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【医師論文解説】甘いものが好きに警告! 糖分と認知症の驚くべき関連性が21万人の大規模調査で判明!?【OA】


はじめに:


世界的に高齢化が進む中、認知症は重大な公衆衛生上の課題となっています。

2019年の世界疾病負担研究によると、認知症患者数は2019年の5740万人から2050年には1億5280万人に増加すると予測されています。アミロイド関連病理を標的とした早期治療に進展がみられるものの、認知症の発症を予防することは依然として重要かつ費用対効果の高い選択肢です。

これまでの栄養疫学研究は、認知症予防における食事介入の重要性を強調してきました。過剰な糖分摂取が心血管疾患、代謝障害、全身性炎症と関連することが確認されており、これらが認知症リスクを高める可能性があることから、高糖分摂取が認知症の重要な修正可能なライフスタイルリスク因子であると仮説が立てられました。

しかし、これまでの研究は主に砂糖入り飲料などの特定の糖分源に焦点を当てており、日常的な食事全体からの糖分摂取の影響を評価した研究は限られていました。そこで本研究は、大規模な一般集団において、糖分摂取量、高糖分食パターン、および認知症リスクの関連を調査し、その基礎となるメカニズムを探ることを目的としました。

方法:

本研究は、英国バイオバンクの大規模前向きコホート研究のデータを用いて行われました。少なくとも1回の食事調査に回答した210,832人の参加者が分析対象となりました。

糖分摂取量の測定には、Oxford WebQと呼ばれる自動化されたウェブベースの24時間食事調査が使用されました。絶対的総糖分摂取量(g/日)とその亜型(フルクトース、グルコース、スクロース、マルトース、ラクトース、その他の糖)のデータが収集されました。相対的糖分摂取量(%g/kJ/日)は、絶対的糖分摂取量を総エネルギー摂取量で割って定義されました。

高糖分食パターンの特定には、縮小ランク回帰(RRR)法が用いられました。この方法により、糖分摂取量の変動を最大限説明する食事パターンが導き出されました。

認知症の発症は、英国バイオバンクのアルゴリズムによって定義された認知症転帰と初回発生データの両方を用いて確認されました。主要アウトカムは全認知症で、副次的アウトカムはその主要サブタイプであるアルツハイマー病(AD)としました。

統計解析には、Cox比例ハザード回帰モデルが使用され、糖分摂取量と認知症発症の縦断的関連が調査されました。また、制限付き三次スプライン法を用いて、非線形関連の可能性も検討されました。

結果:

平均11.80±1.66年の追跡期間中に、1877例の全認知症と781例のADが発生しました。

  1. 絶対的総糖分摂取量との関連:

    • 全認知症: HR = 1.003 [95%CI: 1.002–1.004], p < 0.001

    • AD: HR = 1.002 [95%CI: 1.001–1.004], p = 0.005

  2. 相対的総糖分摂取量との関連:

    • 全認知症: HR = 1.317 [95%CI: 1.173–1.480], p < 0.001

    • AD: HR = 1.249 [95%CI: 1.041–1.500], p = 0.017

  3. 高糖分食スコアとの関連:

    • 全認知症: HR = 1.090 [95%CI: 1.045–1.136], p < 0.001

    • AD: 統計的に有意な関連なし (p = 0.056)

絶対的・相対的総糖分摂取量と高糖分食スコアを4分位に分けた場合、最も高い群(Q4)は最も低い群(Q1)と比較して、全認知症のリスクがそれぞれ17.1%、32.3%、25.5%増加しました(すべてのトレンドp < 0.05)。

非線形関連の分析では、絶対的・相対的総糖分摂取量および高糖分食スコアと、全認知症およびADとの間に有意な非線形関連が観察されました。中央値を超える糖分摂取量で認知症リスクがより顕著に増加する傾向が見られました。

サブグループ解析では、糖分摂取の影響は中年(56-65歳)の集団でのみ有意であり、若年層や高齢者では有意ではありませんでした。また、一般的に糖分摂取の影響は女性でより顕著でした。APOE ε4遺伝子型別の解析では、糖分摂取の影響はAPOE ε4アレルを1つ持つ参加者でより顕著である傾向が見られました。

探索的媒介分析では、絶対的総糖分摂取量と全認知症およびADの関連の2.8%と4.1%がそれぞれ収縮期血圧によって媒介されており、0.7%と0.4%が好中球リンパ球比によって媒介されていることが示されました。

議論:

本研究は、大規模な一般集団において高糖分食パターンと認知症の関係を調査した初めての研究です。結果は、総糖分摂取量と高糖分食スコアが全認知症および/またはADのリスク増加と有意に関連していることを示しました。

高糖分食パターンは、新鮮な果物や乾燥果物、砂糖入り飲料などの高レベルの消費によって特徴づけられました。この食パターンは、単に孤立した栄養素ではなく、様々な食品の相乗効果を強調する包括的な情報を提供しました。

年齢別・性別の解析では、糖分と認知症の関連は中年の女性でのみ統計的に有意でした。これは、中年の女性が過剰な糖分摂取による全身性炎症や血管障害により脆弱である可能性を示唆しています。

APOE ε4遺伝子型別の解析では、過剰な糖分摂取の影響はAPOE ε4アレル保有者でより顕著でした。これは、糖分摂取と代謝障害の複雑な相互作用が一因である可能性があります。

探索的媒介分析の結果は、高血圧(特に高収縮期血圧)と全身性炎症(好中球リンパ球比で反映)が、糖分摂取と認知症の関連を部分的に媒介している可能性を示唆しました。しかし、その効果は比較的小さく(5%未満)、他の未測定のメカニズムの存在を示唆しています。

本研究にはいくつかの限界があります。食品消費データが自己報告の食事調査に基づいていること、ベースライン時の食事評価が長期的な習慣的食事パターンを反映していない可能性があること、RRRアプローチで特定された高糖分食パターンが糖分摂取の全ての変動を説明していないこと、英国バイオバンクの参加者に「健康なボランティア」バイアスが存在する可能性があること、そして主に白人英国人を対象としているため結果の一般化に限界があることなどが挙げられます。

結論:

本研究は、食事からの糖分摂取が認知症リスクと関連していることを示す証拠を提供しました。一般集団において、高糖分食は特に全認知症の重要な修正可能なリスク因子である可能性が示されました。

過剰な糖分摂取は、先進国と発展途上国の両方で依然として健康を脅かす問題です。本研究の結果は、糖分摂取の制御が将来の認知症発症を予防する上で大きな意義を持つ可能性があることを支持しています。

文献:

Zhang, Sirui et al. “Associations of sugar intake, high-sugar dietary pattern, and the risk of dementia: a prospective cohort study of 210,832 participants.” BMC medicine vol. 22,1 298. 18 Jul. 2024, doi:10.1186/s12916-024-03525-6

この記事は後日、Med J Salonというニコ生とVRCのイベントで取り上げられ、修正されます。

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用語解説:

縮小ランク回帰(RRR)法:

栄養疫学研究で用いられる統計手法です。特定の栄養素摂取量(この研究では糖分)の変動を最大限に説明する食事パターンを特定するために使用されます。食品グループの摂取量と特定の栄養素摂取量の関係を分析し、最も関連の強い食事パターンを導き出します。

Cox比例ハザード回帰モデル:

生存分析に用いられる統計手法です。ある事象(この研究では認知症の発症)が起こるまでの時間と、その事象に影響を与える可能性のある要因(この研究では糖分摂取量など)との関連を分析します。「ハザード比」を算出し、各要因がどの程度リスクを増減させるかを評価します。

縦断的関連:

時間の経過に伴う変化や影響を調査する研究方法です。この研究では、長期間にわたって参加者を追跡し、糖分摂取量と認知症発症の関連を時間軸に沿って分析しています。

制限付き三次スプライン法:

非線形の関係を柔軟にモデル化する統計手法です。この研究では、糖分摂取量と認知症リスクの関係が単純な直線的関係ではなく、より複雑な形状を持つ可能性を検討するために使用されています。

APOE ε4遺伝子型:

アポリポプロテインE(APOE)遺伝子の一つの変異型です。APOE ε4アレルを持つことは、アルツハイマー病を含む認知症のリスク因子として知られています。この研究では、APOE ε4遺伝子型の有無によって糖分摂取の影響が異なるかを分析しています。

探索的媒介分析:

ある要因(この研究では糖分摂取)が結果(認知症)に与える影響が、他の要因(血圧や炎症マーカーなど)を介して間接的に生じている可能性を探る統計手法です。直接的な影響と間接的な影響の割合を推定することで、より詳細なメカニズムの理解を目指します。

これらの高度な統計手法や遺伝学的概念を用いることで、研究者たちは糖分摂取と認知症リスクの関連をより詳細かつ多角的に分析することが可能となっています。

所感:

本研究は、大規模なコホートを用いて糖分摂取と認知症リスクの関連を詳細に調査した点で非常に価値があります。特に、単に総糖分摂取量だけでなく、高糖分食パターンを特定し、その影響を評価した点は革新的です。

結果は、過剰な糖分摂取が認知症リスクを増加させる可能性を示唆しており、これは公衆衛生的に重要な意味を持ちます。特に、中央値を超える糖分摂取で認知症リスクが顕著に増加する非線形関係の発見は、適切な糖分摂取量の目安を設定する上で有用な情報となるでしょう。

しかし、この研究はあくまで観察研究であり、因果関係を証明するものではありません。また、食事調査の方法や対象集団の特性など、いくつかの限界点もあります。

今後は、糖分摂取と認知症の関連メカニズムをより詳細に解明する研究や、糖分摂取を制限することで実際に認知症リスクが低下するかを検証する介入研究が期待されます。また、様々な人種や文化圏での検証も必要でしょう。

本研究の結果は、認知症予防における食生活の重要性を再確認するものであり、臨床現場や公衆衛生政策に大きな影響を与える可能性があります。糖分摂取の適切なコントロールは、比較的実行しやすい認知症予防戦略として、今後さらに注目されるべきでしょう。


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バーチャル医療研究会編集部
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