ。例えば、定期的なフィードバックの場を設けたり、匿名で意見を募る方法などを取り入れることで、社員が安心して意見を言える環境を作ることができる。

5. 組織改革の先にある未来

「YESマン幹部」の文化を変えることは簡単ではない。しかし、これを放置すると、組織は次第に硬直化し、優秀な人材が離職していく。その結果、企業の競争力は失われ、最終的には業績の低下に繋がる。

企業は「トップダウン」ではなく、「ボトムアップ」や「全員参加型」の組織運営を目指すべきだ。これにより、社員一人一人が組織の成長に貢献し、モチベーションを高く保ちながら働けるようになる。そして、その先にこそ、持続可能な成長と企業の未来がある。

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