いま万感の想いを込めて汽笛が鳴る~壺神山 零士の宇宙と清張の古代(2)
大和田建樹の作詞による校歌のもと,浦和高校での3年間を過ごしたタケカワユキヒデ氏は,1972年(昭和47年)東京外国語大学外国語学部英米語学科に入学し,1983年(昭和58年)同大学を卒業する。休学3年,留年4年を経ての在籍11年という偉業を成し遂げる。
音楽活動を本業として,20代のすべてを大学生として通した同氏は,出来事を“大学何年生の時”と振り返るクセが身についたと,エッセイ“タッタ君現わる”で述べている。
11年の歳月は,同氏を牢名主のごとくする。
教授のうちの一人が,卒業式にあたり,同氏を “総代” に推してしまう。成績ではなく,卒業式を盛り上げる絶好の人物と見込んでのこと。総代を依頼する教務課職員の電話も,普通の学生相手ではありえない内容。
迎えた卒業式で,“総代” のミュージシャン タケカワユキヒデ氏は,11年目にして初めて母校の校歌と対面したようである。
東京外国語大学の校歌は “大学歌” と称し,1957年(昭和32年),大学創立60周年記念として,ロシヤ語学科学生(柴原徳光 氏)の作詞をもとに制作される。
タケカワユキヒデ氏は,1983年(昭和58年)の卒業式よりも4年前に,火の神ならぬ機械帝国を掌る “プロメシューム” と遭遇する。
1977年(昭和52年)少年キングに連載された漫画家 松本零士の作品 “銀河鉄道999” は,マンガ,テレビアニメーション,劇場版,これらの続編など,一大ブーム現象を巻き起こす。
あたかも大和田建樹の鉄道唱歌現象の現代版ともいえようか。
2年後の1979年(昭和54年)には,劇場用長編アニメーション “銀河鉄道999” が公開される。
この作品の主題歌をゴダイゴがリリース。
作曲は,この時東京外語大8年生のタケカワユキヒデ氏である。
主人公 星野哲郎は機械の体による永遠の命を手に入れるため,謎の美女 メーテルと銀河鉄道999号に乗車する。
経路にある星での停車時間中に,さまざまなドラマに遭遇し,経験を積み,少年から大人へと至るこころの変化を織り交ぜながら,終着駅を目指す旅である。
終着駅で鉄郎を待ち構えていたのは,メーテルが母 プロメシューム の密命を帯びて,機械帝国の生きた部品のひとつにするため,鉄郎を999号に乗せて連れてきたという事実である。
しかし,鉄郎は,限りある命こそが人間に生きる意義をもたらすということに,鉄路の旅を通して気付いており,女王 プロメシュームと対決する。
多梅稚の曲と同様に,タケカワユキヒデ氏のメロディも,月日を経てなお輝きを放つ。
2016年(平成28年)3月9日,すなわち “スリー ナイン” の日から,山陽新幹線の主要駅での発車メロディとして使用されることになる。
もちろん,“銀河鉄道999”の原作者 松本零士が漫画家を志し,東京へと旅立った小倉駅でも,新幹線ホームでの旅立ちを演出する。
1938年(昭和13年)福岡県久留米市で生を享けた零士(本名 晟あきら)は,戦時中の1944年(昭和19年)から3年間,父と母の故郷である愛媛県喜多郡で疎開生活を送る。
当初,父親の出身地である大平集落(零士の疎開時は喜多郡白滝村に帰属。後に長浜町を経て,現在は大洲市戒川の集落)に疎開するものの,標高500m程の人里離れた集落であることから,零士少年のことを気遣い,母親の出身地 新谷(当時の喜多郡新谷村。現在の大洲市新谷)に移り,新谷国民学校での2年間を地元の少年たちと過ごす。
この大平・新谷での少年時代の記憶が,科学そして宇宙への壮大な物語を創作するSF漫画家 松本零士の原点となる。
零士は,“少年と科学”と題して,大平・新谷での記憶を語る。
新谷の母親の実家から毎日見届けていた,新谷駅を経て大洲・内子間を走行する列車の惨劇も少年の目に焼き付く。
戦争体験を通じて,科学と技術の世界に引き込まれてしまった零士少年に,空想の世界が広がり始める。
新谷で科学文明の衝突を脳裏に刻み込む零士少年であるが,宇宙へのまなざしは,陸軍少佐の航空パイロットたる父親と過ごした大平に原点をみる。
伊予灘の海岸線から急峻な稜線を描いて標高971mに至る壺神山は,現在の大洲市と伊予市の境界をなす。
大平集落は,この山腹にある。
伊予灘側とは反対の急斜面にたたずむ大平からは,肱川上流部へとつづく四国の内陸部の山々を見通すことができる。
1947年(昭和22年)新谷から福岡県小倉市(現在の北九州市小倉北区)砂津に移る。
県立小倉南高等学校在学中の15歳の時,投稿した “蜜蜂の冒険” が第1回漫画新人王に入選し新人王を受賞。“漫画少年”(1954年2月号)に掲載され,同校卒業後に漫画家を目指し上京する。
小倉から東京までの20数時間の汽車の旅。零士は眠ることなく窓外をみつめる。
2023年2月13日 無限の旅に発った松本零士。“こころの古里”と慕った新谷で,同年10月28日夜,零士が少年時代に親しんだ矢落川の土手から,零士へのメッセージを託したランタン218(にいや)個が,宇宙に向けて放たれた。(新谷一万石まちおこしの会「銀河灯夜」)
「新装版 銀河鉄道999 アンドロメダ編 3」のエッセイに寄せて,“時空への旅”を続ける零士への想いをタケカワユキヒデ氏が語る。
父方ならば宇宙を語った大平集落,母方ならば汽車を目にした新谷地区,いずれもが,あの謎の美女 メーテルのふるさとである。(つづく)
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