マインドフルネスからハートフルネスへ ~ハートを科学するハートマス研究所の認定トレーナー第一人者、森田玄氏を招いて~
1995年、スタンフォード大学名誉教授のティラー博士とハートマス研究所の共同研究が『アメリカ心臓病学ジャーナル』に掲載され、「感謝や、愛しさといった調和的で共感的な感情がストレス下で乱れがちな心拍のリズムに安定をもたらし、心臓と脳が協調して働く“コヒーランス状態” を生み出す」ことが科学的に証明されたことがきっかけとなり、「感情と心臓」の関係にまつわる研究が徐々に注目を浴びるようになって来ました。
近年の研究ではさらに、心臓のリズム(心拍変動)と脳波がシンクロすることが証明され、心臓と脳波が規則正しくシンクロし始めると、呼吸のリズム、血圧、皮膚の電気信号のリズムなども同調し、免疫力の向上や、思考がクリアになり、感情が安定し、幸福感が増すなどの精神的、身体的な様々な恩恵を受けることができることが解明されつつあります。
この度、ハートマス研究所の認定トレーナーとして日本人の第一人者であり、《コネクションプラクティス》でも日本人初の認定トレーナー(ラスール)でいらっしゃる森田玄氏をハワイからお招きして、新しい「心臓神経学」に基づいたハートマステクニックや、同研究所の研究データをもとに開発された《コネクションプラクティス》(心臓と脳を同期させ「共感」と「洞察」の相乗効果によって「感情知能」を高め、心身にレジリエンス(柔軟性、回復力)をもたらす手法)など、感情・ストレスマネジメントの最新情報をお話しいただきました。
「世界平和の答えは足元にあった」という衝撃
80年代から快医学を学んできた私は、体と心は同じものである(心身一如)という概念をベースに「命とは何か」ということを追求してきました。
一言で言うと「平和」というものを心と体の両方にもたらす手法を探し続けていたので、ハートマスの研究に出会い、心拍リズムと脳をシンクロさせるコヒーランスの手法を学び、その奥深さ、シンプルさ、簡単さに触れた時に、「青い鳥」の話のように「答えは足元にあったんだ」と気付きました。
ハート(心)はどこにあるのでしょう?
心の概念はギリシャの時代からあり、アリストテレスを始め多くの哲学者たちが思索を巡らせてきました。心臓は感情や情熱、知恵の源だと信じられていたため、ミイラを作るときも、ほとんどの内臓は取り除くけれど心臓だけ残しました。彼らは心臓が魂とつながっている「叡智の源」であると直感していたのですね。
日本語でも心臓を心の臓器と書くのは、私たちの祖先もそのことを知っていたからでしょう。
心臓と脳はコミュニケーションをとっている?
近代科学において、科学で証明できるものは測定できるものに限られるので、測定・数値化できないものは科学の対象にならないため、心で起きていることは「我々の脳の作用なのだ」と捉えられてきました。
これまでの神経学は「脳神経学」のことを指していて、脳が私たちの全ての機関をコントロールしている司令部だと信じられてきましたが、近年は、私たちの体は、あらゆる機関(システム)がつながっていて全体でバランスを取りながら生きている、それが生命なのだという新しい理解が生まれつつあります。
中でも、最も重要なのは心臓と脳のコミュニケーションシステムであることがわかってきていますが、それを研究しているのがハートマス研究所です。
ハートインテリジェンスとは?
今日の主題はハートインテリジェンスです。ハートに知性がある、ということで、それは一体どんな知性なのか?みなさんは初めて聞く話かと思います。
「叡智/知性とは、何だと思いますか?」という問いに「人類が今まで蓄積してきた情報すべて」という回答をいただきましたが、それはある意味マインドの働きです。
マインドの知性とは、人類が積み上げてきた思想、哲学、科学などあらゆる学問の蓄積によってもたらされた叡智を表しますが、私がこれからお話しするのは、「マインドの働きとしての知性」を超えた叡智のことです。
それをハートインテリジェンス(ハート知性)と呼んでいて、バランス、創造性、直感力のある生き方を司るもので、個々人の能力、健康、人間関係、達成感などと密接に関係しています。
ハートインテリジェンスは、マインドに頼った意識と理解に基づくものではなく、全く新しい理解の世界です。どこにあるかはわかりませんが、無限の叡智のプールがあって(ソースという言葉も使われます)、そこには「直感」を使ってアクセスすることができます。
私たちは「洞察」を得ると言いますが、全ての人にできるのです。
マインドの世界は限界に来ている
今、科学の世界にパラダイムシフトが起きつつありますが、言い換えれば、マインドの世界は限界にきているということ。今、世界で起きていることは混乱そのものです。
今までの知恵や叡智を使って対処しようとしていますが、環境破壊、ガンや糖尿病など、難局が次々に起きてきてどうしようもない時に、素晴らしいハートの叡智にアクセスできることがわかったことは大きな希望です。
本来、脳は迷わない
本来、正常に機能してれば脳というのは迷わないのです。答えは必ずあるのですが、混乱しているとそれがわからなくなる。これは、思考が混乱しているという意味ではありません。脳そのものが混乱しているのです。
脳には「感情脳」と「思考脳」と呼ばれる部分があります。感情脳が何かの出来事でネガティブに反応すると、思考脳は正常に働かなくなります。お互いがフィードバックシステムでつながっているので、感情脳が過剰な反応をすると思考脳も停止してしまうのです。
脳が正常に機能していない状態(混乱)でどんなに明晰に考えようとしても、出てくる答えは混乱した答えしか出て来ません。100人の人が混乱した脳でどんなに議論しても、混乱した答えしか出てこないのです。それが今の世界で起きてることです。
私たちはマインドの世界に基づいた文化の中に生きているので、失礼な言い方かもしれませんが、皆、基本的に混乱していると言えます。ですから、思考に偏っている意識をまず、ハートに落とす必要があるのです。
私たちには二つの脳がある。
これまでの科学が主に研究して来たのは脳神経学ですが、これから私がお話しするのは「心臓神経学」です。
心臓脳があるということは1991年に正式な論文で発表されていて、心臓の筋肉の周りに4万ほどのニューロンがあり、心臓が驚くような働きをしていることがわかっています。
©️ハートマス研究所
神経伝達というのは電気の量で測れます。脳にある「感情脳」としての扁桃体と心臓は、太い迷走神経で繋がっていることや、心臓から脳に送る情報量と、脳が心臓に送る情報量では、心臓からの方が100倍も多いことなどがわかってくる中で、心臓から送られる情報を整ったものにすることで「感情脳」である扁桃体も正常さを取り戻し、混乱していた脳に明晰さを取り戻せるようになることが解明されました。
心臓神経学とストレスマネジメント
こうした心臓の新たな働きが発見されてゆく中で出て来たのが「心臓神経学」です。
©️ハートマス研究所
ストレスというものがどういうふうに人間の体に生理学的影響を与えているのかについてはこれまでも脳波、皮膚伝導率、心電図、血圧、ホルモンなど元に研究されて来ましたが、新たに心臓神経学が出てきたことにより、心電図で表される心拍数の間隔のリズムパターン「心拍変動」が最も重要なパラメーターとして注目を浴びるようになってきました。
心拍リズムパターンを測ることで、嬉しさや悲しさといった、これまで「計れない」と思われていた「感情」の領域を測れるようになったこともハートマスの大きな功績で、これにより感情が科学の範疇で扱えるようになってきました。
心拍変動とコヒーランス
心拍変動は、心臓から扁桃体(感情記憶を司る)や視床(理解・認知・知能活動を司る)などに伝わってゆきますが、心拍変動パターンが不規則になると脳が混乱し、逆に心拍変動パターンが滑らかになると「コヒーランス状態」になり、冷静な判断がもたらされます。
コヒーランスという言葉は本来、「ある波とある波が、どの程度重なっているか」という意味ですが、私たちは少し違った意味で使っていて、「心臓と脳が同期している状態」をコヒーランスと定義づけています。
心臓(ハート)・思考(マインド)、そして感情がエネルギー的に調和している状態になると、感情脳も思考脳も正常に機能し始めるのです。
オランダ警察でも取り入れられているクイックコヒーランステクニック
警察の仕事は日常的に緊迫する状況と隣り合わせです。
オランダ警察では、30000人を超える警察官がこのコヒーランスのトレーニングを受けていて、記憶や体に残るストレスを、コヒーランステクニック取り入れることで軽減しています。
©️ハートマス研究所
また、コヒーランス度合いを計測するソフト『エムウェーブ』を使ったトレーニングによって、PTSDの症状を持っていた人も心が平和になり、緊張感が減り、明晰さや観察力も増し、大きな改善を感じていることが実証されています。
コヒーランステクニックは、近年、ストレスマネジメントの有効なテクニックとして多くのグローバル大企業でも取り入れられ、6週間のトレーニングで肉体的にも、精神的にも大きな効果が出ているだけでなく、トレーニング期間後にも継続した効果をもたらしています。
心臓はあらゆる機能をコントロールしている
~会場でのクイックコヒーランス体験の後で~
みなさん、今、どんな感じがしていますか?「満たされている」「静かな感じ」「穏やか」と言った声が上がっていますが、この状態をコヒーランスと呼んでいます。
クイックコヒーランスをすると、心拍変動も、血圧も、呼吸も、瞬間的に正常化しますが、これは心臓が私たちのあらゆる機能をコントロールしているという証明でもあります。
ちなみに、口の中にも何か変化を感じますか?唾液腺はストレスがかかっていると出にくくなります。私たちは常にストレス環境下にあると言っても過言ではありません。コヒーランスをすると、唾液の量だけでなく、機能(質)も向上します。こうしたコヒーランスの影響は細胞全てに起こります。
©️ハートマス研究所
©️ハートマス研究所
オキシトシン(幸せホルモン)は脳から分泌されると言われていますが、同じ量のそれが心臓からも出ていると言うこともわかっている他、心臓はドーパミン、セロトニンなどを含むホルモン系の分泌や、交感神経と副交感神経のバランスコントロールも行っていることがわかっています。不眠症の方もコヒーランスをやると治ります。
心臓が生み出す磁場について
心臓の心拍のようにリズムを刻むものは、そこに磁場を生み出しています。
「トーラス」と呼ばれる心臓からの磁場を計測&研究してゆく中で、心拍リズム(コヒーランスなのかそうでないのか)によって、心臓から生まれる磁場を通じて周りに様々な影響を与えているということもわかってきました。
©️ハートマス研究所
ちなみに、心臓から生み出される磁場は脳の磁場よりも500倍の強さがありますが、私たちは常に隣にいる人の磁場を受けていると同時に、みなさんがどういう磁場を生み出しているのか(どういう心拍リズムであるか)が周りの人に影響しているのです。
ソーシャルコヒーランスといって、40人の集団の中に3人のコヒーランス状態の人がいると皆がコヒーランス状態になっていくという実験結果もあります。
この実験は10台のテーブルに4人づつ座って、各テーブルにはコヒーランスを全く知らない人が3人、コヒーランスをできる人が1人います。計40人の参加者全員にエムウェーブを装着し、コヒーランスできる人がコヒーランスになると40人全員が一斉にコヒーランスになります。
この、周りにも影響を与えていくコヒーランスの力を地球レベルで実験しているのがグローバルコヒーランスです。
このコヒーランスのシンクロ(一致)は、人間同士だけではなく、犬や馬と人間との間でも起こることもわかっています。
心臓の予知能力?
先ほどハートインテリジェンスということをお話ししましたが、ハートの知性がどういうものかを垣間見る別の実験があります。
コンピューターがランダムに映し出す映像(可愛い動物の写真や、ちょっとドッキリするようなイメージの写真など)に、脳波と心拍変動数がどう反応するかを図った際に、私たちの心臓は4.8秒後にどんなことが起きるかをあらかじめ察知しているという結果が計測されています。ちなみに、脳は心拍の変動に1.5秒遅れて反応し始めます。つまり、心臓には予知能力があるということと、心拍変動の変化によって、これからどんなこと(不安なことなのか、心地よいことなのかまで)が起きるのかもわかってしまうのです。心臓は、4.8秒後に起こることが安心できるものなのか、怖いことなのかを常にスキャンしていると言えます。
「直感プロセス」という仮説
こうした研究結果をもとに私たちは、時空を超えた情報の場(フィールドオブインフォメーション)に心臓を介してアクセスしているのではないか?という仮説を立てています。
量子物理学の世界においては、ある粒子が同じ瞬間に二つの場所に存在するというようなことがわかっていますが、「非局在」といって時空を超えた世界に心臓を通してアクセスしているらしいということ。
そこに私たちはアクセスすることによって、脳では考えられないような叡智(情報)を手に入れることができる、とも考えられます。
コヒーランスをやってゆくと、そういうことがどんどん起きて来ます。
レジリエンスを高めるコヒーランス
レジリエンスという言葉を聞いたことがありますか?
直訳すれば「回復力」ですが、私たちはこの言葉をもう少し広い意味で「何か起きた時に備えがあること」や、「出来事が起きた時にパニックにならずに適応し、回復することができる能力」なども含めてレジリエンスと呼んでいます。
私たちがコヒーランス状態にあるとレジリエンスが高まるということもわかって来ました。地震があっても、病気になっても動揺せずに的確に判断、行動でき、元の状態に戻すことができるスキルとツールが、コヒーランステクニックなのです。
コヒーランステクニック×コミュニケーションスキル=コネクションプラクティス
ここまで、ハートマスが研究して来たコヒーランステクニックについてお話しして来ましたが、この心臓と脳を科学したテクニックに、NVCに基づくコミュニケーションスキルを加えたものがコネクションプラクティスです。
脳とハートをつなげることがコヒーランステクニックだとすれば、そこにNVC でいう「感情」と「ニーズ」をつなぐスキルを組み合わせたものがコネクションプラクティスで、「人と人の新たなつながりをサポートするテクニック」と呼べるスキルです。
コネクションプラクティスメソッドを提供する団体として日本では、2017年に一般社団法人としてラスールジャパンが設立され、現在40名の認定トレーナーがいます。
紛争地帯でも効果を上げているコヒーランス
最後にご紹介したいのはこちらの写真です。
これは紛争地帯であるシリアの難民の子どもがコヒーランスをしているところです。
100万人を超える人が故郷を追われ、難民キャンプに住んでいるところにボランティアでコヒーランスを教えに行っていますが、そこで多くの子どもたちが抱えている深刻な悩みに「おねしょ」がありました。
戦争の恐怖がトラウマになっておねしょをする子どもがたくさんいたのですが、コヒーランスを教えたら、800人の子どもたちが完全に治ってしまいました。
どんな状況であれハートにアクセスするだけで、私たちは平和と、叡智と、素晴らしい脳の機能の向上を得ることができるのです。
ソーシャルコヒーランス・グローバルコヒーランスへのお誘い
今日この場でみなさんとご一緒にコヒーランスできたことはすごく意味があります。というのは、お互いが相乗効果でコヒーランスを高めることができるからです。
同じ場所でやるだけでなく、遠くにいる方をビジョンするだけで、自分がコヒーランスになるとその人もコヒーランスになります。
私たちはこうしたコヒーランスの練習を、「デイリーコヒーランス」といって毎朝6時にZoomでやっています。ソーシャルコヒーランス、グループコヒーランスと呼んでいるのですが、毎日50人くらいでやっていますので、興味のある方は興味本位で構いませんので是非参加してください。
FaceBookでGen Moritaで検索していただいて友達申請をしていただければ、クリックで入れるようになっています。
また、冬至と夏至の日にはコヒーランスの効果が高まるので、広島の原爆ドームの前からやっています。
今年は12月22日に、広島と、アメリカのハートマス研究所と、コネクションプラクティスの創始者であるリタマリーの自宅の3箇所、同時中継でコヒーランスします。是非みなさんも参加してくださると嬉しいです。
文責:むろき優理
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「コネクション・プラクティス for Biz」基礎コース Part1~自分とつながる〜
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※2つの日程で開催予定です。
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