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メディアスクラム陰謀論

「メディアスクラム」と言えば、マスコミ批判やメディア批判の文脈でよく聞く言葉ですが、本当に存在するのでしょうか?

みなさんご存じのとおり「スクラム」といえば、「ボールを得るために両チームのプレーヤーが密集した体制で組み合うこと」を示すラグビー用語です。あるいは様々な機会に、数人がお互いに肩や腕を組み合わせて並ぶことを言います。

すると、もちろんメディアスクラムとは「複数メディアが協力しあうこと」になるわけですが……。うーん、どうかな。かなり"営利企業然"とした日本のメディア企業が、大きな話題について協力しあうとは考えにくいです。

そう、「メディアスクラム」という言葉は、古くから"大きなスキャンダル"がある際に使われてきました。ただし実態としては、「協力しているわけではないが、結果的に多くのメディアが押しかける」ことを大袈裟に表現しているにすぎませんでした。

ところが、近頃は用法が異なってきたように思えます。SNSなどで繰り広げられるメディア批判では、本当に「メディア同士が協力しあって」対象を追い詰めているかのように語られていることが少なくありません。

いやそれ、典型的な陰謀論ですよ……

なんて思っていたらちょうど、陰謀の存在が「うっかり」晒されてしまう事件が起きました。

バレちゃった「スクラム」

共同通信社は30日、自民党の生稲晃子参院議員(現外務政務官)が2022年8月15日の終戦の日に靖国神社を参拝したと誤って報じた問題の検証記事を配信した。原因について「分担して取材した別の報道機関の記者の情報を裏付けをとらないままうのみにした」と明かした。
検証記事によると、同日は閣僚や国会議員の出入りを確認するため、別の報道機関数社と分担して取材していた。他社の記者からLINEを通じて「生稲議員入りました」との情報が共有され、裏付けをとらずに記事に盛り込んだとしている。

日本経済新聞(2024年12月1日)より引用

なんだこの「情けない」としか言いようのない事態は……って感じですね。

もともとの「メディアスクラム」は、大きな話題にたくさんのメディアが群がることで競争が激化し、各社が情報収集に必死になるという、スクラムとはむしろ真逆の「対立関係」が生じる現象でした。「よそより先に報じるんだ!」という意識が強まりすぎることで、裏付けがイマイチなまま報道して誤報を出し、問題化するということもしばしばです。

最近ではフジテレビがメジャーリーグの大谷翔平選手の新居を晒したり、兵庫県知事選の問題でPR会社社長の自宅に突撃して世間の顰蹙を買っていましたね。でも、これは古いタイプのメディアスクラムで、競争意識の高まりが根底にあります。やりすぎたとはいえ、それでも「報道をがんばる」という意識自体は必要ですから(道を踏み外さない範囲で)持ち続けてほしいところです。

そういう意味で、共同通信の誤報の件は最低も最低。ド最低ですよ。

この件、LINEに連絡したのはライバルの時事通信(文春オンライン 11月29日)ということですから、さらに驚き。報道各社にニュースソースを提供する日本の2大通信社がこういう繋がり方をしているようでは、そりゃあ日本の報道は似たようなものばかりになるってもんですよ。

え、それとも"共同"通信って、そういう意味だったのでしょうか!? 今後は「スクラム通信」に社名を変えたらいいかもしれませんね!

独自ネタをつかもうとしているぶんフジテレビの方がマシ……!? なんて疑わざるを得ないほど、日本の大手メディアは根っこから腐っているんでしょうか。

そういえば、ある小メディアの記者から聞いた話がありました。数年前の安倍政権時代、政府から圧力をかけられていた大手メディアの記者が、自分たちは(上から止められていて)安倍政権の閣僚にネガティブな質問をできないからと、その小メディア(忖度無用でやっている)の記者に「代わりに○○について訊いてくれ」と頼んできたそうです。

そりゃあ報道の自由度ランキングがダダ下がりになるわけですね!

スクラムは結果論

以上のように「メディアスクラム」といっても様々な形態がありますが、"大きな話題"に多くのメディアが群がるのは今でも"共同"ではなく"競争"タイプだと言えます。

ただ、大した独自スクープを取れないから「各社、大差ない報道」になってしまい、結果的にスクラムを組んでいるように見えるんです。各社がそれぞれに独自のスクープを報じていれば、「足並みを揃えている感」はなくなりますからね。

ですから、メディアの足並みが揃っているという結果だけ見て、「スクラムを組んでいる!」「陰謀だ!」と決めつけるのは、ミステリーの序盤で「得をした奴が犯人だ」と考えるくらい冤罪を産む行為だと言えるでしょう。陰謀論者はことさらに事態を大きく捉えようとしてますが、それってワイドショーと何が違うんでしょう?

一方、最近のフジテレビのように前のめりに取材することが強く批判されると、(おそらくフジ以外の)報道各社はますます積極的な取材・報道から腰が引けていくので、結果として本質的な「メディアスクラム感」は強まっていくものと考えられます。

批判的な報道のほとんどが事態の改善や当事者の改心を望んでいるにも関わらず結果的にはそうならないように、メディアに対する批判もまた良い結果につながるとは限らないのかもしれませんね。

(おしまい)

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