『ヴァナ・ディール植物記』というブログがあります。先日サービス開始から20周年を迎えたばかりのFF11の世界"ヴァナ・ディール"の植物に着目してその世界観を掘り下げるほか、モデルとなった現実世界の植物についても語られるブログです。FF11関連のブログのなかで、ぼくが一番好きなブログです。
2013年からは #FF14 も扱うようになった『ヴァナ・ディール植物記』ですが、残念ながら同年に筆者さんがFF11の課金を停止し、2016年を最後に更新は途絶えています。
いまもブックマークを残しているので、先日「20周年を機に更新されていまいか?」と見に行ったのですが、過去記事に興味深いものを発見したのです。
FF11は数回の大きな拡張を繰り返してメインストーリーが追加されてきたのですが、その中の『プロマシアの呪縛』というストーリーにはエンディングテーマ(歌)が存在します。『Distant Worlds』というそのタイトルは、FFシリーズのオーケストラ・コンサートのタイトルにもなっているので、FF11をプレイしたことがない人も耳にしたことがあるかもしれません。
エンディングテーマの方の『Distant Worlds』の歌詞は英語で書かれているのですが、2009年4月4日の記事『空気ぎんしょう。』には、当時のGoogle翻訳でこれを日本語に翻訳した結果が掲載されていたのです。
よし、じゃあ13年の時を超えて、現在のGoogle翻訳と比較してみよう! というのが今回の記事の主旨です。
なお『Distant Worlds』の歌詞はそれなりに長いので、冒頭2段落のみを比較します。それとは別に記事の最後に全文も掲載しておきます。
冒頭1段落目の翻訳結果
『ヴァナ・ディール植物記』の記事タイトル「空気ぎんしょう。」はここからですね。筆者さん曰く「”ぎんしょう”って何さwひらがなで出てくると笑えるw」。
「ぎんしょう」は「吟唱」(詩歌に節をつけてうたうこと)ですね。無理に難しい言葉を使おうとして、でも漢字がわからなくてひらがなにしちゃうこの感じ……Google翻訳ちゃんにかわいさを感じたのは初めてです。AIにも幼年期みたいなものがあるのでしょうか?
それが2022年のGoogle翻訳では「空気を唱えます。」に変わっています。え~、それはつまんないよ! 大人になるって、こういうことなんだなと思い知らされます。悲しい。悲しい存在ですね、大人って!
なお、おまけで掲載したDeepLによる翻訳では「空気を詠う。」としています。こっちがいいです。
冒頭2段落目の翻訳結果
2009年には「渇きを癒してくれるときに乾燥を実行します。」と完全に誤訳していたものが、2022年には「枯渇したときに~心を癒します」と改善されているのはさすがです。
ところが"fades back"につまづくGoogleちゃん。"fade"はそれだけで「色があせる、鮮やかさを失う」という意味があり、"back"が意味する部分は重複表現なので省略してしまって良いのだと思います。なのに省略しないため2009年「フェード戻る」というつらい結果。2022年にはなぜかそのまま「フェードバック」と残存させてしまっています。
どうやらアメフト用語としての「フェードバック」という言葉(自陣に後退する意)があるらしく、Googleちゃんはこれを優先して、一般に使われない言葉をそのまま表記してしまっていると思われます。
これ、実はとても興味深い結果です。
もともとDeepLはGoogle翻訳より遥かに優秀だとされており、今回の記事でDeepLを持ち出すのはちょっとイジワルみたいに思う方もいるかもしれません。実際、今回の翻訳結果を見てもDeepLはまるで原文が"詩"であることを認識しているようでさえあり、優秀さがわかる反面で「気味の悪さ」を感じる部分があります。
ただし、やたら持て囃されるDeepLには「都合の悪い部分を省略してしまう」というクセが指摘されています。一方、Google翻訳はわからなかったり、うまく翻訳できない部分があっても、そのまま残すと言われています。
このクセの違いが"fade back"の訳の結果に表れており、Googleは"back"を消して考えなかったためにアメフト用語に釣られ、今回はたまたまDeepLの翻訳結果に有利に働いたのかもしれないのです。
このようなクセの違いにより、致命的な誤訳をしないで済むのはGoogle翻訳の方だと言われています。現状ではDeepLの方がきれいに翻訳できるため人気がありますが、わからないことを認められる"素直なGoogleちゃん"はこの先も大きく進歩していくことを予感させます。
わからないことを認め、間違いを隠さない姿勢は、人間も見習わないといけませんね。植物の観察日記のようにAIの進歩を記録し、見つめなおすことでいいことがあるかもしれません。機会があればまた、FF11の○周年のときに最新版の翻訳結果で比較記事を書きたいと思います。
(おしまい)
あとは原文とそれぞれの翻訳結果を全文掲載しておきます。興味がある方は、比較してみてください!
Distant World英語歌詞全文
2009年4月のGoogle翻訳結果全文
2022年現在のGoogle翻訳結果全文
2022年現在のDeepLでの翻訳結果全文