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超人になる! 第八回 (特別編)「ミトコンドリア進化論〜「呼吸」へのいざない」

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生きるということの中には、様々な英知が凝縮されています。
誰もが持っている「身体」と「生命」を通して、その見えざるものを掘り起こし、共通言語に変えていくことで、ヒトはヒトを超えた何かへと変容できるかもしれません。
20世紀の初頭、ニーチェは「超人」を待望しました。
そして、時代は21世紀へ……。
一つの観念としてではなく、いまここに存在する一個の生物として、いかなる状態をそう呼びうるのか? 身体レベル、細胞レベルで、実際にどう在ることが、ヒトとしてのポテンシャルを発揮できた状態なのか?

今回は、筆者である長沼敬憲の著書『カラダの中の隣人 ミトコンドリア“腸”健康法』の刊行を記念し、「超人になる!特別編」として、活動エネルギーを生み出す細胞内のミトコンドリアと呼吸の関わりについて解説します。

超人になる!

第八回 特別編「ミトコンドリア進化論〜「呼吸」へのいざない」

文●長沼敬憲


「いのち」は食べることからはじまった

生命ははじめ細胞単位で活動していました。

細胞そのものが生命(いのち)だったわけですが、生命が生命でありつづけるためには、いくつかの条件が必要でした。

ひとつは、遺伝情報をコピーしていけること。

もうひとつは、自己と他者の境界(膜)を持っていること。

そしてもう一つは、代謝すること。

最後の代謝することは、生きるためのエネルギーを生み出し、身体をつくりかえることを意味します。

そのためには、外から材料を取り込まなくてはなりません。その取り込むことが、食べるということの起源でした。

食べ物というのは、それがどんなものであれ「自分ではない何か」です。

その「自分ではない何か」が取り込まれ、「自分の一部」に変わっていく、科学の世界ではそれを異化・同化と呼んでいます。

異化は取り込んだものからエネルギーを作り出すこと。

同化はそのエネルギーを使って、体の部品を作っていくこと。

新陳代謝と言うこともありますが、この異化同化によっていのちは紡がれ、遺伝情報は継承されていきます。

その継承によって38億年という生命の歴史がつくられてきました。

その意味では、食べたものをエネルギーに変え、新しい体を作っていく代謝の仕組みは、生きることの根幹といって間違いありません。

人はなぜ食べるのか? それはつくりかえ、リモデリングが宇宙の営みそのものだからでしょう。

ただ、食べるだけでは「進化」や「発展」までは望めません。

遺伝情報がリレーされていくだけ、同じものがずっと繰り返され、延々と続いていくだけですから、ある意味で「退屈な世界」です。

進化がいいことなのかどうなのか? そこにはいろいろな考えがあると思いますが、私たちは「ただ食べるだけ」の「退屈な生き方」から一歩踏み出す道を選んだ細胞の末裔です。

退屈から抜け出すと、そこには「刺激」がありますが、刺激にはたえずリスクが付きまといます。その刺激が変容を生むきっかけになったとしても、それは決して安楽なものではありません。

そうした変化のきっかけになったのは、酸素の存在でした。

太陽エネルギーを取り込む術、いわゆる光合成をおぼえた生き物が増えていくことで、地球が酸素で覆われ、酸素の処理ができない多くの生き物は生存の危機に瀕しました。

酸素は猛毒でしたが、その酸素をエネルギーに変える荒技を生み出した生き物が、リスクと引き換えに大きな進化を遂げ、私たちの身体の細胞のもとになったわけです。

私たちの細胞は、いわば進化した細胞で、そうした酸素処理を担ったのがミトコンドリアという器官になります。

冒頭で述べた「生き物の条件」を思い出してください。

2つ目に「自己と他者の境界を持っている」とありますが、ミトコンドリアはもとは外部の生き物で、境界を侵犯し、酸素処理を担当する一器官として同化する道を選びました。

①酸化の害に悩まされていた嫌気性(酸素を嫌う)細菌が、好気性(酸素を好む)細菌と出会い、②やがて好気性細菌を取り込み、③ついには2つの細菌が合体! ④取り込まれた細菌が同化して、有害な酸素を処理して活動エネルギーを生み出すミトコンドリアに変化したと言われています。『ミトコンドリア“腸”健康法』より


「進化」を選んだ生き物たち

生き物が自他を隔てる境界を持っていることは確かですが、それは出入り自由なゆるい膜にすぎず、外部にあるものは簡単に取り込まれ、あるいは侵入し、時に身体に危害を及ぼします。

ミトコンドリアの場合は救世主のような存在でしたが、体内に侵入するという点では病原菌やウイルスと変わりありません。

なにしろミトコンドリアは、器官として同化しながらもDNAは保持していて、独自に増減を繰り返しています。

体内を構成する細胞がおおよそ60兆であるのに対し、腸内細菌だけでも100兆に及ぶと言われています。

しかも、その60兆の細胞の内部には数百から数千のミトコンドリアが存在し、私たちが生きるためのエネルギーを生み出しています。

私たちは生きるとは、存在するとはいったいどういうことでしょうか?

どこからどこまでが「わたし」なのか、そんな境界はあるようでありませんが、でも、「わたし」という個体は保たれ、「あなた」ではありません。

時計の針を20億年ほど前にさかのぼらせた時、そんな自他の複合する、無数の細胞によって組み立てられた「大きな生き物」が生まれる素地ができました。

ミトコンドリアが取り込まれることによって、細胞そのものが大きくなり、その大きくなった細胞がつながりあって多細胞化し、巨大なアパートメントのように個体を形成させていきました。

その一部は陸上へと進出していき、脳を大きくし、やがて30〜10万年ほど前に私たちの祖先であるホモ・サピエンスが生まれたとされます。

私たちの体は60 兆もの細胞の集合体であると同時に、細菌やウイルスなど様々な異物が共生しています。ミトコンドリアのように細胞の一器官として同化し、共生関係を築いたものもあり、自己と他者の境界はきわめて曖昧です。『ミトコンドリア“腸”健康法』より


食べることと呼吸すること

さて、ミトコンドリアのもとになる細胞が同化することによって、家主である細胞にどんな変化が起こったでしょうか?

ミトコンドリアは酸素処理を担当していると述べましたが、それは一般的には呼吸と呼ばれています。

食事のほかに呼吸を覚えることで生物は進化の切符を手にしました。

食べ物の成分(栄養素)だけでなく、大気中の成分(酸素)もまた、私たちの食事に変わっていったのです。

ただ食べて増えるだけだった生き物は、酸素を取り込む「呼吸」を始めたことで進化し、ヒトの道が生まれました。

となれば、呼吸の本質的な意味も見えてくるでしょう。

食べるということは生存に不可欠な行為です。それは原初の時代より営々と続けられてきた生の土台と言っていいものです。

そこに呼吸という行為が加わることで、代謝の仕込みが複雑化し、一度に膨大な量のエネルギーが生み出せるようになりました。

呼吸をするということは、いまや生存のためにこそ必要なものですが、本来は進化の起爆剤として生み出されたものと言えます。

生存に必要なものですから、自動的に取り込んでいくことはできますが、意図的に行えばそれは「進化」を呼び覚ませるということでしょう

かつて生物がその道をたどったように、まず食べることで生命の土台をつくり、そのうえで生物としてのポテンシャルを開くために呼吸について学んでいく……このプロセスが人に与えられた進化の道、すなわち「超人への階梯」と言えるかもしれません。

呼吸の話はまた次の機会にお伝えしていければと思っています。

体を動かす時に使う骨格筋は、筋繊維が束になった状態で成り立ち、体の部位によって筋肉の種類が異なっています。ミトコンドリアが多く働いている「遅筋」(赤筋)はインナーマッスルとも呼ばれ、上手に鍛えることで日常の身のこなしが軽やかになります。『ミトコンドリア“腸”健康法』
(第八回 了)



本連載の著者・長沼敬憲さんの新刊『カラダの中の隣人 ミトコンドリア“腸”健康法』が2017年6月15日より全国書店、Amazonで発売になります。20億年前に私たちの細胞に寄生し、それまで毒だった酸素をパワーに変えた立役者・ミトコンドリア。本書ではその仕組みとミトコンドリアの活性法を分かりやすく解説しています。

何か新しい健康法を試す前に、命の源である、カラダの中に隣人のことを知ってみせんか?

本書についての紹介はこちらから!

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