モンスターデザイン研究 FF11編②
ドット絵のモンスターを描くことに挑戦するため、モンスターデザインに定評のある『FINAL FANTASY XI』(FF11)を振り返る記事の2回目です。前回は人気モンスターや、シリーズ初期から今も採用され続ける天野喜孝さんデザインのモンスターについて見てきました。今回は、FF11ならではの独自デザインのモンスターの特徴について見ていきます。
実在の生物のようでそうでもない……?
FF11の世界にいるモンスターたちは、現実にいる生物のようでありながら、どこか……というより、「けっこう違う」のが特徴のひとつです。代表的なものを見ていくことにします。
これはダルメルという種族で、プレイヤーからは通称「キリン」と呼ばれます。ただ、首が長いという最大の特徴こそ「キリン」らしさを出しているのですが、顔つき・体つきにキリンっぽさはなく、ラクダに似ています。
こちらはララブ。公式にもプレイヤーからも「ウサギ」と呼ばれます。しかし、耳が大きく、足で跳ねるように移動するものの、よく見るとウサギとはかけ離れています。
目は正面を向いていて草食動物(顔の側面についている)には見えず、猫目なこともあって肉食動物らしさが出ています。そもそも前足がなく、かなりの「異形」です。
なお全体の姿形は、実在の動物ではトビネズミ(Wikipedia)に似ています。
こちらは「大羊」。ですが、羊らしさは毛の色と名前だけ。かなりゴツイ体系になっており、ディテールはバイソンなどに近くなっています。
こちらは、いわゆる「サカナ」。ですが、ひと目で気づくようにワニのように長い口が特徴です。しかも、よく見ると目が口の先端近くにあることがわかります。
このモンスターは「プギル」(Pugil)の名でゲーム内に登場します。"Pugillist"は拳闘士(古語のボクサー)のことなので、体当たりで戦う姿を指しているのかもしれません。また、20世紀の軍隊の戦闘訓練で使われるパジルスティック(Wikipedia)を持った姿も想像させます。
こちらは「サソリ」。ですが、なんとなくサソリっぽいと認識できるわりに、ディテールにサソリっぽさは多くありません。尻尾はハサミムシっぽかったり、全体としてはムカデっぽかったり。そもそも低い姿勢で歩く現実のサソリとは違って、カマのような足を持ち、体を起こしている姿はカマキリに似た姿形と言えます。
そもそも現実のサソリは前足にハサミがあるなど、かなり蟹や海老などに似た生き物です。そういえば、前回紹介した「カニ」も四つ足になっていましたね。
足を少なくする理由としては、元がPS2時代のゲームなのでポリゴン数を減らしたいことや、斜面に足を馴染ませることが困難であることも考えられます(上記の写真も左前脚は盛り上がった地面に刺さっています)。
「かけあわせ」のメリット
例を挙げればきりがないのですが、FF11では以上のように複数の動物をかけあわせたと思われるデザインのモンスターが多く存在しています。
プレイヤーはそれらのモンスターの特徴を瞬時につかんで「カブ」「キリン」「ウサギ」などと通称をつけて呼びますが、よくよく見るとディテールは違っていることがわかったと思います。
これには、いくつかの理由が考えられます。
FF11はMMORPGなので、プレイヤーたちはこの世界で冒険者として生活し、動物を狩って肉や皮をとり、それを合成して食事や服を作ります。ところが、現実ではそうして捕食されるのは弱々しい草食動物で、モンスターらしくはありません。ただ、あくまでモンスターなので弱々しい見た目ではなく強そうなイメージも必要です。
また、特にペットにできるような小動物を"殺す"ことに抵抗がある人は少なくありません。「オレは平気で猫だって殺せるぜ」なんて言う人もいるでしょうけど、サイコパス扱い間違いなしです。
FF11は最初から世界展開を考えていたことが知られているタイトルなので、世界各国の法律やモラルに配慮して「小動物そのまま」の姿にしないようにしたのかもしれません。
ただ、例のクァールは昔のデザインのままなので、なんでもシルエットで呼ぶFF11のプレイヤーたち(の一部)に通称で「猫」と呼ばれてしまいました。FF11には「犬(狼)」もいるのですが、すでに死んでいるアンデッドモンスターであり、その姿は現実の犬を思い起こさせないものです(下の写真)。
クァールは実際「豹」であり、猫科だからといって「猫」と呼ばれることは想定外だったのかもしれません。FF11には「虎」(サーベルタイガーではありますが)もいますが、少しゴツくなったくらいで虎そのままの姿で登場しています(下の写真)。
なお、ゲーム制作ツールに収録する素材でも、味方キャラクターとして犬などの画像を提供しても「敵」として使われてしまうこともあって、なかなか複雑な気持ちになります。
ま、そういうコンプライアンス的(?)なことは(今回は)さておき。
現実にいる複数種の生物をかけあわせて1種のモンスターを作る方法を活用すれば、イラスト的な意味でのデザイン画なしでも、モンスターを描くことができそうです。モンスターデザインは今後も断続的に学んでいきますが、次回はひとまず「かけあわせ」でオリジナルモンスターのドット絵を描いてみようかと思います。
(つづく)