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充されないもの

2024年12月15日。
人事図書館のアドベントカレンダー2024も、残り10回。。。くるみんさんからバトンを引き継ぎ、今日担当しますHIDEです。私も、人事図書館の本棚を眺めて次の本を選んだりするので、参考になりました!

さて、師走感の全くない文章ですが、小話にしばしお付き合い頂ければ幸いです。


充されないもの

本を読む。人と向き合う。自分と向き合う。

2024年6月、これから暑くなり始める季節。私は人事図書館に入り浸る様になった。最近、私が厚い表紙をパタンと開くのは、組織開発や人材開発の本が多い。仕事に活かせるかも知れないと読み始めたが、人の心と行動が人との関わりで変わってゆくさま自体が面白い。文章に浸って時間という物差しを忘れるのは久しぶりだ。

元々わたしは、自分の存在を100%は信じられない人だ。大学に入っても授業に真面目に出るタイプではなく、知り合ったばかりの仲間とダベったり、ヒトの向かう方向と逆に歩く事が好きだった。

授業をサボって図書館をふらふらすることも多かった。どちらかと言うと、人疲れもするからと言うだけの理由。本は好きではなかったが、世の中から忘れられた様な感覚が妙に馴染んだ。

通った大学は珍しく漢文をルーツに持つ学校だった。図書館にある本も、論語や史記、三国志などの平仮名のない古びた本が多かった。時代遅れな図書館で、時代に逆行する漢籍に囲まれた。暇な私は、そんな本を、読めないのに眺めるようになった。

性悪説。

唐突で恐縮だが、『荀子』という本をご存知だろうか。そんな人物が居たかは知らないが、『論語』や『孫子』の様に、中国で古くから読み継がれて来た漢籍で、日本にも鎌倉時代の写本が残る中国古代思想の代表的な本のひとつだ。

「ヒトは他の動物と違って、協力することで自然界に生存できる」
「元来、ヒトは弱い生き物なのだから、そんな生物でも生きられる仕組みを創る事が、他の生物に勝る人間の強みだ」

私なりの解釈も含むが、こんなことが書かれていて、この本のヒトを買い被らないところが、私は当時好きだった。また、性善説がメジャーな道徳観の中で、目立たず本棚に隠れているマイナーさも気に入った。

本に日を暮す日々と仕事との出会い

古代から受け継がれた言葉たちに興味が湧いてからは、図書館に入り浸る日々が続き、気がつくと就職活動もせず、研究室で本の出し入れや貸し出しをする仕事をしていた。

勿論、それだけでは食べられず、コールセンターのバイトと掛け持ち。誰も人が来ない日は、静かな研究室で本に目を落とし、日が傾いてゆく時間が、自分を忘れられる貴重な時間だった。

その後、アルバイトが本業となり、図書館からは足が遠のいて行った。コールセンターの現場運用や運用企画。お客様相談室、ウェブマーケティングなど、カスタマーエクスペリエンス系のBPOならではだと思うが、様々な仕事をさせて貰った。そして、採用の仕事へのジョブチャレンジ。人との関わりが、根底で『荀子』の性悪説や本で学んだ古代思想と通じているような気がして、仕事での学びが楽しくなって行った。

2024年4月。

人事図書館というのが出来たらしい。SNSにふと流れてきた記事を読んで、面白そう、と思った。

私は人事職とは言っても専ら採用畑を歩んでいて、暫くは、採用はマーケティングだ!みたいな事をいったりしていたが、そうでは無いかもと思い始めていた時期だった。

「ヒトを組織に迎え入れるとはなんだ?その人の人生に関わるとはどう言う事だ?」人事図書館のSNSを目にしたのは、「行き着くところはヒトを理解する事だ」と思う様になっていた頃だった。

2024年12月。

人事図書館の#ヒト旅で、館長よっさんから「対話型組織開発」を教えて貰った。

対話型組織開発とは、社会構成主義(言葉が世界を作る。現実は対話によって変わる)をマインドセットとする組織開発の手法で、関係性を変えることから始まり自己組織化されることを目的とするそうだ。

私にとっては、これまでに出会った人々(妻子、親兄弟、仲間全て)との関係性が、社会における自己存在を実感できる瞬間だったのだと思う。

白馬の走る影が、一瞬通り過ぎるように、ジブンの影は、人々と対峙する一瞬、照らし出される。

今も相変わらず、自分の事も信じられないし、人事の仕事が何なのかも、全くわかっていない、と自信を持って言える。

ただ、確かなのは、日々ヒトと人との葛藤に真正面から向かい合い生業とする人たちがいて、そんな彼らが同じ図書館で本を読んでいると言う事。その事は、自分の中の“充たされないもの”に、いっとき実感を与えてくれる。それは感覚的ではあるけれど、「実感」として、確かに在る。

おわり


明日は、うえむらさんにバトンを繋ぎます。
私も、うえむらさんの記事を読むのが楽しみだ。

皆さま、師走だけどお元気で。


参考文献:

『図解 組織開発入門 組織づくりの基礎をイチから学びたい人のための「理論と実践」100のツボ』(坪谷邦生著、2022年、株式会社ディスカヴァー・トゥエンティワン)

『荘子 第三冊〔全4冊〕』(金谷治訳註、1982年、岩波書店)