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オンラインRPGの経済に見る「法による支配」~メタバース経済とMMTを考える

うーん。前回の終わりに「FF11の経済の全体像を見つめつつ、さらに現実との類似点を探っていきます」と書きましたが、大事な前提が長くなったので、今回そこまで到達していませんごめんなさい。変化を見るために過去のFF11経済を「初期」と「中期」にわけた図は作ったんですけどね……(今回のタイトル絵になっています。

オンラインRPGの経済はお金の出入りが計算されていて、ほぼ「自動運転」できる仕組みなっています。ある意味、当たり前のことすぎて見過ごされていますが、これは極めて重要なことで、これを捨て置いては、話は進められないというわけです。

よくあるMMTについての誤解

MMTを巡る論争のなかで見かける認識に「国はお金を際限なく生み出せる」というものがありますが、これは誤解です。MMT理論の提唱者たち(これは肯定派とイコールではありません)は、一時的にお金を生み出してもそれだけでは破綻しない、景気が良くなったら税金として回収すれば良い、と述べています。

じゃあ「一時的」とはなんでしょう?

国の予算を例にすれば、1年ごとに収支をあわせようとすると無理があるから、今年や来年は赤字を覚悟して、再来年以降に取り戻そうということになります。会社の決算なども毎年毎年、1年ごとに利益を出すことを考えると、将来性はむしろ低くなると言われています。

……と言われて納得してしまった人は危ないです(また!?)。

会社が1年ごとの決算に固執しないことは(オーナーが首を縦に振れば)戦略としてありですが、経営者がそこまで信用されるかといえばどうでしょう、甘いんじゃないでしょうか。信用できないから、短期で収支をあわせるルールにしているのです(法人税で不利になることなど、他の理由もあります)。これは「人」の信用の問題であり、経済・通貨の信用とは関係ありません。人が信用されることを前提に経済の仕組みを変えることは、ゲームで経済を語るより遥かにひどい夢物語です。

この場合の経済・通貨における信用とは、確実にお金が増えるなら、確実にお金を減らす手段も講じておく、ということになります。同時に、「耳を揃えて」です。

国は税制によってそれが(一応)可能ですが、会社にはそんなことできません。もともと現在の資本主義下の"会社"とは、投資家が投資したお金を着実に少し増やすための仕組みでしかありませんから、ある意味、長期的な成長を(仕組みからして)望まれてすらいないと考えることもできます。ある事業において利益を得たら、次は別の事業でまた稼げばいい、という考え方です。雇用の創出や技術の発展による生産性の向上は「副産物」に過ぎません。

「でも、国ならできるんだな」と思うかもしれませんが、現状の政治的MMTの主張はほとんどデタラメです。小さいところも含めていくつかの政党が「MMTっぽいこと」を主張していますが、信用の部分(=あとで回収する手段)をセットで述べない時点で現実味はまったくありません。回収する仕組みを講じずに実行すれば、経済は破綻します。

ただ、MMT肯定派が言う「日本は回収する部分(=税)だけ整えすぎ」というのは確かです。通貨(国債)は発行するが、どこかに滞ってしまい、税だけは広く確実に取る」のですから、生活の実態が苦しくなるのは当然です。

制度実現のためになにが必要か

話をオンラインRPGに戻します。

オンラインRPGは現実の国や会社とは違って、1年ごとの決算の機会がありません。ここで「しょせんゲームだな、ぬるい、甘い」と言うことは簡単ですが、むしろそれは逆です。オンラインRPGの経済は1年どころか1日単位で監視され、"穴"が見つかれば早急に"修正"されます。

もしオンラインRPGの経済システムに欠陥があって、例えば「お金が増えすぎる穴」が見つかれば、プレイヤーたちが集中的にその穴を突いて(金策として多用して)お金を増やし続け、インフレが進んでいきます。

現実では多くの先進国において「政府が国債を発行し、中央銀行がそれを買い取る際に通貨を発行する」という(回りくどい)方法で市中に出回るお金の量を増やしています。ただし、これは国の予算が決められる機会だけのことです。都道府県や市区町村といった自治体が発行する地方債もありますが、発行する権限(議会)と機会は限られています。

対してオンラインRPGでは、通貨を発行させるのはプレイヤーたちです。ただし、システムが定めるルールがあって「プレイ(労働)と引き換え」になっていたり、「モノと交換」になっているだけです。これをもって「通貨発行"権"がプレイヤーにある」とは言いにくいのですが、それに近い状況にあります。権力者がいるわけではなく、ルールによって制御されているのです。

少し難しい言い方になりますが、オンラインRPGの経済は「人による支配」ではなく「法による支配」が成立している、本当の民主的な経済になっているのです。「支配」というと嫌な感じがしますが、誰かに「隷属」させられ言うことをきかないといけないというニュアンスではなく、スポーツのように「ルールが重んじられる」ということです。ただ、スポーツにも、フィギュアスケートの採点のような「人による支配」に近い曖昧で納得感の低いものもあります。

なお、先ほど「政府が国債を発行し、中央銀行がそれを買い取る際に通貨を発行する」ことを「回りくどい」と書きましたが、この「回りくどさ」は現状では(一応)必要なものです。もともと人類の歴史上にあった昔の国々では国が直接通貨を発行していたのですが、困ったときに好き勝手に発行しては制御しきれず破綻してきた歴史があるのです。なお、その「困ったとき」というのは戦争です。

現在の経済は「国は信用できない」という大前提の上に成り立っているのですが、かなり忘れられているようです。教科書には書けませんから、仕方ないのかもしれませんが。

で、国は信用できないので"直接"ではなく"間接的"に通貨を発行する仕組みとして現れたのが現在の中央銀行制度(一応、政府とは切り離されていることになっている)です。ただ日本は安倍政権下で日銀総裁に就任した黒田東彦氏が元大蔵官僚なので、政府と日本銀行は一体とも考えられており、それを知っている人は日本円を信用していません。

なお、日本は国債を発行し続け、増税も続けていることですでにMMTを実施している国と見られています。そういう意味では「やって、この程度」なのが現状ですから、現状打破のために「これ以上」を目指す一部の肯定派の意見がエキセントリックなことになる(と同時に強い反論が増加する)のは当然なのです。だから前回「現実にしがみつき続けるのはやめた方がいい」「結局、直視できてはいない」と言ったのです。

直視すべきは経済における「人による支配」の限界であり、見過ごされているのは経済における「法による支配」の必要性です。まだ四足歩行だとしても、法による支配の道を歩んでいるオンラインRPGの経済は少なくとも現実よりは先を行っていると考えられます。

ですから、逆に考えていきます。オンラインRPGの経済を現実に移植するにはどうしたら良いかを。

(つづく)


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