【医師論文解説】衝撃! がん死亡者の42%は予防できた!?【OA】


背景:

アメリカでは、がんが心疾患に次ぐ第2位の死因となっています。

2019年には約160万人の新規がん患者と60万人以上のがん死亡者が報告されました。がんの予防は公衆衛生上の重要課題であり、リスク要因の特定と対策が求められています。本研究は、アメリカにおける予防可能ながんの割合を明らかにすることを目的としています。

方法:

研究チームは、30歳以上の成人を対象に、2019年のがん罹患数と死亡数のデータを分析しました。喫煙、過体重・肥満、アルコール摂取、食事要因、身体活動不足、紫外線曝露、感染症など、22の潜在的に修正可能なリスク要因を評価しました。各リスク要因とがんの関連性を示す相対リスク(RR)と、リスク要因への曝露データを用いて、人口寄与割合(PAF)を計算しました。PAFは、特定のリスク要因が存在しなかった場合に理論的に予防できたがんの割合を示します。

結果:

  1. 全体的な影響:

    • 評価された全リスク要因を合わせると、2019年のアメリカにおけるがん症例の42.0%、がん死亡の45.1%が理論的に予防可能でした。

    • これは約608,700件のがん症例と273,500件のがん死亡に相当します。

  2. 性別による差異:

    • 男性: がん症例の45.1%、がん死亡の50.2%が予防可能

    • 女性: がん症例の38.9%、がん死亡の39.6%が予防可能

  3. 主要なリスク要因:

a) 喫煙:

  • 全がん症例の16.9%、がん死亡の22.3%に寄与

  • 肺がん死亡の85.1%が喫煙に起因

b) 過体重・肥満:

  • がん症例の7.8%、がん死亡の6.9%に寄与

  • 子宮体がん死亡の52.5%が過体重・肥満に起因

c) アルコール摂取:

  • がん症例の4.9%、がん死亡の4.8%に寄与

  • 口腔がん死亡の39.6%がアルコール摂取に起因

d) 紫外線曝露:

  • 皮膚黒色腫の93.0%が紫外線曝露に起因

e) 感染症:

  • がん症例の3.2%、がん死亡の3.9%が感染症に起因

  • HPV感染が最も影響が大きく、子宮頸がんの100%がHPV感染に起因

  • がん種別の予防可能割合:

    • カポジ肉腫: 100%

    • 皮膚黒色腫: 93.0%

    • 肛門がん: 93.5%

    • 肺がん: 85.1%

    • 喉頭がん: 79.0%

議論:

本研究結果は、アメリカにおけるがんの大部分が潜在的に予防可能であることを示しています。特に喫煙、過体重・肥満、アルコール摂取などの生活習慣関連要因が大きな影響を与えています。これらの要因に対する効果的な介入策の実施が、がん予防において重要であることが示唆されます。

例えば、喫煙対策としては、禁煙支援、タバコ税の引き上げ、公共の場所での喫煙規制などが効果的です。過体重・肥満対策には、健康的な食事の推進、身体活動の奨励、砂糖入り飲料への課税などが考えられます。アルコール対策では、価格政策や販売規制の強化が有効かもしれません。

感染症対策としては、HPVワクチンの接種率向上や、C型肝炎ウイルス検査の普及が重要です。また、紫外線対策として、日光曝露の制限や日焼け止めの使用を推進することが必要です。

結論:

アメリカでは、がんの約40%が潜在的に予防可能であることが明らかになりました。喫煙、過体重・肥満、アルコール摂取などの生活習慣の改善や、感染症対策、紫外線対策の強化により、がんの発症と死亡を大幅に減少させる可能性があります。

文献:

Islami, Farhad et al. “Proportion and number of cancer cases and deaths attributable to potentially modifiable risk factors in the United States, 2019.” CA: a cancer journal for clinicians vol. 74,5 (2024): 405-432. doi:10.3322/caac.21858

この記事は後日、Med J SalonというYouTubeとVRCのイベントで取り上げられ、修正されます。

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用語解説

カポジ肉腫:

カポジ肉腫は、血管や皮膚のリンパ組織から発生する稀ながんの一種です。通常、紫色や赤茶色の斑点や腫瘤として皮膚に現れますが、内臓にも発生することがあります。主に4つのタイプがあり、最も知られているのはAIDS関連カポジ肉腫です。この研究では、カポジ肉腫の100%が予防可能なリスク要因(主にHIV感染とヒトヘルペスウイルス8型(HHV-8)感染)に起因するとされています。

相対リスク (RR):

相対リスクは、特定のリスク要因に曝露された集団のがん発症リスクが、曝露されていない集団と比較してどれだけ高いかを示す指標です。例えば、喫煙者の肺がんの相対リスクが20であれば、喫煙者は非喫煙者と比べて肺がんになるリスクが20倍高いことを意味します。

相対リスクの計算式: RR = (リスク要因に曝露された集団のがん発症率) / (リスク要因に曝露されていない集団のがん発症率)

人口寄与割合 (PAF):

人口寄与割合は、特定のリスク要因がなかった場合に理論的に予防できたであろうがんの割合を示します。つまり、そのリスク要因を完全に除去できた場合に、どれだけがんを減らせるかを表します。

PAFの計算には、相対リスク(RR)とリスク要因への曝露率(P)を用います:

PAF = P(RR - 1) / [P(RR - 1) + 1]

例えば、この研究では喫煙の肺がんに対するPAFが85.1%とされています。これは、理論的に喫煙をなくすことができれば、肺がん死亡の85.1%を予防できる可能性があることを意味します。

PAFは公衆衛生政策の優先順位を決める際に重要な指標となり、予防戦略の立案に役立ちます。ただし、PAFは理論的な値であり、実際にリスク要因を完全に除去することは困難な場合が多いことに注意が必要です。

所感:

本研究は、がん予防における生活習慣の重要性を改めて示す重要な成果です。特に喫煙の影響の大きさは注目に値します。一方で、これらのリスク要因の多くは個人の行動変容だけでなく、社会環境の整備も必要とします。健康的な選択肢を容易にする環境づくりや、効果的な公衆衛生政策の実施が求められます。また、予防可能ながんの割合が男性で高いことから、男性をターゲットにした予防戦略の強化も検討すべきでしょう。今後は、この知見を実際の予防プログラムにどのように活かしていくか、費用対効果も含めた検討が必要です。さらに、本研究で評価されなかったリスク要因や、新たに発見される可能性のある要因についても、継続的な研究が望まれます。


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