ディストピアに慣れすぎた
ある日、映画やドラマを観ていて思ったのです。
「フィクションを通じて、ディストピアに慣れすぎた」と。
今回は最近観た作品から、『ソイレント・グリーン』、『ウエストワールド』、『ハンドメイズ・テイル/侍女の物語』を紹介します。
『ソイレント・グリーン』
ハリー・ハリソン著『人間がいっぱい』を原作とした1973年の映画。2022年が舞台ということで縁を感じます。
2022年ニューヨーク。人口増加と環境汚染により食糧問題は深刻を極めていた。同年、合成食品ソイレント・グリーンを発表したソイレント社の社長が自宅で殺害される。殺人課のソーンが捜査に乗り出すが、その背後には政府の陰謀が渦巻いていた…。
本作は、人口爆発、格差社会、安楽死……といった今となってはおなじみの事態を背景に、新しい合成食品「ソイレント・グリーン」を巡る物語が展開されます。
あまりに古い作品なので"見せ方"が今とは少し違っており、あまり感情移入はできず、気持ちの置き所がないまま話は進み……「ですよね」という感じで終わります。
いやいや別に観る価値ないと言っているわけじゃないんです! 個展SFをネタバレを回避しつつ紹介すると、こんなもんです。設定の多くがその後の様々な作品に活かされていることを知るのも大切なことなので、観ておいて損はない作品でした。
なお、現在このタイトルを耳にする機会が多いわけではなく、そういう意味ではさほど有名な作品ではありません。それでも「どこかで聞いたことがあるような……」という人は、『ゼノギアス』(1998年、スクウェア)のプレイヤーかもしれませんね。『ゼノギアス』には「ソイレントシステム」という食料供給の仕組みがあり、『ソイレント・グリーン』はその元ネタと言われています。
『ウエストワールド』
1973年の映画をTVドラマ化した作品。原作は『ジュラシック・パーク』や『ER』でおなじみのマイケル・クライトン。
元々は西部劇版ジュラシックパークのような作品ですが、2016年にスタートしたTVドラマ版は西部劇に限らず様々なジャンルのテーマパークを舞台とし、また各テーマパークに生きるアンドロイドたちの苦悩を描きます。
TVドラマ版はまだ完結しておらず、また元々はディストピアものとはいいきれないのですが、シーズン3では映画版にはなかった外の世界が描かれます。テーマパークで無数の高度なアンドロイドが駆使されるだけあって、外の世界も「まあ、そうですよね」という感じです。
なおドラマ版製作のジョナサン・ノーランの前作は『パーソン・オブ・インタレスト』で、こちらはAIに支配され行く現代を描いた傑作。古びてしまう前に観た方が良い作品なので、未視聴の方はぜひ。
『ハンドメイズ・テイル/侍女の物語』
原作はマーガレット・アトウッド著『侍女の物語』。2017年にドラマ化され、同年俳優エマ・ワトソンさんが女性の権利を擁護する活動の一環で、同書100冊をパリに隠すというキャンペーンを行なったことで知られます。
物語の舞台は、キリスト教原理主義勢力によって支配される架空の国家・ギレアデ共和国。架空の国といっても、アメリカがアメリカでなくなっただけで、アメリカです。物語のなかでこのアメリカは、環境汚染などにより不妊が蔓延し、数少ない健康な女性が「生む機械」として扱われる世界になっています。しかも極端な監視社会です。
「ディストピアに慣れすぎた」と言いましたが、あれは嘘です。
この作品の恐ろしいところは、それらが空想的な科学技術によって実現されているわけではなく、法制度とその背景にある暴力によってのみ成り立っていること。しかも想像上のありえない宗教ではなく、トランプ前大統領を支えたようなキリスト教原理主義の「いつもの主張」が少し極端なかたちで表現されているにすぎないことです。
あるいは日本で言えば、自民党などの保守派議員の願望や、その背景にある統一教会(今、話題です☆)の教えが実現するとこうなるというビジョンであり(すでに実現しているようなものですけどね、教会のなかで)、彼らの主義主張を耳にするだけで女性がいかに恐怖を感じるかを男性も実感できてしまうコンテンツとなっています。
もっとも、「このままだと、こんな大変なことになるぞー!」というのは彼らのやり口であり、「外国が攻めてくるぞー!」と言ってミサイルを買わせたり、「エロが……じゃないや表現の自由が危ないぞー!」といって票を差し出させるのも、まさに霊感商法と同じ。
一番怖いのは、そうやって取り込まれた人がもう無数にいること。どうしたらいいんでしょうね。何かを買って済むのならぜひ買いたい、という気持ちが少しわかってしまいます。