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【イグノーベル賞2024人口統計学賞医師解説】110歳超えは本当か?研究が明かす長寿の真実【OA】


背景:

人類の極限的な長寿、特に110歳を超える「スーパー百寿者」の存在は、長年にわたり科学界の注目を集めてきました。

特定の地域に長寿者が集中する「ブルーゾーン」現象は、健康的な生活習慣や遺伝的要因との関連性が指摘されてきました。しかし、この研究は、これらの長寿記録の信頼性に疑問を投げかけ、驚くべき新たな視点を提示しています。

方法:

研究者たちは、アメリカ、イタリア、フランス、イギリス、日本の公的記録を詳細に分析しました。

彼らは、スーパー百寿者や準スーパー百寿者(105歳以上)の出生地や死亡地のデータを収集し、それらを地域の社会経済指標と照らし合わせました。また、出生証明書の導入時期と長寿記録の関係性も調査しました。さらに、長寿者の誕生日の分布パターンも分析の対象としました。

結果:

  1. アメリカにおける出生証明書の導入:

    • 州全体で出生証明書が導入されると、スーパー百寿者の数が年間80%、人口当たり69%減少しました。

    • アメリカのスーパー百寿者記録の82%が、州全体での出生証明書導入以前のものでした。

  2. イタリアの長寿パターン:

    • 55歳時点での平均余命が高い地域ほど、95歳以降の死亡率が高くなる傾向が見られました。

    • 55歳までの生存率が高い地域ほど、100歳、105歳、110歳までの生存率が低くなりました。

    • 失業率が高く、90歳以上の人口が少なく、経済状況が悪い地域ほど、スーパー百寿者の割合が高くなりました。

  3. フランスの長寿分布:

    • 海外県や旧植民地、コルシカ島などの歴史的に管理が行き届いていない地域に、スーパー百寿者が集中していました。

    • これらの地域は、フランス本土の1.7%の人口しか占めていませんが、スーパー百寿者の15.5%を占めていました。

    • 貧困率が高い地域ほど、スーパー百寿者の割合が高くなりました。

  4. イギリスの長寿パターン:

    • 所得剥奪指数(IDOP)が高い(つまり、高齢者の貧困率が高い)地域ほど、105歳以上の長寿者の割合が高くなりました。

    • 犯罪率が高く、健康状態が悪く、貧困率が高い地域ほど、長寿者の割合が高くなりました。

  5. 日本の長寿分布:

    • 貧困率が高い地域ほど、100歳以上の長寿者の割合が高くなりました。

    • 1人当たりのGDP、最低賃金、財政力指数が低い地域ほど、百寿者の割合が高くなりました。

  6. 誕生日の分布パターン:

    • スーパー百寿者の誕生日は、月の1日や5の倍数の日に集中する傾向が見られました。

    • 特に日本とアメリカのスーパー百寿者は、月の1日生まれの割合が異常に高くなっていました。

議論:

この研究結果は、極限的な長寿記録の信頼性に疑問を投げかけています。通常、貧困や高い犯罪率、低い健康状態は寿命を縮める要因と考えられますが、この研究ではむしろ逆の相関が見られました。これは、長寿記録の多くが誤りや詐欺的行為によるものである可能性を示唆しています。
研究者たちは、過去に発見された高齢者データの大規模な誤りの事例(日本での23万人の百寿者の「消失」、ギリシャでの72%の百寿者の誤り等)を挙げ、これらの問題が広く認識されていないことを指摘しています。
また、従来の文書による年齢確認方法の限界も指摘されています。文書の一貫性や有効性が確認されても、それが実際の年齢の正確さを保証するものではないという点が強調されています。

結論:

この研究は、現在の長寿記録の多くが、実際には文書の誤り、身元詐称、または年金詐欺などの結果である可能性が高いことを示唆しています。研究者たちは、文書に基づく年齢確認から、アミノ酸のキラリティや同位体崩壊などの物理的特性に基づく生物学的年齢測定への移行を提案しています。

文献:Newman, S. J. (2019). Supercentenarian and remarkable age records exhibit patterns indicative of clerical errors and pension fraud. bioRxiv, 704080.

この記事は後日、Med J SalonというYouTubeとVRCのイベントで取り上げられ、修正されます。

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所感:

この研究は、長年信じられてきた極限的長寿に関する、非常に挑戦的な内容です。特に、社会経済的指標と長寿の逆相関という発見は、公衆衛生学や老年医学の分野に大きな影響を与える可能性があります。
この研究を契機に、年齢確認の方法論を再検討し、より精度の高い生物学的年齢測定法の開発を進めることが重要でしょう。
また、この研究結果が、高齢者の健康増進や長寿研究に対する社会的な取り組みを萎縮させることがないよう注意が必要です。むしろ、より正確なデータに基づいた、実効性の高い健康政策の立案につながることを期待します。
今後は、長寿記録の検証方法や、高齢者データの管理システムの見直しも必要となるかもしれません。この研究は、私たち医療従事者に、データの信頼性と解釈の重要性を改めて認識させる、貴重な機会を提供したと言えるでしょう。


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