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【医師論文解説】驚きの事実!? 大規模研究が明かす身長とがんの意外な関係【Abst.】


背景:

身長とがんリスクの関連性については、これまで主に西洋人を対象とした研究で報告されてきました。

しかし、東アジア人を対象とした大規模な研究はほとんど行われていませんでした。東アジア人は西洋人とは異なる遺伝的背景、体格、環境要因を持っているため、身長とがんリスクの関連性が異なる可能性があります。そこで本研究では、東アジア人を対象に、身長とがんリスクの関連性を調査することを目的としました。

方法:

本研究では、中国カドリーバイオバンク(CKB)の前向きコホート研究のデータを用いて観察研究を行いました。また、韓国ゲノム疫学研究(KoGES)、バイオバンクジャパン(BBJ)、およびCKBのデータを用いて、二標本メンデルランダム化(MR)解析を実施し、身長とがんの因果関係を探りました。

観察研究では、コックス比例ハザードモデルを使用して、調整済みハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)を推定しました。MR解析では、身長に関連する遺伝的変異を操作変数として用い、身長とがんリスクの因果関係を評価しました。

結果:

観察研究の結果:

  • 中央値10.1年の追跡期間中に22,731件の新規がん発症が確認されました。

  • 身長が10cm増加するごとに、以下のがんリスクが有意に上昇しました:

    • 全がん:HR 1.16 (95% CI 1.14-1.19, P < 0.001)

    • 肺がん:HR 1.18 (95% CI 1.12-1.24, P < 0.001)

    • 食道がん:HR 1.21 (95% CI 1.12-1.30, P < 0.001)

    • 乳がん:HR 1.41 (95% CI 1.31-1.53, P < 0.001)

    • 子宮頸がん:HR 1.29 (95% CI 1.15-1.45, P < 0.001)

  • また、以下のがんリスクの上昇も示唆されました:

    • リンパ腫:HR 1.18 (95% CI 1.04-1.34, P = 0.010)

    • 大腸がん:HR 1.09 (95% CI 1.02-1.16, P = 0.010)

    • 胃がん:HR 1.07 (95% CI 1.00-1.14, P = 0.044)

メンデルランダム化解析の結果:

  • 遺伝的に予測された身長(1標準偏差増加あたり、8.07cm)と以下のがんリスクの上昇に関連が示唆されました:

    • 肺がん:オッズ比(OR) 1.17 (95% CI 1.02-1.35, P = 0.0244)

    • 胃がん:OR 1.14 (95% CI 1.02-1.29, P = 0.0233)

議論:

本研究の結果は、東アジア人においても身長の高さががんリスクの上昇と関連していることを示しています。特に、全がん、肺がん、食道がん、乳がん、子宮頸がんのリスク上昇が顕著でした。また、メンデルランダム化解析の結果は、身長が肺がんと胃がんのリスク因子である可能性を示唆しています。

これらの結果は、これまで主に西洋人を対象とした研究結果と一致する部分が多く、身長とがんリスクの関連性が人種を超えて普遍的である可能性を示唆しています。しかし、東アジア人特有の関連性も見られ、例えば胃がんリスクとの関連が示唆されたことは注目に値します。

結論:

東アジア人において、身長の高さは全がん、肺がん、食道がん、乳がん、子宮頸がんのリスク上昇と有意に関連していることが明らかになりました。さらに、メンデルランダム化解析の結果から、身長が肺がんと胃がんの潜在的な因果的リスク因子である可能性が示唆されました。

文献:

Wu, Yougen et al. “Height and cancer risk in East Asians: Evidence from a prospective cohort study and Mendelian randomization analyses.” Cancer epidemiology, vol. 92 102647. 13 Aug. 2024, doi:10.1016/j.canep.2024.102647

この記事は後日、Med J SalonというYouTubeとVRCのイベントで取り上げられ、修正されます。

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用語解説

コックス比例ハザードモデル:

生存分析で広く使用される統計的手法です。このモデルは、ある事象(例:がんの発症)が起こるリスクが時間とともにどのように変化するかを分析します。複数の要因(変数)がこのリスクにどのように影響するかを同時に評価できる点が特徴です。

調整済みハザード比(HR):

ある要因がリスクにどの程度影響を与えるかを示す指標です。例えば、身長が10cm高い群のがん発症リスクが、対照群と比べて何倍になるかを示します。「調整済み」とは、他の関連する要因(年齢、性別、生活習慣など)の影響を統計的に制御した上で算出されたことを意味します。

95%信頼区間(CI):

推定された値(この場合はハザード比)の確からしさを示す範囲です。例えば、ハザード比が1.5で95%CIが1.2-1.8の場合、真のハザード比が1.2から1.8の間に95%の確率で含まれることを意味します。CIが1を含まない場合(例:1.2-1.8)、その結果は統計的に有意とされます。

メンデルランダム化(MR)解析:

遺伝的変異を利用して、ある要因(例:身長)と結果(例:がんリスク)の因果関係を推定する手法です。この方法の利点は、遺伝的変異がランダムに割り当てられるため、交絡因子の影響を減らせることです。

MR解析では、以下の3つの仮定に基づいています:

  1. 使用する遺伝的変異が、調査対象の要因(身長)と強く関連している

  2. その遺伝定的変異が、結果(がんリスク)に直接影響を与える他の経路がない

  3. その遺伝的変異が、結果に影響を与える他の要因と独立している

これらの手法により、観察研究の結果をより信頼性の高いものとし、また潜在的な因果関係を推定することが可能になります。

所感:

本研究は、東アジア人を対象とした大規模な前向きコホート研究とメンデルランダム化解析を組み合わせた点で非常に価値があります。特に、これまであまり明らかでなかった東アジア人における身長とがんリスクの関連性を詳細に調査した点は高く評価できます。

しかし、この研究結果を臨床現場でどのように活用するかには慎重な検討が必要です。身長は遺伝的要因や幼少期の栄養状態など、個人でコントロールが難しい要因に大きく影響されるためです。むしろ、これらの結果を踏まえて、背の高い人々に対するがん検診の重要性を強調したり、がんの早期発見・早期治療の重要性を啓発したりするなど、予防医学的なアプローチに活用することが望ましいでしょう。

また、身長とがんリスクの関連メカニズムについてはまだ不明な点が多く、今後のさらなる研究が期待されます。例えば、身長と関連する遺伝子が同時にがんリスクにも影響を与えている可能性や、身長が高いことによる細胞数の増加がガン化のリスクを高めている可能性など、様々な仮説が考えられます。これらのメカニズムが解明されれば、新たながん予防・治療戦略の開発につながる可能性があります。

総じて、本研究は東アジア人における身長とがんリスクの関連性に関する重要な知見を提供しており、今後のがん研究や予防医学の発展に大きく貢献する可能性がある注目すべき研究だと言えるでしょう。

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バーチャル医療研究会編集部
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