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【映画の楽しみ方】スパイダーマンと落下の法則
映画の楽しみ方とは何でしょうか。
ストーリーか、俳優の演技か、それとも映像美か。人それぞれに映画の楽しみ方があると信じていますが、それがないというのはいささか勿体無いように思われます。そこで、私なりの映画の楽しみ方をささやかながら提案させてください。
それは「主題を発見すること」です。
主題とは、シリーズにいくつもあるシーンです。例えば、服を着替えること、タバコを吸うこと、食べること等々。そして、主題にはルール(=法則、様式)があります。だから、シーンに共通するルールを探してみましょう。
いくつか方法はありますが、ショットとフレーム・アングルは比較的わかりやすいかもしれません。ショットとは、ひとつの途切れのない映像のことです。あるショットはカットによって次のショットに移ります。また、フレーム・アングルとはカメラの位置です。上から撮るのか、下から撮るのかという類です。これらから、シーンに共通するルールを探すことができます。
実作に沿ってやってみましょう。
取り上げるのは、サム・ライミ監督によるスパイダーマンシリーズです。トビー・マグワイアを主演に迎えたシリーズ三部作ですが、特に『スパイダーマン』と『スパイダーマン2』は歴代のスパイダーマン映画でもトップクラスの評価を受けています。
さて、サム・ライミ監督のスパイダーマンシリーズで注目したいのが「落ちること」です。落ちるという主題をどのようなショットとフレーム・アングルで表現しているのか、まずは『スパイダーマン』より、バルコニーから落下するMJをスパイダーマンが助けようとするシーンをみてみましょう。
2:52からの落下シーンは、6つのショットで構成されていました。
①MJ(チャイナドレスを着た女性)とその後を追うスパイダーマンの落ち始め②上からのアングルでMJとスパイダーマンの落下途中
③落下途中のMJの並行なアングル&視点移動で落下途中のスパイダーマンの下からのアングル
④上からのアングルでスパイダーマンがMJをキャッチ&糸を上に発射
⑤下からのアングルで糸が建物にくっつく
⑥並行なアングルで地面スレスレにMJを抱えたスパイダーマン
という流れでしたね。
続いて『スパイダーマン2』より、ビルから落下するメイおばさんをスパイダーマンが助けようとするシーンをみてみましょう。
2:08からの落下シーンは、7つのショットで構成されていました。
①上からのアングルでメイおばさんの落ち始め
②斜め下からのアングルで飛び込むスパイダーマン
③上からのアングルで落下途中のメイおばさん
④下からのアングルで糸を発射するスパイダーマン
⑤上からのアングルで落下するメイおばさんに糸が届く
⑥並行アングルでメイおばさんをキャッチするスパイダーマン
⑦下からのアングルでメイおばさんを抱えて飛んでいくスパイダーマン
という流れでしたね。
では、2つのシーンをショットとフレーム・アングルから比較してみましょう。スパイダーマンとMJ、メイおばさんの体勢とアングルに着目してください。
MJの落下シーンにおける①のショットと、メイおばさんの落下シーンにおける①と②のショットを見比べると、何か気づきませんか?MJもメイおばさんも背中から落下しているのに対して、スパイダーマンは頭から飛び込むようにして落下していますよね。実は、スパイダーマンは頭から、他の登場人物は足や背中から落ちる、ということはシリーズを通してのお約束なのです。
さらに、MJの落下シーンにおける②と③のショットと、メイおばさんの落下シーンにおける③と④のショットを見比べると、スパイダーマンの落下は下からのアングルで、他の登場人物の落下は上からのアングルで、撮られていました。これによって、他の登場人物の落下では地面を意識してしまいますが、スパイダーマンの落下では地面を意識しないのです。
「落ちること」において、最大の恐怖は地面ですよね。地面にぶつかれば、命はありません。しかし、スパイダーマンの落下シーンでは、地面を意識しませんでした。スパイダーマンにとって「落ちること≠死」なのです。
サム・ライミ監督のスパイダーマンシリーズには、スパイダーマンと他の登場人物を隔てる明確な「落下の法則」がありました。この落下の法則こそが、一般人とスーパーヒーローを隔て、スパイダーマンをスパイダーマンたらしめる主題なのです。
ショットとフレーム・アングルから、シーンに共通するルールを探してみました。これだけで、映画の見方が大きく変わりませんでしたか。ルールを考えてみて、それがシーンにぴたりとはまったときは興奮ひとしおです。
しかし、それだけではありません。シーンに共通するルールを発見することは、ストーリーの見方すら変えてしまうのです。
ただ、ここからはネタバレも含むので別の機会に。
主題を発見すること。これもまた、映画の楽しみ方なのです。
※主題については、蓮實重彦さんの主題論を参考にしていますが、かなり噛み砕いた説明となっているのはご容赦ください。主題についての完全な説明というよりか、わかりやすい説明を心がけた次第です。