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ワープできる日に備えよう!(中編)~創作のためのSF考

「ワープ」による瞬間移動の手段が人々(個人)の手に届くには、大きな障壁がある――というのが前編のお話でした。ただ、ワープを政府や大企業が管理し「稀な機会に移動時間を短縮できるだけ」となっては、いまいち話が広がりませんから、今回は「個人がワープ手段を手にしたら」を考えていきます。

ここでは「ある日突然、瞬間移動できるリストバンドが発売された」と仮定して考えていきます。リストバンドのかたちをとる携帯ワープシステムはきっと大企業がお金をかけて開発したものでしょうけど、幸いなことにその技術の行使を独占せず(お金儲けを優先して)販売に踏み切った、という前提です。

もちろん『リストバンド』は高額で、すぐに誰もが入手できるようなものにはならないでしょう。とはいえ初めは"超お金持ち"しか買えないものが、ライバル社の出現やコストダウンによって徐々に安くなっていくのは間違いないでしょうから、ここでは金額や入手難度的なことは論点とせず、特に貧困に喘いでいるわけではない"並の社会の庶民"なら皆が入手できるものとします。

論点とすべきは"技術レベル"で、ワープシステムの場合は「どれくらい移動できるか」がその指標となるでしょう。短い距離から、長い距離へと技術が進んでいくことで、それに応じて社会がどのように変わっていくかを考えていきます。

まずは「10メートル」から

「10m!? ちっとも実用的じゃない!」と思うかもしれません。ま、そうですね。多くの人は、お金があっても買わないかもしれません。

10mの瞬間移動を何度も連続で行なえるなら通勤・通学が楽にはなるでしょうけど、バンドをポチポチ押しながら人々が10mごとに姿を現す様子はなかなかの「脱力もの」ですね。なんだかサーバーの弱いネットゲームみたいな光景です。

また、たとえ10mずつでも連続で移動できるなら、マクロ的なものを組むことで『自動連動移動』を実現可能でしょうから、事実上無限の距離を瞬間移動できるのと同じになってしまいます。そこで、ここでは「1回移動したら、その後1時間は移動できない」ものとして考えることにします。きっと充電が必要か、あるいは肉体が「ついてこん」のです。

すると10mの瞬間移動はかなり「ショボイ」ものになってしまいますが、いくらフィクションのための思考実験といえど、いえ、フィクションだからこそ「絵空事」にしないため敢えてリアルに考える必要があります。

たった10m、瞬間移動できるとしたら何に使われるか?

自動車や電車はなくせません。ただ、線路に踏切がなくても向こうへ渡れるようになります(乗換駅の近くなど、複数の線路を続けて渡る場所を除く)。

残念なのは、自動車が不要にならない限り、踏切をなくすには至らないこと。車道の横断歩道も、連続で渡る機会がそれなりにあるためなくせません。なかなか移動の自由度はあがらなさそうです。

とはいえたった10mでも瞬間移動が可能となれば、その後の技術の進歩で段階的に移動可能距離が伸びていくことは容易に想像できますし、社会の動きのひとつとして「自動車不要論」に期待が集まっていきそうです。あるいは、目先のニーズにあわせて自動車ごと瞬間移動できるように発展するかもしれません。たった10mとはいえ、工事現場を飛び越えたり、交通事故を回避するために使えるので、それなりにポジティブな効果がありそうです。

一方、ネガティブな作用も忘れてはいけません。「移動先が空間的に連続している必要がなければ」という前提になりますが、他人の家に勝手に入れるようになれば「泥棒」に使えてしまいます。これは一大事。住宅業界は"ワープ阻止技術"の導入が求められることで矢面に立ち、ワープ技術の発展に貢献せざるをえないことになりそうです。

移動可能距離が1キロメートルを超えると都市の在り方が変わる

移動可能距離が10mから100mに伸びても橋がなくても川を渡れる程度で大きな変化はなさそうですが、1kmを超えたあたりから都市の在り方が変わってきます。住宅業界、あるいは不動産業はワープ技術の登場でもっとも忙しくなる業種のひとつでしょう。

"1km"というのは歩いて12分、駅から徒歩10分を少し超える距離です。

1km程度の移動可能距離では自動車や電車はなくせませんが、瞬間移動+少しの徒歩で駅に到達できる"駅前"の範囲が広がるのです。現在、駅から徒歩20分の場所が、"ワープ+徒歩8分"になります。

すると人気駅周辺で受け入れられる住民数が劇的に増え、人気駅、都市への集中と地方の過疎化が加速することが考えられます。また、都市部でも急行・特急が止まるような主要駅はより発展し、そうではない駅は周辺住民が減少して駅が廃止されるおそれが出てきます。

この動きは、将来、移動可能距離が10km単位にまで伸びて、たいていの通勤先に直接ワープで行けるようになるまで止まらないはずです。

また、もっとも発展するのは駅ではなく、駅より少し離れた場所になるでしょう。ワープ1km時代の駅前は駅から半径2km弱の円形になると思われますが、この円の外周付近に住む人たちと中心付近に済む人たちの両方がワープで移動できる場所が商業地域としてもっとも発展しやすくなるからです。この"一等地"はおそらく駅から1kmより少し内側にリング状に形成され、商店街ならぬ『商店輪』なんて呼ばれるかもしれません。商店輪は全体で5km以上に及ぶ長さになるかもしれず、これをくまなく歩くとたいへんです。ただ、歩行速度も5km/hと考えると、次のワープまでの一時間でちょうど1周できるくらいの距離ですから、ゆっくり買い物をするのに適しているとも考えられます。

既存のSF作品にはよく"ドーム状の都市"が出てきますが、こうして考えると、ドーム状の都市の内部の街並みを具体的に想像していける気がします。

こうなると休みの日に買い物に行くため自動車に乗ることもなくなり、このあたりから自動車の必要性が劇的に低下してくるはずです。新たに広がった新駅前住宅地の家々には、車庫、ガレージがあまりないかもしれません。

もっと移動距離が伸びると……?

さらに移動可能距離が伸びることを考えることを考えていきたいのですが、自動車の必要性が低下することを見て見ぬふりはできません。反ワープ技術の動きが起き、ワープ技術の発展に急ブレーキをかけかねない「重大な事象」だからです。次回は、さらなる移動可能距離の延伸と、反ワープ技術の動きについて、あわせて考えていきたいと思います。

(つづく)

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