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GYAO!葬送②英国ミステリー『心理探偵フィッツ』『ミステリーinパラダイス』

3月31日にサービス終了することが発表された無料動画サイト『GYAO!』で観ておくべき作品を探す記事の第2回です。今回は"海外ドラマ"のカテゴリーから、英国ミステリー2作品を紹介します。

なお英国ミステリー以外の海外ドラマでは、以前紹介した『ハンドメイズ・テイル/侍女の物語』(シーズン1)の配信が始まったようです。サービス終了までに全話観られるのかどうかよくわかりませんが、冒頭数話だけ観てみるのはありかもしれません。興味を持てたら、続きはよそで観るということで。ただ、そもそもディストピアものであるうえに、背景にある思想は現実にあるそれの延長線上にあるものなので観ていてかなりしんどい作品です。強くはオススメしません。

ミステリーを観るならイギリス作品から!

今回、海外ドラマのなかでも英国ミステリーに的を絞ったのは、イギリスはさすが"ミステリーの本場"(アーサー・コナン・ドイルやアガサ・クリスティなどを生み出した)とあって、ミステリー作品に関してはプライドを持った作品作りを行なっているからです。逆に、ミステリー風の設定でアクション中心! とか、ミスリード多用、伏線回収なし! みたいなプライドがない作品を濫造するのはアメリカです。どちらも、全部が全部ではないですけどね。

アメリカの作品は露出の機会が多く役者も有名ですが、イギリスの俳優は世界的に活躍するレベルにならないとを日本にいて知る機会はあまりありません。サムネなどで英国作品を見かけたとしても「知らないおじさんの地味なタイトル」にしか見えないこともあり、良作を見逃しがちです。

ま、実際のところほんと~に地味な場合も多く、観ていてつらいことも少なくないんですけどね。とはいえGYAO!のラインナップのなかにそんな英国ミステリーのなかでも"やさしい"2作品を見つけられたのはラッキーでした。

心理探偵フィッツ

『心理探偵フィッツ』はその邦題のとおり、心理捜査で事件解決を目指すタイプのミステリー。ただ1993年に放映された本作はおそらく半端に古いためにHD化されず、かといってレトロ作品として扱うほどには古くないためか、日本の他のサービスでほとんど配信されていない、観られる機会自体が限られる貴重な作品です。日本では1996年からNHKBSで放送されていたそうですが、誰がその当時にBSなんて観ていたんだという感じです。CSでは2001年からスーパードラマTVでも放映されました。

主人公の心理学者フィッツを演じるのはロビー・コルトレーン(昨年惜しくも亡くなりました)。その後『ハリー・ポッター』シリーズでハグリッド役を演じてきたので「知っているおじさん」な方は少なくないと思われます。

いまや心理捜査やプロファイリングを多用した作品はいくらでもあるのですが、『心理探偵フィッツ』が放映された1993年は、その黎明期、あるいは前史にあたります。この当時から30年、現代では警察の捜査方法も大きく進歩しました。いま本作を観ると、そんな時代の節目を感じます。

警察に求められて捜査に協力する心理学者フィッツですが、現場の刑事たちは"古いやり方"にこだわり、まだフィッツの見立てを信じません。そのうえ、フィッツが他人の心理を遠慮なく読んでしまうことから、周囲の人々との人間関係はきわめて険悪になりがちで、捜査にも負の影響を及ぼします。

フィッツの役柄は、ある意味"孤立するエスパー"みたいなものですから見ていてしんどいもののはずなのですが、ロビー・コルトレーンの"おちゃめ"なキャラクターのおかげで不快感はあまりなく、ブラックコメディ的に楽しめるようになっています。

その"珍しい人物感"は、日本で言えば社会学者の宮台真司さんくらいのイメージだと思って観ると一部重なる部分があり、面食らわずに済むと思われます。そういえば宮台真司さんを刺した犯人、まだ捕まってないんですよね。現在進行中の『社会探偵ミヤダイ』(?)も見逃せませんね。

ところで本作、言っちゃなんですが序盤は"種まき"から始まるので、スロースタートです。最初のエピソード(2話編成)はもっと古いミステリーにあえて似せているように見える部分もあり、少し退屈かもしれません。ただ、シリーズ中盤から、捜査する事件だけでなく周囲の人間関係のなかにもミステリー要素が生まれてくることで"収穫期"に入ると、面白味が加速してきます。

本作は全23話と比較的短めのシリーズで、GYAO!でひととおり観られるようになるはず(終盤のエピソードは2月に配信開始)なので、この機会を逃す手はありません。

ミステリー in パラダイス

イギリスBBC製作の『ミステリー in パラダイス』は、カリブ海に浮かぶ架空の島"セント・マリー"島で起きる事件を刑事たちが捜査する、1話完結型のミステリーです。

イギリスでは2011年に放送開始して以来続く人気作で、今年は第12シーズンを放送中。ですが、日本ではめったに言及されることがない作品で「聞いたこともない」という人がほとんどではないでしょうか。

本作最大の特徴は"極めて正統派"であること。

従来この手の本格ミステリーは渋くて暗くて寝ちゃうような作品が多いのですが、本作は"楽園の島"という明るい舞台設定と、ほがらかな登場人物たち、楽しいシーンと緊張感のあるシーンの"緩急"がついた演出により、とても観やすい作品となっています。

アメリカの作品だと、海辺の土地、ハワイとかフロリダを舞台にした作品は「とにかく軽く」をテーマに水着のお姉さんを映して尺を稼いだりするので偏見を持ちがちなのですが、本作はそういう脱線はせず、説得力のある物語が丁寧に展開されます。

さらに、本作は1時間のドラマなので"謎"がさほど複雑にはならないうえに、劇中では終盤に流れを整理してくれる親切設計! やさしい!

ぼくがこの作品に出会ったのは、10年くらい前にインフルエンザで寝込んでいて暇だったときなのですが、不意に良質な作品に出会った驚きでインフルエンザも治り……とまではいきませんが、気分が良くなったことを覚えています。元気がないときに観るのもあり、というのはミステリー作品には珍しいのではないかと思います。

なお、GYAO!では第1、第2シーズンを配信中です。ちょうど最初から観られるのですが、なにせ基本的に1話完結なので誇張抜きでどこから観てもOKです。イギリスBBCの作品は日本でも幅広く提供されているのでGYAO!以外のネット配信サービスやCSでも観られますが、無料で観られるのはおそらくGYAO!だけ。3月31日のGYAO!終了日までに、1時間の暇があったら1本だけでも観てみることをオススメします。『ミステリー in パラダイス』は、観光客としてセント・マリー島を訪れたあなたを、きっと暖かく迎えてくれることでしょう。

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