ドット絵モンスター『弱いスライム』(後編)
さて今回は、昭和から生きながらえている玩具『スライム』のイメージを踏襲したドット絵『弱いスライム』の続きを描きつつ、そのメイキングをおとどけします。
記憶のなかのバケツをかたちに
さてまずは、玩具『スライム』が入っていたバケツ型の容器から描いていきます。キャンバスのサイズは24x24ドットです。
まずは全体のバランスをとるため、バケツのかたちをとっていきます。
手順①では線だけで描き、続く手順②ではバケツのフタとボディを少し違う色にわけて塗りました。
ところで前回の記事で引用したアメリカでの商品写真は、描き始めのときには見つけていませんでした。なので、リアルのゴツいゴミバケツをいくつか眺めて"脳内ブレンド"したものを描くことにしました。ただ、フタについては2011年版『スライム』では昭和と同じ"波紋"のようなかたちをした緑のやつだったようなので、概ねそれにあわせています。
現在メガハウス社から販売されている『スライム』は、2011年、2016年、2023年にリニューアルされているようで、2016年から容器が白系の透明プラスチック(+ペイント?)になったようですね。以下、古い順に引用しておきます。
今回ネット検索して初めに見つけたのは2023年版(上記のうち一番下)だったのですが、正直「ニセモノ!?」と思ってしまいました。"あのバケツ"あってこその『スライム』なんじゃないかな~と思うのですが「コストを削減するなら容器から」になってしまうのでしょうか。
今は他社からもスライム系の玩具がいろいろ出ているようなので競争に晒されてやむなく……という事情はあるのでしょう。利益至上主義と過度な競争意識に汚染された経済・社会こそが、本当におそろしいモンスターなのではないでしょうか……
(おしまい)
じゃない! できてない!
フタを立体的にする
さて続いてフタの部分を立体的にしていきます。
全体の線を外周と同じ色で描いてしまいましたが、手順③では絵の内側の線は三重構造のそれぞれの段の側面色にしました。手順④ではそこに1色加えることで丸みの表現をしています。
ボディも立体的に
さらに、ボディの部分もフタと同様に立体的にしていきます。
手順⑤ではフタと同様に線と面の色を調整していますが、バケツの円筒形を強調するため、右側全体は明るい色、左側は暗い色にしています。
手順⑥ではさらに、フタとボディの両方に準ハイライトっぽい1段明るい色を加えて"ツヤ出し"をしています。オモチャのイメージなので、ちょっとキレイめにしたいなと。
これでバケツ部分はできあがりです。あとは、大切な"中身"のスライムを描いていきます。
バケツのフタを開けると……
あっと、中身のスライムを描く前に"フタ"を外しておかなければいけませんでした。
キャンバスを広げてフタを横に置き、バケツの中の空間を描きます。このときバケツの中までデコボコを表現してしまうと情報量が多くなりすぎて「うるさい」ので、中はツルツルにしておきます。
あと、外したフタはあとでボディのうしろに半分隠して配置したいので、少し小さくしておきます。
スライム登場!
さて、あとはバケツの中にスライムを詰めるだけ!
うーん。「なんとなく」でよくあるゼリー状の半透明スライムにしてしまいましたが、これは違う! 違うんです!
ゲーム序盤に登場するような弱いモンスターはマスコットキャラ的に扱われる機会も多く、つい「かわいい」「キレイ」に描こうとしてしまうのですが、よくない習慣ですね。「色はライム色だな、スライムだけに」とか思いながらダジャレ脳のおもむくままに描いているのもよくありませんでした。
玩具のスライムにも透明感はありませんし、描き直し!
というわけで透明感はなくして、そのぶん明るく、ツヤも強めのスライムをたっぷり詰めこんでみました。
あとは、予定どおりフタをうしろに隠して……
ただのオモチャではなく、あくまでモンスターなので"顔"をつけたら『弱いスライム』の完成です!
ま、なんだか不満そうな顔ですけど仕方ないでしょうね。
45年前の発売から数年、好景気にわく日本において大人気とは言えなくとも学校のクラスで数人が持っていた玩具『スライム』ですが、いまや簡素化が進み、昔の面影はありません。この流れは、やがて姿を消していく運命にあるのかもしれませんね。
今回描いたドット絵の『弱いスライム』は、実際には昭和の"強かった時代"の姿をしていることになります。むしろ弱くなったのは日本経済の方であり、スライムはその『弱い日本』の犠牲者だと言えるでしょう。
そう考えると、このスライムのことは当時の強かった日本経済の名をとって『バブルスライム』と呼ぶのが正しいのかもしれません。
(おしまい)